第10話 修行①

 カルミナ近郊の森。


 木漏れ日が差し込む、のどかで美しい森だ。

 モンスターもほとんどおらず、鳥や小動物の絶好の住みかとなっている。


 ただ、結構広く、奥に行けば地図無しだと地元の人でも迷ってしまう可能性がある。

 更に奥の方に行くと、道もなくなるので注意が必要だ。

 

 森の入り口から歩いて五分。


 開かれた所にそびえ立つ塔は、円柱をして大理石のようなものでできている。

 

 拠点からでも塔の先端は見えたが、近くで見るとやはり結構な大きさだということを実感する。


 そばには大きな泉があって、場所的にはなかなかいい所だ。


 塔の周囲にも見物人が来ているかと思っていたが、今のところ特に誰もいない。

 中に入り、まずはゲートのある場所を探す。


 建造物内の私的ゲートは、役所に頼めば判断を下して作ってくれる。

 判断を下して作るのは、この世界の〈神〉だ。


 大抵、役所の近くには教会があるので、そこで役人が〈神〉に祈りを捧げて作ってもらうのだ。


 基本的に作ってもらえるが無理な時もあるようで、その判断基準はよくわかっていない。

  

 一階入り口から、かなり奥の部屋にゲートがあった。


 できれば入り口付近にしてほしかったが、四階とか五階とかにならないだけマシというべきか。

 

 一人ずつ全員が、青白く光るゲートに入る。


 これで、ここからでも元の世界から往き来することができるし、拠点のゲートからでも転送ですぐに来れるようになった。


 ゲート間転送移動は、人によって違いはあるが一日1~数回だけという制限があるので、拠点から来ることはそうないだろうが。


 

「さて、誰もいないし外でやるか。塔の中だと、またぶっ壊しちゃうかもしれないしな」


 ブルは冗談っぽく言う。

  

「じゃあ誰からやる?」

 

 リザが皆を見て言った。


「全員で、かかってきていいよ」


「え、いいの?」


「うん」


「大丈夫ですか? ユウヤさん」


 アンナは少し心配げにたずねたが、全然大丈夫と言って安心させた。


 いくら闘技場の件で俺の強さがわかっているとはいえ、七人もいっぺんに相手をすることに不安を覚えたのだろう。


「よっしゃ! 本気でいくぞ!」 


 屈伸運動をしながらブルが言うと、皆、おおーっと声を上げる。


 俺を取り囲み、準備を整えた。


「で、誰が最初にいくの?」


「一緒にいくんだよ!」

 

 リザの問いにそう言いつつも、最初に仕掛けてきたのはブルだけだった。


 バトルアックスがブォンと風切り音をたて振り下ろされる。


「だありゃあ!!」


 カキィィィィン


 俺は腰にある鉄の剣を抜き、それを受けた。 


 バトルアックスはグレートアックスほど大きくはなく、攻撃値も38と少々低い。 


 そうはいっても普通なら鉄の剣の方が折れてしまうだろう。


 しかし、手から流れるオーラによって強化されているので、折れるどころか刃こぼれ一つしなかった。


「うおっ!」


 ブルは少し距離をとり、またつめて、斜めから横から斧をふるうが、俺はそれを容易くいなしていった。


 様子を見ていたリザが、短剣を抜き間合いをつめた。

 

「たぁ!」

 

 素早く連続で短剣を打ち込んでくる。

 

「はっ!  やあっ!  えいっ!」


「どりゃあ!」


 左からリザの、そして右からブルの攻撃。

 俺はリザの攻撃を右に、ブルの攻撃は左にと受け流した。


 そして一歩下がり間合いを取る。


「わわっ!」


「おおっとっと」


 攻撃を受け流された二人は、前のめりにバランスを崩した。


 そこで突進してくる徳さん。

  

「次はワイの番や!」


 手にパワーナックルを装備し、力の込めた右ストレートをくりだしてきた。

  

「うおおお!!」

 

 バシィ


 だが、俺の左掌で受け止められた。


「む? おおおお!!」


 今度は両手でラッシュ。


 パンチの後は蹴りも混ぜてきたが、それも左手で全て受け止めていく。


 パワーナックルを装備しているにもかかわらず、俺の生身の手にダメージは入っていない。


 そうしているうちに、態勢を立て直したブルが横から斧を振り下ろしてくるが、右手の剣で受け止めた。


「徳さんのパンチ、まったくダメージなさそうだな……」


「まあね」


「実は俺の斧をまともに食らってもダメージない……よな?」


「ああ」


 ブルは笑って斧を引いた。


 三人は交互に、時には同時に攻撃をしかける。

 特にブルと徳さんは慣れているのか、うまく連携してきた。


「わたしたちも、そろそろいくわよ!」


 ミカが大剣を構えて叫んだ。


「……わかった」


 その隣にいるユーシーが、こくりとうなずく。


 流れるような碧髪と尖った耳が特徴の少女、いや少年。

 袖口や裾に葉のような模様が刺繍された薄緑色の服を身にまとっている。

 そして矢の無い弓だけを持っていた。


 どうするのかと思ったが、右手で淡く光る魔力の矢を作った。


 なるほど、そういうことか。

 彼の戦い方を見るのは、これが初めてだった。


 ユーシーは矢を引き絞り狙いを定める。

 だが、その狙いが……

 

「って、ちょっと。何でわたしを狙うのよ!?」


「……」


 ミカの方に向けて魔力の矢を放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る