2ページ目  ■ 塵粘土 ■

 粘土細工をつくる少女は躍起になっていた。

 自身の体を這う蛞蝓や、体内に出入りする蚯蚓も気にせず一日中粘土をこねる。誰もが羨む、理想とする美しい作品を創ろうとしていた。来る日も来る日も、そこらの土を足し、粉々に破いた雑紙を足して体液を絡めて、粘土をこねては貼り付け、こねては貼り付けてを繰り返していた。しかし、いざ完成してみるとやはり何かが足りぬ。思っていたものとは何かが違うのだ。少女は乾燥して変形できなくなってしまったソレを金槌で壊して粉々にし、溜めた下水で濡らしてまた一からこね始める。

 親や友、少女と縁のあった人々からお金を借り、金貸しから借りられるお金も全て借り、それももう底を尽きようとしている。少女は生米と雨水を一口含んで長い時間噛み、飲み込む。それを一日分の食糧としたところでまた粘土をこね続ける。


「そんなモノには銅貨一枚も払えぬな。今の美術品の流行りは、人よりも動物なのだ。皆、愛くるしい生き物の癒しを求めているのだよ」


 と、商人は少女を一蹴した。少女は何を言うでもなく、一つの作品を我が子のように大事に抱きかかえたまま、商人を睨みつけて別の商人を見つけようとその場を去った。次の商人も扱いはだいたい一緒であった。


「何が駄目なのですか、これほどまでに美しい作品は他にないのではないでしょうか」


 少女は商人を問い詰めた。商人が返す。


「ワシには、其方のソレと、この土偶の違いが分からぬ。むしろほれ、この土偶はこのように筆立てにもなるのだ」


 商人は筆を取り、今日の売り上げ記録を羊皮紙にまとめだした。少女はそれ以上何も言うことはなく、フラフラとした足取りで帰路につく。

 少女は完成した粘土細工を見つめ、涙した。そして金槌を振り上げる。ソレが一瞬で砕け散る。数か月もの間ほぼ飲まず食わずで創り上げた渾身の力作であった。数枚の金貨を期待していた少女にとっては、それはそれは大きな落胆であった。翌朝、少女はまた粘土をこね、作品を創り始めた。一年、二年の時が流れたが、少女はまだ粘土をこねていた。


 金貸しの男が激怒しながら叫び、少女の部屋の扉を叩いている。少女は答えなかった。男が扉を壊し、部屋に入ろうとする。半開きになった扉の隙間から無数の小羽虫と御器噛が溢れ出し、男はたじろいだ。鼻が詰まっている男は腐臭にようやく気づく。顔を歪ませながら部屋に入る。かつて少女であったようなモノが粘土の塊の傍に倒れている。小さな部屋の中央に鎮座するその大きな粘土は、いびつな形をしていた。


「一体何なのだ、これは……」


 男は鼻と口元を服で押さえながらその塊を眺める。

 それは、人の形でもなく、動物の形でもなく、すべての生き物と家具を足したような、不気味な形をしていた。


 少女は粘土細工師などではなかった。少女は粘土細工師にはなり得なかった。

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