第6話 拠点にて②~取材~
「手紙がこんなにきてるわよ、ユウヤ」
リザが大量の便箋や巻物が置かれた机の上を指さした。
ポストが小さく収まりきらなかったので、外に投げ出されていたものもあったという。
ということは、持ち帰った手紙も相当数あるだろうか。
宛先は俺やアンナだった。予想通りではあるが。
「手紙だけじゃないわ。もう、ほんと人が押し寄せてくるんだから!」
リザは首を振り、うんざりした感じで言う。
俺は自分あての封を開け、手紙を読む。
俺に対しての賛辞や疑念、中傷、話をしたいというものの他にも、私と一度戦ってほしい、結婚してください、お金を下さい……などというのまであった。
個人ではなく、有名配信者事務所、ギルドや自治都市などから送られてきたものもあった。
単に話をしたいということだけ書いてあったり、『我がギルドの一員に』とギルドの詳細を事細かに書いてあったり、『私たちの町に是非』と普通なら目が飛び出るほどの待遇が書いてあったり。
ふうっと軽く息をつく。
明日以降はどうなるか、さすがに時間が経てば少なくなるだろうが。
「アンナの方はどうだった? 何か変なのが送られてきたりとかはしない?」
先に手紙の中身を確認していたアンナにたずねた。
「いえ、そういうのは。だいたいが私のグループに入れてほしいというものですね」
そう言うが本当はあったのだろうと、なんとなくだが思った。
「そっか。まあしばらくは、こういうのが続くか……」
いつもだったらアンナのグループに入りたい人は誰でも歓迎だ。
しかし状況が変わった。
これからしばらくの間、基本的にはグループメンバーの募集は停止することにしたのだ。
「まったく、げんきんなものね~」
リザは俺の背中に腕を乗せ、後ろから肩越しに手紙をのぞきこむ。
「結婚してくださいだって。はっはっ。なにそれ~」
リザは笑うが、それを聞いたアンナが
「誰から、ですか?」
と、聞いてきた。
「王都にいる富豪の令嬢みたい」
俺は手紙を封筒に戻しながら答える。
「ユウヤさんは、その、そういうのに興味はないのですか?」
「え? 別に……」
「そういえばアンナにも、『あなたは俺と結ばれる運命の人で~』とかって書いた手紙がきてたよね。あれ、笑っちゃった。どうせ、すぐ忘れるのにね」
リザはクスクスと笑いだす。
ファングループに入るために、詩を書いて告白する手紙とか金一封を送ってきたのもあったらしい。
「配信チャンネルの登録者だって、すっごい増えてるみたいよ。だいたいアンナは三年前から配信してるのに。いまさら、ねぇ」
配信者だったら、登録者が増えるのは嬉しい事だろう。
ただ今回のことで増えても正直、喜んでいいものだろうか。
そうはいっても名前が知られるには何であれ、きっかけが必要だ
それが今回は俺だったということ。
「…………」
アンナはどう思っているのか。
いまいち心情が読み取れなかった。
「そういえば、配信の方はどうするの?」
俺はアンナにたずねた。
「そう、ですね。しばらくお休みしようかと」
続いてリザもたずねる。
「やっぱり休むの? じゃあ、お店も?」
「はい。そちらもしばらくは」
「え~。お店だけでもさ、まわりなんて気にせずやりなよ~」
リザはアンナの首に腕を回し少し不満そうに言った。
アンナは料理が好きで、ちょくちょく食事を提供する店として一階を開けている。
しかし、それもしばらく休業するというのだ。
早めに王都の拠点を決めないとな、と俺は思った。
カランカラン
呼び鈴が鳴った。
一階から「どうするー?」と、ミカの呼ぶ声がする。
入口の前には
『現在グループメンバーの募集停止。申し訳ありません』
『ユウヤ・アンナへの会見は全てお断り』
と書かれた立て札を昨日から置いてある。
それでも無理に会おうとする人がいるのだ。
理由が別である可能性も全くないわけではないので、一応確かめてはいるが。
リザが「でなくていーよ」と返すと、窓から下を見て声を上げた。
「なんですか~」
「すみませんー。わたし、アクタ・ジャーナルのイーマイという者なんですけどー。ユウヤさんいらっしゃいますかー。ぜひ、お話をうかがいたくー」
「そこの立て札を見てくださ~い。ユウヤは誰とも会いませ~ん」
「そこをなんとか、お願いしまーす」
「だめで~す。ごめんなさ~い」
そう叫び窓を閉めると
「あ、いないって言えばよかった」
と舌を出した。
「また、あの人だったわ。しつこいわよね~」
リザによると今日で三回目。
最初は裏口から出たアンナに声をかけたらしい。
なかなか逃げられず、リザが何とか追い返して助けたという。
アクタ・ジャーナルと言えば、各地に支社を持つニュースメディアの最大手だ。
そこの記者に物怖じしないで対応するリザには感心した。
取材は基本的に断ることにしている。
正直いろいろ突っ込まれて聞かれるのが面倒、というか聞かれたくないのだ。
アンナもグループの皆も、そうすることに了解してくれたから、後は時間が経ち騒ぎがおさまるのを待つだけなのだ……が。
会おうとする記者は多い。
今日のニュース紙にはすでに、『有名配信者を負かした人物ユウヤとは?』『突如現れた謎の人物。その能力はいかほどか?』とかの見出しが躍っていた。
内容も、著名な人物と比較してどれほど強いのかを書いていたり、配信者じゃないのに新人配信者として似顔絵付きで扱っていたり。
他にも、本当に強いのか?と、審判の不正や八百長の類を疑ったりと様々だ。
推測だけでいろいろと書いているのは、まあ俺に関することだけだったら好きにしてくれていいが……。
懸念がないこともない。
結構前だったかの事件を、俺はふと思い出した。
有名な個人の配信者だったか、あらぬ噂を書き立てられ行方不明になったというものだ。
ニュース紙に載るくらいなので、よく覚えている。
何か月かして周りは興味を失い、結局その人物がどうなったのか、うやむやで終わってしまった。
個人、団体を問わずニュースを配信したり、まとめたりするところが多い中、俺ではなくアンナの根も葉もない話を勝手に作って掲載したりとか、この先でてくるのだろうか。
そうなると、こう無視し続けるのもまずいかもしれない。
俺だけでも取材は受けて、適当にでもいいから答えるか?
……とにかく何か手を打った方がいいかもと思っている。
カランカランカラン
呼び鈴が、またしても鳴った。
「またぁ?」
リザがため息をつき、窓を開け下に向ってすぐ
「ごめんなさ~い。ユウヤもアンナもいませんよ~」
と叫んだ。
今のところすぐ諦めて帰ってくれる人だけなので、そんなに面倒なことはないのだが。
と、そんなことを思っていると面倒なことが起こるものなのだ。
「すいませーん。俺、いや私、ユウヤさんの友人で元同僚のレオって言います! ユウヤさんはいつ戻られますかー?」
「えっ……? ちょ、ちょっと待ってて」
外からの声が聞こえた時、闘技場の控え室でレオと会っていたことを思いだした。
リザは少し慌てた様子で俺にたずねる。
「どうする? 友だちのレオって人が来てるんだけど」
「レオか……」
友人でもないのだが……それはともかくどうするか。
居留守にしてることくらいわかっているだろうし、ここで会わなかったら会うまでやってくるだろう。
それならと、俺は一階に下りた。
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