第8話

学校近くの川まで辿り着いた逢魔は見知った姿が視界に入ると、走る速度を緩めて会話が聞こえる程度の距離を取った。


 丁度橋の袂に居たので、その物陰に隠れると用心深く耳を澄ませる。


「――――来るんだ」

「嫌だ!」


 二人はどうやら言い争っているようだ。

 告白ではなかったのだなと、逢魔は勝手に頷いて納得している。


 では告白ではなかったのなら何が起こっているのだろうかと頭を巡らせる。

 そしてある結論に思い当たる。


「人攫い!」


 目を見開き、勇紗を振り返った。


「きゃ!」


 何が起こったのかは見えなかったが勇紗が小さく悲鳴を上げた瞬間、逢魔は飛び出していた。


「貴様、わたくしの聖に手を出すとはいい度胸ね」


 男の前に立ち、胸倉を引き寄せる。


「え、優ちゃん?」


 しゃがみ込んでいる勇紗を横目で見ると、少し膝を擦り剥いている。

 それを見た逢魔は久々に、自身でも抑えきれない程の激昂が湧き起こるのをに感じていた――――。


「は? 俺は…………」

「是非もなし!」


 黒い瞳が鋭く光る。

 逢魔は跳躍すると相手の顔面に向かい膝蹴りを食らわせ、地面に着地すると同時に今度は腹部へ向けて追撃する。

 抵抗する暇も与えられない男は、宙に舞うと無慈悲に地面へ叩きつけられていた。

 

 逢魔は長い黒髪を靡かせながら大きく息を吐くと、勇紗へと向き直った。


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