第8話 拠点にて④~配信者友達~

 彼女の名はソニア。

 アンナの配信者友達だ。

   

「どうも」


 ちなみに俺とは面識がある程度。


「ちょうどここに来る途中だったみたいでな。さっき、そこで会ったんだ」


「なんだか、すごいことになってますね。ホント驚いちゃいました。あの涼葉さんに勝っちゃうなんて」


 目を輝かせて俺を見る。


「ユウヤさんが、こんな凄い人だったなんて! 何で教えてくれなかったんですか?」


「あたしたちだって知らなかったのよ。ね~」


 リザが答えるとアンナもうなずく。


「えー、そうなんですか」


 まあ普通は、知っていたと思うだろう。

 俺がここに来て一年が経つのだから。

 

 ソニアはアンナの横の椅子に座る。

 そして、最近起こった出来事を詳しく聞き始めた。


「……で……」


「……ふんふん……なるほど」


「……ていうわけ」


「へぇー、そうだったの」

 

 彼女はアンナやリザから話を聞いている最中、書類を見ていた俺の方を頻繁にチラチラしていた。


「あー。無名な私のとこにも、ユウヤさんみたいな、すごい人が入ってくれればなぁ。なーんて」


 と、俺を見ながら冗談っぽく言う。


 それに対しては無言で少し笑っただけだが、 


「そこは『俺が入ってやる』って言ってくださいよ!」


 と、彼女はつっこむような仕草をして笑いながら言った。


「だめよ~。引き抜きなんて!」


「わかってますよぉ。ちょっと言ってみただけです」


 リザはソニアの冗談に乗っかり、そして笑いあう。


 アンナも冗談だということはわかっているのだろう、微笑みを浮かべていた。

 

「ユウヤさんは配信者にならないんですか? こんなに有名になったんだし、この機会になってみては?」


「いや、絶対やらないよ」


 配信者になることは、そこまで難しいことではない。

 教会でテストを受け合格すれば配信できるスキルを得られるのだが、半分の人はパスできているそうだ。

   

「えー。強いのに、もったいない……」

 

 配信者もやることは様々だが、未知の土地やダンジョンを攻略する配信は人気だ。

 必然的にファンが多い配信者は、強い人であることが多い。

 

 まあ、強いからといって人気になるとは限らないが。

 なりたかったら、とっくになっていただろう。


「そうだ、アンナさん。来週くらいに私、新しいダンジョンに行くつもりなんです。そこで一緒に配信しませんか?」


「配信ですか」


「結構な数の配信者が集まって、合同で攻略配信する予定なんです」


「ごめんなさい。しばらく配信は休むつもりなんです」


「ええ!? そんな、いつまでですか?」


「まだ決めては……」


「うーん。じゃあ配信はしなくていいので、一緒に行くだけでも。あのヴィクター・アーゴルドさんも来る予定なんですよ! ユウヤさんも皆さんも是非、ご一緒に。ねっねっ?」


 ヴィクター・アーゴルドというと、個人で活動している中ではトップの有名配信者だったか。


 だが俺は予定があると丁重に断った。


「行きましょうよぉ。今、みんなにすごく話題のダンジョンみたいですよ。配信者の方々にユウヤさんのこと、紹介しますから!」


 俺の袖をつまみ、やたら押しが強く誘ってきた。

 

 アンナはというと、なにやら顔をしかめている。


 すると、横からリザとブルが苦笑いしながら言った。


「ヴィクター・アーゴルドって、あの時の?」


「じゃあ俺は、行きたくないな」


「うちもパス」と、チーコも。


 ソニアは「えっ」と、少し困惑した表情をする。

 俺はつい、「何かあったの?」と聞いた。


「ユウヤが入る前、もう二年くらい前なんだけど。その時の合同配信で、ちょっとね……」


 リザは言葉を濁している。


 何となく予想はできたので深く聞くことはしなかった。

 その時もいろいろとあったのだろう。


 アンナは黙っているが、彼女も行きたくない様子なのは見てとれた。


 ソニアも察したのか、すぐ切り替えて


「そ、そうですか……なら、また別の機会に。配信再開するときは、すぐ教えてくださいね。私のグループの人達と一緒に大勢で復帰配信とかしましょ!」


 と、笑顔で言った。


 アンナも微笑んでうなずき、リザ、ブル、チーコも同意した。


「ユウヤさんも、ね?」


「ん。あ、ああ」

 

「どうせならその時、うちのファンの子たちを鍛えてやってください!」


「え?」


「うちのグループって、みんな弱い子ばかりなんです。ユウヤさんみたいな強い人が鍛えてくれたら、きっと皆、立派に成長できると思うんですよ」


 鍛えるとはいっても、俺はそういったのをしたことがなかった。


「もちろんお礼はします。少しの時間でいいので、是非、お願いします!」


 祈るように手を合わせ、期待を込めた目で見てくる。


 どうしようかと思ったが、そんな目で見られると……「分かった」と、うなずき承諾するしかなかった。


「わーい! ありがとうございます!」


 ソニアは俺の手を両手で握り、飛び跳ねて大喜びした。


 まあ人に教えたことがなくても、なんとかなるだろう。


 その後ソニアは、俺の事について興味津々な様子で色々と聞いてきた。


 アンナたちにも話したこと、特にどんな土地やダンジョンに行ったことがあるかを。


 ただ、最果ての地に行ったことは言わなかった。


 アンナたちにはつい言ってしまったが、考えてみたら相当な大ニュースだ。

 周りに知られたら、更に面倒なことになる。


 この事は内緒にと昨日居た七人には言ってあるので、もう他人に知られることはないだろう。

  

 たっぷり三十分近くは話すことになっただろうか。


 すぐに終わると思っていたが、やたら突っ込んで聞いてきたので、話せる範囲のことを結構話すことになったのだ。

 

 聞き終わるとソニアは満足したみたいで、お礼を言い帰っていった。


 その直後、


「復帰配信かぁ。何する?」


 と、もうリザは予定を決めようとしている。

 そもそも、いつやるかも未定なのに。


 そんな中、黙って考え込んでいたブルが唐突に口を開いた。


「……なあユウヤ。俺たちも鍛えてくれねえか?」と。


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