第12話 有名配信者との手合い①
普通なら覗かれようと、そのまま放っておくつもりだった。
配信レンズで映されているとかしてたら、やめてもらうが。
しかし、明らかに一般人ではない気配を感じた。
というより、完璧に気配を消して誰にも気づかれないようにしていたからこそ放っておけなかった、といった方がよいだろう。
木陰から姿を現したのは、白色の髪をした青年だった。
「すいません。たまたま、この近くを散歩していたら音がしたもので。気になって、のぞいてしまいました」
髪と同じく汚れのない真っ白い服。濃い紺色のマントをはおり、片刃の剣を腰にぶら下げている。
「あ、僕の名は……」
彼がそう言いかけると、
「か、
ミカが叫んだ。
彼女の方をちらりと見て少し笑みをみせたあと、俺の方を向いて
「はい。
と、うやうやしく言った。
知っている名前だ。
V.Cといえば大手配信者事務所の一つ。
たしか、リンカーコネクトより多くの配信者を有していて、規模的には界隈で一,二を争う。
そこに所属している彼も当然、配信者なわけだ。
ということは、と思いあたって桂城の周囲を見る。
特に配信レンズのようなものはなかった。
「ああ、大丈夫です。配信なんてしていません。許可なく、そんなことなんてしませんよ」
彼は柔やかに言った。
「わっわっ。ねえリザ。髪、変じゃない?」
「大丈夫だって……」
ミカは慌てて髪を手ぐしで整えようとしていた。
明らかに気持ちが高ぶっている。
一方で徳さんとユーシーは、彼のことを全く知らない様子だった。
チーコに聞いている。
「……あのヒトはだれ?」
「配信者よ。V.Cっていう事務所の」
「ほう、有名なんでっか?」
「視聴者五万六万とか、普通にいるみたいです」
「……ふうん」
「それはすごい!」
人気配信者一覧で見た名前以外はよく知らなかったので、そうなんだと俺は心の中でつぶやいた。
「ユウヤさん、あの時の試合を見てました。めっっちゃすごいですね! 少しの間のことなのに僕、感動しちゃいましたよ!」
「はぁ……」
桂城は目を輝かせている。
お世辞ではなく、本気の感想のようだ。
「あの剣、あのオーラ、僕は見たことありません。もっと試合が続いていればなんて思いました! いえ、また見せてほしいとか、そういうのでは決してないんですけど……!」
やたら興奮気味に語る。
俺は反応に困ってしまうが、彼はそれに気づいたのか少し一息ついて
「すいません。あれ以来、是非あなたに、お会いしたかったものですから」
と、申し訳なさそうに言った。
「その、ご迷惑でしたか?」
「いや、そんなことはないよ」
会いたいという人がいても基本的に避けているが、こう直接会ってしまったら断る必要もないし。
まあ、俺としては特に問題ない。
「よかった!」
「それじゃあ……」
さて、どうするか。
こうも有名な人が来てくれたのだが……。
ミカは桂城と話したくてウズウズしている様子。
他の皆も興味があるみたいだ。
ちょうど一休みするところだったし、一緒に何か食べながら話でもするか?
そんなふうに考えたが、彼は全く別のことをしたいと思っていたのだ。
「あの、実はですね。初めて会って、いきなりこういうのもなんなんですけど。僕とも少し、手合わせ願えませんか?」
「手合わせ?」
「皆さんが休んでいる間だけでも。あ、もし、これからすぐに用事があるなら断ってくれていいんで」
「まあ、すぐに用があるわけじゃないから、やってもいいけど」
「やっりい! ありがとうございます!」
パチンと指を鳴らし喜ぶその表情からは、俺との手合わせを心の底から願っていたことが、うかがえた。
「わぁー。いいなぁー」
ミカは羨ましそうに見つめてくる。
またしても有名配信者と手合わせすることになるとは。
普通はむしろ頼む側だろう。
羨まれるどころか妬まれる感じが……。
「やっぱ強いのかねぇ」
「どうなんでっかね?」
ブルや徳さんは、彼の強さは知らないみたいだった。
それにくってかかるのはミカ。
「強いに決まってるじゃない。知らないの!?」
「いや、あんまよく知らんし」
「いい? たしかに桂城君は、そんなに配信しているほうじゃないから知らないかもだけど。V.Cで三本の指に、いえ、もしかしたら一番強いかもしれないのよ。今年の世界武闘大会では本戦出場が決まってるし。あと、四か月前の配信者トーナメントでは準優勝よ!」
夢中になって桂城の強さを語る。
それを聞いた二人は「へぇ、すごいな」と声を上げた。
どれだけ強いのかは、実際のところ見た本人にしかわからない。
それも他人と比較してどれだけかということになると、本人の強さや主観によっても変わってくる。
ただ、武闘大会とかの成績がわかれば、大体の強さはわかる。
特にラミダス帝国で行われる世界武闘大会は、各地から沢山の腕自慢が集まる。
事実上、世界で一番強い人を決める大会と言っても過言ではないのだ。
その本戦に出場となれば、相当な腕前と判断できる。
とにかく、こうして俺と桂城は手合わせすることになった。
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