第22話 商人の店で②

「サバロフは武闘大会を見に行っていたんだ」


「うむ。ファルークと一緒にな」


 国王と、か。

 聞くところによると、国王はお忍びで出かけることが多いらしい。

 その間、城にいるのは影武者という。


「まったく、奴の武闘大会好きにも困ったものだ。まあ私も仕事のついでだったし、楽しめもしたがな」


 わざわざラミダス帝国までお忍びで赴くとか、国王って大丈夫かとも思うが。

 一応、危険はないと判断しているからいいのだろう。


「これを見てみなよ。お前さんと戦いたいって人がいるんだぞ」


 サバロフは読んでいたニュース紙を俺に見せる。


「ん? どれどれ……」


 手渡されたアクタ・ジャーナルのニュース紙。

 一面には世界武闘大会での記事が書かれていた。

 そして続く二面からは大会出場者へのインタビュー記事だった。



『フリッツさん。世界武闘大会での優勝、おめでとうございます』

『なに、我々からすれば当たり前のことさ』

『そして近々、ラミダス帝国の遠征隊に加わるらしいのですが』

『ああ。彼らと共に一週間後、最果ての地へと赴く予定だ』

『素晴らしいですね。攻略が一向に進展しない状況を、ぜひとも打破していただきたいと思っております』



 最果ての地に行くのか……

 個人含め多くの探検隊が攻略しようとはしているが……そのほとんどは失敗している。


 そもそも手前の土地すら満足に攻略できないのに、引き返すことなく無理に進んで死ぬ人も多い。

 最近も、有名な大富豪が最果ての地に向って死んでしまったとニュースになった。



『ところで昨今、巷でニュースとなった、ユウヤという人物をご存じでしょうか?』

『なんか結構強い奴がいるとかあったな。そいつの名前だっけ?』

『はい。彼について何か興味はおありでしょうか」

『特にないな。情報もないし、どうせまた大したことない奴だろう』

『彼は、相手が装備していたファーブレ工房製の剣を一撃で折ったというのですが』

『なに? ハッハハハッ! 相手はどれだけ手入れを怠っていたんだか。で、そいつの攻撃値はいくつだったんだい?』

『スペクタクルズが故障していたらしいので、わかりませんでした。しかしファーブレ工房製の剣は274でしたので、それを折るとなると倍の550くらいはありそうなのですが……』

『世界最高の攻撃値は、フリッツが持つ大剣の515だぞ。ありえんな』

『はい。おっしゃる通り、相手が剣を粗末に扱っていた結果でしょう。しかし、それでも折ったとなれば、最低でも1.5倍の400以上はあると予想されます』

『ほぉ。なかなかのもんだな。武闘大会予選を突破できる力はあるかもしれんな』

『ランドルフさんの剣の攻撃値は492でしたね。どうですか、彼に向けて何か……』

『なるほど。まあそれが本当なら、いつか戦ってみたいね』

『ありがとうございました』



「ふうん」


「ハハ。興味ないみたいだな。まあ、お前さんの相手には全くならんだろうし」


 どちらかというと、最果ての地に行くという記事が気になった。

 軽い気持ちで考えてなければいいんだけど。


「なら、興味がでそうな話を一つ。いや、もう知ってるかもしれんが、無間のダンジョンのことは」


「何それ?」


 彼によると、三か月ほど前、サヘラン王国領内にあるモイアという町に出現したダンジョンのことらしい。

 どうやらそこは普通のダンジョンではなく、いまだ全てを攻略できていないそうだ。


「モイア……ああ、あの町か。領内で出現のダンジョンで三か月も攻略できていないのか」


「うむ。なにやらそのダンジョンはな、入る人間によってダンジョン内のマップが変化するんだと」


「へえ……」


「しかも一度戻って入り直すと、また変化してしまう。だから地図を作っても意味がない。また一つずつ攻略しなければならないのさ」


「でも、それだけで? 強い人だったら一気に攻略できるだろう?」


「今のところダンジョンの終わりがないらしいんだ」


 彼が聞いた話によると、最高到達地点は地下32階らしい。

 あくまで一か月くらい前の話なので、今は更新されてるだろうというが。


 32階とか、数字だけ見るとあまり進んでいる感は無いが。

 しかし、そんなに攻略できないダンジョンなのかと少し興味がわいた。


 新マップの攻略難度は基本的に、サヘラン王国など旧七国から遠いほど難しい。

 逆に王国領内で出現したダンジョンなどは普通、そこまで強くなくても攻略可能だ。

 カルミナ近郊に出現した塔のように、だいたい早い者勝ちなのだ。


 もちろん難度の高いダンジョンが出る時はある。

 とはいっても、そういうダンジョンも、強い人が多い国や自治都市の探検隊、著名なギルドや配信者事務所なら、一ケ月以内には攻略できるはずだ。

 


「ユウヤ。何、話してるんだ? 俺も混ぜてくれよ」


 ブルが階段から降りてきた。

 その後ろからユア、そしてアンナとリザも。

 

「いいでしょ、この服?」


 と、リザがポーズをとった。

 三人とも、新しい防具を装備をしている。


 ブルは外見上、今までとそう変化はない軽鎧ライトアーマーだ。

 リザはハーフだったパンツがショートになり上着もへそ出しになって。

 まあ動きやすいから選んだのだろうか……。


 えっ?と思ったのは、少しモジモジしているアンナ。

 上半身は妙にボディラインが出ている白と赤の縞模様ニット。


 そして下半身、今まではくるぶしまであるロングスカートだったのだが、ミニスカートになっている。

 その代わり腿まであるブーツを装備していた。


「どう? 結構似合ってない?」


「あ……うん」


 ミニスカートだからといってブーツのおかげで8割ほど生足は隠れているが、残りの太ももの一部分は見えている。


「じ、じろじろ見ないでください……」


「ご、ごめん……」

 

 ミニスカートの方だけではなく、上半身の方にも視線がいってしまう。

 今まで気づかなかったが、スタイルが結構いいのだ。

 アンナは着痩せするタイプなんだな、とか思ってしまった。


「アンナってば、別のがいいって言うのよ。そんなことないよねー」


「そ、そうだね」


「 俺はもっと露出が多くてもいいと思うがな」


 そう言ったブルをアンナとリザが、じろりと睨む。


「あ、いや。動きやすい服のがいいんじゃないかってことだぞ?。リザみたく、そういう服装の方がさ」


「これでも十分動きやすいですよ!」


 アンナは少しむくれていった。


「ブルが言うと、なんかイヤらしく聞こえるんだよね」


「なんでだよ……」


 使われている素材が良いものらしく、とりあえず防御値としては装備できる中で一番上だったらしい。

 

「と、とりあえず。みんな、それでいいね?」


 俺はユアから渡された書類にサインと印をする。

 武器類も決めてあり、これで全ての装備品を新調した。

 今装備できる中では最高のものだろう。


「ありがとうございます、ユウヤさん」


「ありがと~!」


「さあて。新しい武器も手に入ったことだし、これで俺も結構強くなったかな。確かめるにはどうすっか……」


 ブルは、ちらっと俺を見た。

 また一緒に修行しないかと言ってきたのだ。

 

「それか、どっか俺が行けそうなダンジョン、知らねぇか?」


「それなら……」


 と、俺はさっきサバロフが話していたダンジョンのことを伝えてみた。


「おー、知ってるぞ。行ってみようとは思ってたんだ。おっし、次はそこ行ってみっか!」


「あたしも行ってみよっかな」


 ブルやリザは乗り気だ。


「気をつけなよ。ギリギリまで進んだら帰れなくなるから、ほどほどで戻らないと」


「え、ユウヤも来てくれるだろ?」


「俺も?」


「たまにはみんなと一緒にいこーよ」


「そうそう。なあに、ユウヤは後ろで見てくれているだけでいい」


 俺がモンスターを倒したら意味がないからな。


「ユウヤは今までほとんど一人だったんだろう? これを機にみなと行動を共にしてみるのも良いぞ」


 サバロフがいうように、俺はグループの誰かとダンジョンに行ったことはない。

 誘われても、何かと理由をつけて断っていた。


「んー。まあ別にいいけど」

 

「そうこなっくっちゃ! アンナも行くでしょ」


「私もですか?」


 アンナはダンジョン攻略とかはほとんどしない。

 俺が知っている限りでは、この一年でどこか攻略に行ったというのは一回しかないのだ。


「ユウヤさんが行くなら……」


「決まりね!」


 もちろん、他のメンバーも誘うことになった。

 徳さんはいわずもがな、ミカもチーコも多分一緒に来るだろう。


 あとの三人はどうなるかわからないが。

 とにかく、俺は初めて、グループのみんなと一緒にダンジョンへ向うことになった。

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