第27話 モイアの町④
「約束っすよ。やっと抽選で選ばれて、一か月も前から楽しみにしてたっすのに……!」
「あなた、わたくしの決定に意見するつもり?」
「え、いや、そんなつもりじゃ……」
「わたくしの言うことは絶対ですわ。たとえ天の声に反することがあっても。そうよね、あなたたち?」
彼女の威圧感のある問いに、周りは
「はい! エレノア様!」
と、姿勢を正し即答する。
大柄の男も、それにつられて
「は、はいっす!」
と、叫んだ。
エレノアはにこりと微笑むと、また俺たちの方に顔を向けた。
「ごめんあそばせ。躾がなってなくて」
「……」
彼女のファンは皆、彼女に絶対従順のようだ。
俺にはよく分からない世界だが。
とにかく、彼女と一緒にダンジョンへ行くつもりはないと、はっきり言っておいたほうがよさそうではある。
「あの、俺たち、二人だけじゃないんです。他のグループメンバーと待ち合わせしていて……」
「あら、 そうでしたの。でも一緒に行くことはできますわ」
まあ、そうなんだろうけど。
エレノアは、どうしても俺に付いていきたいと思っているのか。
断ったら断ったで、周りの取り巻きからの視線が痛い。
「お~い」
と、そこにきて、囲いの向こう側からブルの声がした。
目をやると、ブル、リザ、チーコの姿があった。
「ああ、ちょうど来たみたいなんで。俺たちはこれで」
俺はアンナと一緒に、すいませんといいながら人をかき分け、そそくさとその場から離れ三人のもとへ向かった。
「なになに? こんなに囲まれちゃって、どうしたの? てゆうか、あれ誰?」
リザの問いに、俺はV.Cのエレノアという人だと教えた。
「へぇ~」
「あー、たしか……。初の貴族令嬢がデビューとかなんとか、前に見たことあるな」
と、ブル。
チーコも名前は知っているようで、そうそうと、うなずいた。
「ちょっとここから離れた方がよさそうだ。他のみんなは?」
「まだだな。徳さんは飯食ってくるって、俺たちとさっき分かれた。すぐ来るだろうけど」
今日もグループメンバー全員、集まる予定だ。
噴水横の水時計を見ると、予定時間まではあと十分ほど。
なら、ここで待ってた方がいいか。
だがそうなると……。
「お逃げにならなくても、いいではありませんか」
エレノアが近寄ってくる。
そして取り巻きのファンが、俺たちの周りをぐるりと取り囲んだ。
逃げられないように隙間なく。
彼女を間近で見て、リザは「わ~高そうな服」と言い、
ブルは「……綺麗だな」と呟き、
チーコは、ただ、ふーんという感じ見ていた。
「はじめまして。わたくし、V.Cのエレノア・バーナードと申しますわ。アンナさんのグループの方々ですわね。皆さんのお名前を教えてくださるかしら?」
柔らかな笑みを浮かべている彼女。
初対面の三人にも親密に接してきた。
リザがまず「あたし、リザ。よろしくね」と名乗ると、
チーコも「チーコです」と続く。
そして、ブル。
なぜかボーっとしていたので、横からチーコに小突かれた。
「……あ、俺はブルっていいます。よろしくお願いします」
頭をかきながら丁寧な感じで名前を言う。
一通り自己紹介が終わったところで、
「さて、ユウヤさん。それでは一緒にダンジョンへと参りましょう」
と、エレノアがこちらへ顔を向けた。
もちろん俺は、そんなつもりはない。
「まだ、あと五人くらい来る予定なんで……」
「そうですか。では、パーティの編成を考えておきましょうか?」
たしかに十人いっぺんにダンジョンへ入るのは、ちょっと多いかもだが。
いや、彼女も含めたパーティ編成のことを言っているのか。
「え? 一緒に行くの?」
と、リザがたずねてくる。
「いや、そんなつも……」
「はい。先ほど、そのように約束しましたので」
否定しようとしたら、かぶせるようにエレノアは答える。
もうやんわり断るタイミングを失ってしまった。
……やはり、はっきりと一緒には行きませんと言った方がよかったかもしれない。
俺はアンナを見る。
彼女も俺を見て少し笑い、軽くうなずいた。
まあいいかと思いつつ、俺は苦笑いするしかなかった。
「それでは四人ずつ、どのように分けるのか。決めることにしましょう」
「四人、ですか?」
パーティの編成と言ったが、みんなで一緒に行ってもいいのではないか。
そもそも、彼女のファンの人たちとも一緒に行けるだろうに。
俺の疑問にエレノアは
「こちらのダンジョンに入るのは初めてですか?」
と、聞いてきたので「ええ」と答えた。
彼女によると、ここのダンジョンは、幾つかの特徴があるという。
一つは、入る人によってマップの形状が変わるということ。
これは、王都でサバロフから聞いたことだから知っている。
もう一つは、同時にダンジョンへ入れる人数が、最大四人だということだった。
一人ひとり別々にダンジョンへ足を踏み入れたら、もうそれぞれが別の場所になっている。
同時に入れば同じ場所なのだが、それが最大で四人だというのだ。
それより多いと、ダンジョン内に入れないそうだ。
また妙なダンジョンだなと思ったが、思い起こせば以前、一人でしか入れないダンジョンへ行ったことがあったか。
転送陣でしか入れないダンジョンなのだが、一人入ったら他は誰もダンジョン内に転送できなくなるのだ。
俺は一人だけだったので、特に問題はなかったわけだが。
「そういうわけで、わたくしとユウヤさんのパーティは、他に誰がよいでしょうか? やはりアンナさんもご一緒に?」
「俺とエレノアさんが一緒のパーティって、もう決定済み、ですか……」
「もちろん」
にこりと笑顔で言うエレノア。
まあ、それは決定事項なんだろう。
周りの取り巻きからは、ギロリと睨まれる。
「ちなみに、わたくしも配信の予定ですわ。アンナさんと一緒に、あなたの戦っているご勇姿を配信してさしあげますわ」
「あの、俺は戦うつもりはないです。みんなの付き添いというか、後ろから見ているだけの予定で来たというか」
「あら……」
「それと、そもそもアンナは配信する予定はないんで」
「そうでしたの?」
「は、はい。配信はお休みしていまして……」
エレノアにたずねられたアンナは小さく答える。
「そうですか。合同配信があるみたいなので、てっきりそれで来ていたものかと」
「合同配信?」
「ええ。今日ここで行われるらしいですわ。わたくしは別に参加予定ではないのですが」
そう言うと彼女は視線を別の方向に移した。
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