第23話 商人の店で③
『夢見の面影』に帰ると留守番のみんなは早速、装備の変化に気づいた。
特にアンナがミニスカートになったのには驚いたようだ。
「へぇ~。似合ってるじゃない」
ミカがまじまじと見つめる。
「ちょっと、はずかしいですけど」
「なに言ってんの。そのくらい可愛い方がいいのよ。こう、もうちょっとスカートを上げて……」
「や、やめてください……」
完全に為されるがままになっているアンナだった。
「あんたは、あんまり変わっていないわね」
チーコがブルに言うが
「見た目はな。だが装備値は、めっちゃアップしてるぞ。俺が今装備できる最高のやつだ」
と、胸をたたいて自慢げに言った。
そして布に包まっていた斧を見せる。
三日月の形状をした刃が特徴のバルディッシュだ。
「ふーん。けっこうカッコいいね」
「実は新品の斧じゃなくてな。ぶっちゃけ大剣にしようかとも思ったんだが。まあ慣れてる武器種の方がいいしな」
中古だとはいっても別に刃こぼれとかはしていないし、手入れはきちんとされている。
それどころかカスタマイズが施されていて、元の状態に比べ軽くなったのに攻撃値は上昇しているのだそうだ。
カスタマイズは特定の技術を持つ職人しかできないので、結構レアものだ。
彼の装備品は攻撃値81と防御値52の武器防具、合わせて20万Cで譲ってもらった。
アンナは5万Cほどでいろいろと。
武器は魔力を増幅させる杖と護身用の短剣。防御値18の服。装飾品のタリスマン。
それと、武器ではないがハープを購入した。
彼女が歌う時に使うものだ。
リザも5万Cちょっと。
武器は攻撃値25のアサルトダガーに投擲用の短剣。防御値16(見た目に反して意外とあると思った)の服。
その他、装飾品や予備の品々を。
アンナのメイン装備は元々のと比べたら、これでも強くなっている。
それもそのはずで、この一年(もしかしたらずっとかもしれないが)、装備品を新しくすることは全然なかったのだ。
「ユウヤさん、お持ちしましたよぉ~」
ユアが外から声をかける。
食材を荷馬車に詰め込んで持ってきてくれたのだ。
それらを、彼女に加えて俺とブルが厨房の食材置き場に移動させる。
ユアは食材が入った木箱を片手で楽々と持ち上げていたので、手伝う必要がなかったかもだが。
一通り片付いたあと俺は、留守をしていた三人にユアのことを紹介した。
実はサバロフの提案で、店の手伝いをすることにもなっていた。
「初めまして! わたし、ユアと申します。このレストランのお手伝いをすることになりました!」
そう言うとユアは、三人に両手で握手をする。
キスもするだろうとは思っていたが……それはチーコにだけだった。
「わたしにはー?」とミカがせかしたら、彼女にもやってくれたが。
そのあと俺は、チーコ、ミカ、徳さんの三人にも装備を新調するため、一緒にサバロフの店に戻ることにした。
「じゃあ、あたしたちはどうしよっか」
リザが言うとユアが
「早速、お料理を作りましょう! ユウヤさんたちが戻ってくるまでに、たくさん美味しい料理を作っておきましょう!」
と、張り切っている。
「そうですね。そろそろ食事の時間も近いですし」
アンナも同意した。
「よ~し。あたしも手伝うよ」
リザは意外と料理がうまい。
アンナと一緒に、よく料理をしているからなのだろう。
というよりカルミナでは、アンナとリザ以外が食事を作っているところを見たのは数えるぐらいしかない。
ブルは手伝いをしているのを見たことはあるが、食材を切ったりするくらいで、味付けをしたりするということは一切なかった。
チーコは食べ専で、そもそも手伝うのは食材を出し入れしたりするくらいだった。
♢♢♢
~サバロフの店 二階~
「これだと……ちょっとねえ。もう少しこう、今着てるようなのってない?」
「今のって?」
「もっと露出あるのがいいんだけど。あ、これの強い鎧とか」
ミカが指さした鎧、どことなく涼葉の装備している鎧にそっくりだ。
「ん~、これじゃ涼葉のマネって言われそうかな。でも……」
やっぱり彼女に対抗心を持っているのか?
「露出あればいいってもんじゃないだろうに」
「あれぇ、アンナの服ってユウヤが選んだんじゃないの?」
なんで俺が選んだと思うんだか……
そもそもあの服、ミニスカートと言うだけで別にそこまで露出はしていない。
「いや、選んだのはリザかな。決めたのはアンナだけど」
「あ、そうなんだ。ユウヤはさぁ、こういう鎧じゃない方がいいの?」
「よほど露出してるとか変なのじゃなければ、別に何でもいいよ」
おもしろくない答えだろうけど、本音なのでしょうがない。
「う~ん……。じゃあユウヤが選んで」
「俺がか?」
「そう。この2つから」
一方は露出は抑えめでも防御値が35で、今装備できる最高のもの。
もう一方は露出がそこそこあるもので防御値は23。
まあ、迷うまでもなく防御値35の方を選んだ。
実用的な面から考えれば当然か。
そもそも今装備しているのが露出ありの、けっこう刺激的な鎧だ。
そういうのが着たくなったら、今の鎧を装備すればいいわけだし。
「そっか。わかった」
彼女はすんなりと聞き入れた。
チーコや徳さんは、すでに防具は決めていて、武器の置かれているエリアにいた。
「ここって、いいのあるね」
チーコはそう言いつつ腕輪をはめた。
魔力を増幅させる腕輪だ。
人差し指には、同じような性能を持つ指輪を装備している。
「ほしいのがなくてもサバロフに言えば、大抵取り寄せてもらえるよ」
「そうなんだ。カルミナじゃ、うちがほしいのなかったし。取り寄せることだってできなかったもんね」
店自体はそれほど大きくないから、今現在何でも揃っているわけではない。
しかしサバロフに頼めば、すぐに取り寄せてくれる。
「おお、この武器は!」
徳さんが興奮した声で剣を指さす。
「カルカッソンからも仕入れることができるんや!」
「ええ。そうみたいですよ」
俺は頷いた。
おそらく、世界中の売られている武器防具アイテム類なら、どんなものでも取り寄せてもらえるだろう。
この店、というよりサバロフの人脈網のおかげというべきか。
「ああ、ええなあ。いつかカルカッソンの武器を着けたいわなぁ……」
物欲しそうな目をする徳さん。
世界三大工房の一つカルカッソンでは、剣以外の武器種も当然扱っている。
徳さんが欲しいだろう拳用の武器も。
だが、カルカッソンで売られている装備品、武器なら攻撃値は最低でも200以上のものしかなかったはず。
装備できるには、それだけ自身の基礎能力レベルが高くないといけないのだ。
徳さんには現状、装備できるカルカッソン製の武具はない。
ブルや徳さんでも攻撃値が70,80辺りの武器しか装備できないレベルいうことを考えると、なんだかんだで涼葉や桂城の基礎能力レベルは、かなりのものであることを思い返された。
「今度行くダンジョン、楽しみや。少しでも強くなってみせるで!」
そう言っている彼の表情は真剣そのものだった。
モイアのダンジョンは今、話題のスポットみたいだし、意気込みが伝わってくる。
俺もできる限り、みんなのレベルアップを手伝ってあげるつもりだ。
実際、やれることはあまりないだろうけど……。
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