第11話 修行②

 ミカは自分に放たれた矢を間一髪でかわすが、


「……動かないで」


 そう言って、すかさずユーシーは二発目を放つ。


「や、やめてって!」


 二発目の矢はかわし切れず、体の中央に命中した。

 すると……淡い光がミカの体全体を覆った。


「あ、あれ? なんか体が……軽くなったような」


 あれはバフ効果を付与する魔法の矢だ。


「……」


「あはっ。これ、すごくいいかも。よーし、いくわよ!」


 ミカは構え直し突っ込んできた。


 ブルと徳さんは下がり、リザはどうしようか迷いつつ様子をみている。


「てやー!」


 勢いよく振り下ろしてきた大剣を受ける。

 その重みは、ブルのバトルアックス以上だった。

 

「たぁぁー!」

 

 更に攻撃してくるミカ。

 大剣をまるで木の枝のように軽々と振り回す。

 

 彼女は元々こんなに速く動けるわけではないはずだが、バフ効果のおかげでパワーもスピードも格段に上がっていた。 


 ユーシーのスキルって結構すごいじゃないかと、今更ながら思った。


 今まで会うことは数えるくらいしかなかったし、もちろん戦うところを見たことなかったのだ。

   

「おおー、すげーな」


 ブルは感心した声を出す。


 他のみんなも、彼のスキルを見るのは初めてみたいだ。


「ね~、あたしにもやってよ~!」


「ワイにもお願いや!」


 リザがユーシーにねだると、徳さんも同じように頼みだした。 


「……」


 ユーシーはこくりとうなずいて右手に三本の矢を作り、それを同時に放った。


 リザ、徳さん、ブルに当たると、三人とも淡い光に包まれる。


「うわ~!」


「こりゃいいな。これならいけるぜ!」


「わいも本気中の本気出すで!」


 少し疲れた感じのミカは下がり、代わりに三人が同時に仕掛けてくる。


 さっきよりもパワー、スピードが向上し、手数も多くなった。

 なかなかの攻撃だ。


 とはいっても俺は変わらず、問題なく受け流したり、かわしたりしていた。


「うぬぬ! もういっちょ!」


「おらぁ!」


「やああー!」


 あきらめず、ひたすら攻撃してくるが……。

 一分もしないうちに、三人の動きが徐々に鈍くなってくる。


「「「ハアッ、ハアッ」」」


 明らかに疲れるのが早かった。


 バフ効果で強くなるのはいいが、長い間はもたないようだ。

 疲労が一気に襲ってきたのだろうか。


「……みんな下がって」


 三人の手が止まった時、ユーシーが聞こえるかどうかの声で叫ぶ。


 四本の矢を作り、構えた。


 もう一度バフをかけるのかと思ったが違う。


 その矢は赤く燃えるような色合いで、俺を狙っていたのだ。


「……当たって」


 ユーシーは同時に四本の矢全てを放った。


 赤い矢は、まるで意思を持っているかのように俺めがけて一直線に飛んでくる。


 だが。


「おっと」


 それらは左手の指の間に一本ずつ、寸分の狂いもなく納まり、捕えられた。


 軽く指を閉じると、音を立てずに矢は消滅した……。

 

 あっさりと攻撃を防がれたユーシーは、ちょっとがっかりした顔になる。


 そんな彼に向って俺は


「いいよー。やるじゃないか、ユーシー!」


 と言うと、こくりとうなずき、少し照れ気味に笑ったように見えた。


「ちょっと、次はうちの番よー!」


 今度はチーコが叫ぶ。


 彼女は手をかざして魔法力を溜めていた。

 背丈半分ほどの大きさになった属性のない魔法弾だ。

 こちらに狙いを定め両手を勢いよく前に出し、放った。


 俺はそれを左手で掴むように受け止めた。


 魔法弾が一気に小さくなる。

 そして、弾けるように消えた。


「えー……。まさか吸収されちゃったの? 全力でやったのに……」


「その調子!」


「わかったわー! ほら、アンナも。何かやらないと」


「でも私、そういったのできないですし」


「あれ、いくつか攻撃魔法できなかったっけ?」


「炎とか水のはできますけど」


「じゃあ、それでいいじゃない?」


「でも人に向って撃つなんて……」


「何言ってるのよ。今の見てたでしょう? 彼に何やっても、へっちゃらなのよ」


「そうですけど……」


「もう。そうだ、せっかくだし、あれやってみない? ユーシー、ちょっとこっち来て」


 チーコはユーシーを呼び、アンナと一緒に三人で話し出した。

 何をやろうとするのか、声が小さくて聞こえなかったが。


 その間に、休み終えたリザ、ブル、徳さん、ミカは、再度攻撃を仕掛けてきた。


 バフ効果は切れているみたいで、みんな動きはいつもの状態に戻っていた。

 それでも懸命に攻撃を繰り出してくる。 


 アンナたちの方を横目に、俺はそれを捌いていった。


 と、アンナが両手を上に掲げた。

 チーコとユーシーも、両脇で同じように両手を掲げる。


 すると大きな水の塊が出来上がった。

 塊と言うより水の壁だ。

 近くの泉からも水が引き寄せられているみたいだ。


 そして三人の連携魔法が、俺に向ってまさに放たれた時。

 前からブル、後ろからリザ、左から徳さん、右からミカも一斉に襲ってきた。


 どうやら、アンナたちの方には全く注意がいってないみたいだ。


「どりゃぁ!」

「やぁあー!」

「むぅん!」

「たぁぁー!」


 俺は高く飛び上がって四人の攻撃を避け、襲いかかる水の壁も回避したが……


 バッシャ~ン


「きゃああー!」


「ぶはっ! おおい、いきなりやらないでくれよ!」


 四人は大量の水に巻き込まれ、ずぶ濡れになってしまったのだ。


「あはは。ごめん、ごめん。タイミングがとれなくって。でも、気持ちよかったでしょ」


 チーコは笑いながら謝り、アンナとユーシーもごめんなさいと言いながら何度も頭を下げた。


「ふぃ~」


「あ~あ。もう」


 リザやミカは、ぶるぶると体を振るわせて水を払い、

 

「やれやれ。ま、そろそろ休憩したかったしな」


「そうやな。ちょっと疲れたで」


 ブルや徳さんは手で顔を拭っている。


「じゃあ、きゅ~け~い!」


 リザの元気なかけ声。

 こうして俺たちは、一休みすることとなった。


 水浸しになっていない所に集まり火をおこす。


「しっかし、全く歯が立たねぇな。どうやったらそんな強くなれるのかねぇ」


「ほんまや。ユウヤはん、なんかコツとかないんか?」


「うーん、特に……」


 ブルや徳さんが納得できる答えは持ってなかった。

 特別なことはしていないからだ。

 

「全然、本気じゃないよね。うちら全員と戦っても」


「そうそう。これじゃユウヤがさ、つまんないんじゃないの?」


 チーコに布を手渡されたミカが、体を拭きながら言う。


「そんなことはないさ」 


「そう? ならいいけど」


 本当に退屈だとか、つまらないとは思っていないかった。

 なんだかんだで結構楽しんでいる自分がいたのだ。


 こういう風に仲間内で修行というか戦うことは初めてだったわけだし。


「はぁ、お腹すいたわ。何か食べましょ」


「おいおい。もうかよ、チーコ。お前、大して動いてないだろ」


「全力で魔法使うと、すぐにお腹すくのよ!」


 チーコとブルの様子を見て、アンナは微笑みながら食べ物を袋から取り出した。

 リザがナイフでパンを切り始める。


 ユーシーもフードサックから「……ぼくが作ったの」と、ジャムのようなものが入った瓶を取り出した。

 

 早速リザが一口すくって味見すると「おいし~!」と絶賛した。

 

 俺もお腹が減った。

 そういえば今日、まだ何も食べていなかったか。


 パンを少し焼いてジャムをたっぷりと塗る。

 それを果物と一緒に食べれば、うん、なかなかいけそうだ。


 まあそんな感じで一休みするか、と。

 何もなければ、すぐにそうなるはずだったのだ。


(さて……)


 俺は視線を森の木陰に向ける。

 そして、敵意のない親し気な口調で声をかけた。


「そこに隠れている人。こっちに来ませんか」

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