5ページ目  ■ 血ノ矛 ■

 長きに続く中世の戦争時代。

 多くの国で人々は剣を交え、血を流し合っていた。その中で、北方のとある国は戦いには直接関与せずに中立の立場を取り、他国とは細々と交流していた。平和を保っていたその国の王は、いずれ隣国の刃がこの国にも向くのではないかと日々怯えていた。

 北国の独裁の王は、戦争に巻き込まれたら軍事兵力数では他国に勝てないと考え、より強い武器を欲した。国民の中から優秀な科学者を招集し、火薬兵器の開発を命じた。その開発は凄惨を極めた。国の上からの命令として科学者たちは不眠不休の労働を強いられた。ある時は開発現場において暴発して多くの被害を出し、ある時は誤爆して自国の村を消し去り、またある時は罪の意識に堪えかねた科学者が自ら命を絶っていた。さらには、兵器の開発には多額の資金が必要であった。戦争に参加していないにも関わらず、国民は飢え死に、どんどんその数を減らしていった。

 数多の国民の命を犠牲にして、ついに、超巨型火薬兵器「黒尾海」を完成させた。黒尾海は、非常に強力な兵器であった。黒煙火薬が世に知られてから間もない時代、爆弾や銃火器は最前線で多用される強い武器であったが、黒尾海はそれらを凌駕した。その動作機構は、火薬の爆発を推進力として一つ二つの街を跨ぐほどの長距離を飛行し、大型の爆弾を投下するというものであった。そしてその威力は、村一つを全壊させるどころではなく、山や平野の地図の書き換えを必要とする程であった。北国の王は、その兵器開発の成功に大いに喜んだ。


 そうこうしているうちに、戦争を続けていた国々はお互いに歩み寄ることを選び、和平協定を結んで世界は平和を取り戻しつつあった。北の国王は、もはや怯えることを忘れていた。他国の脅威は完全に去っていた。手中には、世界を支配しうる兵器があるのだから。穏やかになった世界に痩せた国民たちは安堵し、今まで以上に隣国との交流を図ろうとしていた。しかし、国王はそれを面白く思っていなかった。今はもう臆する必要もないのだから、貿易なんぞせずとも奪ってしまえばいい──そんな安直な考えさえ浮かんでいた。

 東国、南国、西国の三国は、黒尾海の存在の情報を聞きつけ、脅威に備えた。その兵器の力が自国に及べば、国が滅びてしまうかもしれないと考えていた。三国は結託して友好関係を深め、お互いの資源や知識を生かしてそれぞれの自衛力を増強させた。その結果、北の国は孤立した。事実上の鎖国状態となったその国には、火薬の原料となる資源は豊富にあったが、食料が圧倒的に不足していた。北国では内乱が頻発するようになった。その度に王は国民を粛清し、命令に背くものは射殺した。そうして、既に疲弊していた国は国民の減少と共に急速に衰退していった。


 黒尾海は、他国の領土においてその実力を示すことなくこの世を去った。国民の血でできたその矛は、自国の命と土地を奪っただけであった。

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