#16

彼方に辿り着いた時

私は何を思ったのか

先がないことへの喜びか

後ろに戻れる絶望か


「幸と不幸の総量はイーブンだよ」

訳知り顔で話すオジサン

顔に不幸がこびり付いている

「今までどれだけ幸せだったの?」

問いかける私に首を傾げる

「そんなに幸せじゃなかったな。やっぱり不幸のほうが多いかも」

苦笑するオジサンの背中が大きく映る

「不幸のほうが記憶に残っているだけですよ」

そんな慰めの言葉にオジサンは優しい笑顔を向ける

「ありがとうね」

あの日から見かけない…

私が背中を押してしまったのか…

それとも先へと進んだだけか…

確実に私の心にへばり付いたトラウマや傷のような不快感

でも、これも不幸の内かも…


悴んだ手に忘れた手袋

差し出してくれるカイロ

隣を歩くと浮かび上がる身長差


寝顔のキレイな犬

氷のような微笑


暑苦しい同級生のエール

乾いた笑いが木霊する

クールを気取ったナルシスト

自然体と無頓着を履き違えている


寒暖差にやられそうな日々

金木犀の匂いがわからない

ミルで挽いたコーヒーと早朝の景色

時計が刻む音が鼓動とシンクロする


外界から隔離された山道

誰とも話さない一日

そのうち話し方を忘れていく

他人とコミュニケーションを取れなくなる毎日

ガーデニングと日差しの角度があっていない

高低差が激しい三階建ての家


彷徨った金縛り

塞いだカサブタから浮かび上がる指紋

占いをあてに一喜一憂

忘れた頃にやってくるギフトを待っている


彼方の先が開ける

進むか戻るか…

あぁ…

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