第5話 拠点にて①~グループメンバー~
カルミナの拠点に戻ったのは夕暮れ時。
この世界の夕焼けは現実以上に綺麗かもしれない。
ぽつぽつと夜光石による街灯の灯りもつき始める。
普通なら、これから静かな夜が訪れる頃合いなのだが。
建物の外では、また多くの見物人が集まっている。
ただ、今回は先ほどと事情が違う。
まあ配信もされていて何万人も見ていたんだ、当たり前といえば当たり前か。
情報の巡りは早い。
ここまで戻って来る間にも「アンナさんのグループに入れてほしいんですけど」と話しかけてくる人が何人もいたし、建物内に入ってからも間をおかずに呼び鈴が鳴りだすのだった。
「ユウヤさんにお話を伺いたいのですが」「ファングループに入れますか?」などなど。
リザやチーコが対応し断っていったが、あまりに多いので『本日、用件は全てお断り』の札を入り口に下げ、鍵をかけた。
♢♢♢
二階の部屋。
そこには俺を入れて八人が集まっていた。
アンナのファングループに登録していた人数が最大で何人だったのかはわからないが、俺が入った一年前には二十人だった。
その多くも姿を見せず、登録は抹消されていった。
各々、この世界で新しい居場所を見つけたのだろう。
ここ一年以内に顔を見せ、現在でも登録されているのは十人ほどだ。
リザやブル、チーコみたく、ほぼ毎日のように拠点に来ることはしないが、配信を見たりして確認している人は、まだいるのだ。
「まさかユウヤがなぁ。あんな強かったなんて」
ブルは純粋に驚いている感情で言った。
「なんで教えてくれなかったんだよ~」
「いや、まあ……」
俺は少し口ごもって頭をかいた。
「お前がいたら、どこに行っても楽に攻略できるのに」
「バカやな、それじゃ自分が強くなれんやろうが」
ブルに批判をぶつけたのは徳さん。
本名は徳岡で、みんな徳さんと呼んでいる。
白髪が入り混じった見た目最年長であり、ブル以上に探検やダンジョン攻略が好きな人だ。
そして修行が趣味という性格の持ち主でもある。
「ま、それもそうだな」
強くなるには、自分自身が戦わないとだめだ。
仲間がモンスターを倒して自分は何もやっていなかったら、自分自身は強くなれない。
といっても、新マップの主モンスターくらいは倒してほしいのだろう。
塔の件だって、俺がいたら連中が干渉する間もなくすぐに終わって、問題にはならなかったはずだし。
「ユウヤって実はさ、すごいお金持ちだったりするんじゃない?」
ミカが唐突に、あまり聞いてほしくないことを聞いてきた。
ウェーブがかった茶色の髪をして、涼葉のような奇抜な服を着ている彼女。
結構遠慮なしに思ったことを言う。
強い人が大抵、金持ちであるのは周知の事実だが。
「まあ、そこそこ」
「だよね。ねえ、ほしい装備あるんだけど、よかったら買ってくれない?」
「ダメよ!」
アンナが普段にない強い口調で言った。
みんな少しびっくりした様子だったが、リザが続けた。
「そ、そうよ、ミカ。なにねだってるのよ」
「え、そ、そんなんじゃないわよ。もちろんお金は返すわよ。強い武器があったら、わたしももっと早く強くなれるでしょ? お金だってすぐ稼げるわ」
「……そうだな。じゃあ近いうちに」
「ちょっとユウヤ、そんな簡単に……」
「やった! わたしさ、涼葉の装備してた武器と鎧ほしいんだけど。さすがに無理かな?」
「買えるけど、それは装備できないんじゃないか?」
「あ、そうか……」
この世界では、強い武器防具は自身の基礎能力レベルも強くないと装備できない(力を発揮できない)のだ。
なので俺のはもちろん、涼葉の装備していた武具も彼女には無理だろう。
カルミラで売っている大剣の攻撃値は、たしか10から40のものが揃っていたはずだが、彼女の装備できる一番強い武具がどのくらいなのかは、ちょっとわからない。
「もちろん、皆のも一緒に買うから」
「え~本当にいいの?」
「おお、マジでか!」
リザやブルが声を上げた。
他の皆も一様に喜ぶ。
「ユウヤさん。無理しないでください」
「いいって。実際そうしたほうがいいし」
一方、アンナだけは心配そうに俺を見ていた。
さっき二人で少し話をした時もだが……
…………
『あ、あの、ユウヤさん』
『ん?』
『これからも、ここに居てくれますよね?』
『え。どうしたの、急に?』
『いえ。何となく、そんな感じがしたもので……』
…………
……いろいろとレベルの違う俺がここにいると、どうなるのか。
彼女なりに考えたら、俺が出ていくと思ったのかもしれない。
正直、今まで秘密にしていた理由の一つがそこにある。
例えば、お金に関して本当のことを知ったら、皆の俺に対する態度が変わってしまうのではないかと。
そもそも俺は、アンナには生活に困らないくらいのお金しか投じていない。
この拠点の賃料払いも五分の一くらいは俺だが、突出しているわけでもない。
大金を出そうと思えば簡単に出せる。
だが、俺はやらなかった。
いろいろと居づらくなるのではと思っていたのだ。
しかし、そう思っていたのは間違いだったみたいだ。
みんな今まで通りだし、そして俺も何も気にせず自分が思った通りにすればいい。
「武器が揃えば、ユウヤはんが攻略しているところにも行けまっかねぇ?」
「そうだ、ユウヤっていつもどこに行ってたんだ? 俺も一緒に行きたいぞ」
徳さんもブルも、まだ探検したことのない場所に行けるかもと胸を膨らませている様子だ。
「果ての方だから、それは無理かな」
「果てって、まさか最果ての地なのか!?」
「ああ」
「マジでっか!?」
「何、それ?」
リザが横からたずねる。
「その名の通りや。ここから最も遠い所にある、誰も攻略できない地を探検家の間じゃ、そう呼んでるんや」
「へぇ~、すっごいじゃん!」
「すごいな。一人で攻略してるのか?」
「まあ、一応」
「ワイも行ってみたいんやけど、見るだけでもあかんかねぇ?」
「あの辺りは自然治癒ができないと、足を踏み入れて五分もたず死にますよ」
「そうなんか……」
それ以前に、普通の人がここからゲート間転送せず行くとなると一年以上はかかる。
もちろん出現するモンスターも強くなっていくので、易々と到達できない。
「ユウヤ殿がそんな強いんなら、一人で王国とかつくれるんじゃないすか?」
もじゃもじゃ頭のトモナリが両手で指差しながら言った。
「おお、そうだな。ユウヤが王様で俺は大臣だ!」
「あんたね……」
チーコはブルの頭を叩く。
「俺だけじゃないぞ、チーコ。アンナが料理大臣、お前は食料大臣……。ちなみに俺は、皆をまとめる総理大臣な」
「あんたは掃除大臣にでも任命してもらうわ」
「はっはっはっ! 俺は散らかす方が得意だけどな」
「……」
自分の国を建国。正直なところ、やろうと思えばできるだろう。
新マップを手あたり次第に攻略し、その土地でもって建国。いくつもある国を力で奪う。土地の支配権を持つ爵位を買って独立。
など、やり方はいろいろあるが。
では、なぜやらないのか。
このような質問は俺も以前、ある人物にしたことがあった。
その人曰く、この世界は
極端な話、一人で世界の半分を支配したとしたら、それに対応する強い力を持ったモンスターがそこらに出て、特定の人物以外誰も倒すことはできなくなる。
そういった変質が起こるかも、というのだ。
〈神〉は、この世界の人々にとって未知だが身近な存在だ。
どの町にも教会があり、人々はいくつかの恩恵を受けている。
配信できるスキルも、そこで得られるものだし、転送陣やゲートなども恩恵の一つだ。
とはいっても、そういったこと以外は全くの不明だ。
どういった存在か何を考えているか、とにかく謎なのだ。
まあ、俺が一国くらい建国したところで変化があるとは思えないが。
「そういうのは……やりたくないかな」
「え、なぜに?」
「俺には向いていないというか。いろいろと面倒そうでもあるし、そのあとどうするかの目的もないし」
これは俺の本音だった。
何もなくても、やろうとはしないだろう。
「そうなんすか、残念」
「ああ、大臣になる夢が」
「お主はそういう器ではないやろ。己のレベルに合った生き方をしろということや」
なんだか良いことを言ったなという風に徳さんは首を縦に振る。
チーコも同意するかのように、うんうんと首を振った。
「そうだ。国とか作る気はないけど、新しい拠点を考えているんだ。さっきアンナにも言ったんだけど、王都あたりどうかなって」
「マジ? わたし王都に住んでみたかったんだ!」
ミカは嬉しそうだ。
彼女はもちろんだが、もともと皆、王都あたりに拠点は持ちたいと思っていた。
ただ、お金も馬鹿にならないので諦めていたのだ。
ほとぼりが冷めるまで別の拠点に移るという理由もあるわけだが、俺自身やりたかったことでもあるし。
「お~さすがユウヤ、太っ腹!」
ブルは俺の肩をユサユサと揺らした。
その様子をアンナは微笑みながら見ている。
俺もそれに少し笑みを見せて返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます