第2話

「――でね、部長が逢魔もたまには顔を見せろ! ってこう目をつり上げて」

「部長らしいわね」


 勇紗と合流して中庭に移動した訳だが、隣で不思議そうな顔を向けてきた。


「優ちゃん、それだけ?」

「購買に寄ったのだけれど食べたいパンが売り切れてて」


 遅かったのもあったが、あまり食べる気がしなかったのでゼリー状の栄養補助食品だけ買ってきたのだ。

 ちなみにもも味である。


「口開けて?」

「?」


 口の中に、優しい甘さが広がる。


「卵焼き?」

「どう? まだ練習中なんだけど」


 もぐもぐと咀嚼しながら首を縦に大きく振る。

 美味しい。甘い物、好きだし。


「よかった。こっちもどうぞ」


 とタコさんウィンナーを差し出されて思わず頬張る。


「ありがとう」


 最近自炊し始めたにしては、とても上手いと思う。


(――――って、わたくしは餌付けされてる訳じゃないんだから!)


 目の前にいる人物は勇者で、過去の敵で。


 でもニコニコと嬉しそうにしている勇者を見ていると、そんなことどうでもよく感じてくる。


 まあいいかと、逢魔はつられて目を細めた。


 ――と、昼休みは無事に終わったわけだが、我ながら最近勇者に振り回されすぎではないだろうか。


 こんなことでは、魔王としての立場が脅かされてしまう。


 いや、実際のところ、もう魔王ではないのだが。


 そんなことを眉間に皺を寄せながら考えていると、勇紗が神妙な面持ちで外を見ていた。


「優ちゃん、見て。校門で何かあったのかな」


 勇紗の視線の先を見やると、開いた窓から何やら騒がしい声が聞こえてくる。

 目線を落とすと、校門の前で主に女子生徒を中心とした人だかりが出来ていた。


「とりあえず、行ってみましょう」

「うん」

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