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 『初め』は何もなかった。


 光もなく、闇もない。無、もない。神すらもいなかった。

 世界は退屈した。だから、世界を始めようとした。だから、世界は始まろうとした。


 ゆらぎがあった。そのゆらぎは、足しても、掛けてもゼロであった。

 ゆらぎが、ゆらぎを呼んだ。そこから量子が加速した。宇宙は光の速度で膨張し、世界が広がっていった。無秩序であった。世界はルールをつくった。原子が生まれ、それらが結合して分子となり、物質を成した。数万年、数億年、数えきれない程の時が経過し、宇宙に大小いくつもの星が誕生した。星々はお互いに衝突を繰り返した。何度も、何度も。やがて星はぶつかることをやめ、それぞれの星としての形を固めていった。その中の一つが地球であった。初期の地球はドライであった。形成した後も、星たちはたまに擦り合うことがあった。地球にたくさんの微惑星や氷惑星が降り注いだ。海洋と大気が産まれた。初めの海は、猛毒であった。海は、徐々にマントルに飲み込まれ浄化されていった。地球の中心核が回り続け、磁場が発生していた。この磁場によって地球は有害な宇宙線から守られていた。海深くで、物体同士がぶつかり合い、それらが複雑な構成をつくるようになった。物体とは違う、意思をもつモノが発生した。生命の誕生であった。始めは、卵は無かった。鶏もいなかった。生命は呼吸した。生命は自己複製機能を持っていた。死滅と複製を繰り返しながら、その数を増やしていった。幾度もの突然変異を経て、多種多様なものに進化していった。その中で、日々変わろうとする世界に適した種だけが生き残っていった。単純であった生命たちが融合し、さらに複雑な生物に進化した。生物は、細菌となり、バクテリアやミトコンドリアとなり、動植物となった。生物の活動により、海洋と大気は変わり、地球は色を変えていった。生と死。動植物は絶滅と誕生を重ね、どんどん多様化していった。或るものは海に残り、また或るものは陸で生きようと決めた。昆虫、魚類、両生類、爬虫類、哺乳類、そして人類。様々な種の生物は互いに支え合い、更なる進化を遂げた。人類は、文明を築いた。人類は爆発的に増加し、世界を満たしていった。



 ───始めは桃色だった紙が、今は緑色である。世界は海洋と大気を連れ、僕から去っていった。なあに、悔やむことはない。初めは何もなかったのだから。世界と僕との関係さえも。それが元に戻っただけである。悲しくない、悲しくない、悲しくない。

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