3分間

善方響輝

1ページ目  □ 未莞成 □

 少女は、自分の家族が好きではなかった。親や兄が自分に対して意地悪であったわけではない。家族は平凡な人たちであった。少女は「平凡」が嫌いだったのだ。特に、平凡の中の平凡というような人柄の祖母を良く思っていなかった。


 少女は他人と違うことを行なえば、平凡ではない特別な人になれると思っていた。だから、小学校では男子たちとよく遊んだ。友達の間では漫画が流行っていた。少女は漫画を描いてみようと考えた。色々な物語を頭の中で考えては授業中や寝る前に空想し、自分だけの物語を楽しんでいた。絵を描くための勉強をすることはなかった。そうしているうちに中学生になり、今度は小説に興味を持ち始めた。これなら絵を描けなくても物語を作ることができる。そういうふうに、昔考えていた物語を思い出していた。卒業まで結局一枚の原稿も書くことなく、高校に入学した。少女は、空想した物語が長すぎて小説では書ききれないと考えていていた。その頃は友達の間で、インターネット上のSNSにポエムみたいなものを投稿するのが流行っていた。少女はその中で一番になろうと考え、空想し続けていた物語を一つの詩にまとめようとしていた。考えている内に、高校も卒業間近に迫っていた。進路を決めようとした時、男子たちがハマっていたテレビゲームのことを思い出した。ゲームであれば興味を持って作れるし、売れればお金も手に入るだろう。少女は工業大学に進学し、プログラミングの勉強をした。参考にしようとしたオンラインゲームにのめりこみ、大学の授業はほとんど受けていなかった。そんな状態で四年間を過ごし、ようやく就職活動をしようとする頃には優良な会社からの募集はほとんど残っていなかった。そこらの小さな会社にやっとの思いで入社し、日々残業に追われる毎日を過ごした。ゲームに対する情熱は冷めていた。  ───しかし───、  いつも何かを空想しては創ろうとし、それでも何かを始めることもなく、また何かを妄想する、ということを繰り返していた。何かをつくることができる人こそが、特別な人である、と、しんじていた。


 平凡であった祖母が亡くなった。女は29歳になり、古くからの女友達は半分くらいが結婚していた。女は、女として少し焦り始めた。取引先の年上の男と縁があり、付き合い始めた。決して顔は良い方とは言えず収入も平均より低いくらいであったが、性格が穏やかで一緒にいて心地が良かった。一年後に結婚して、それから男の子と女の子を授かり、幸せな四人家族を築いた。退職し、専業主婦として子育てに忙殺される日々を過ごした。子供については、活発な長男とは異なり、気弱な妹は兄の後ろに付いて遊ぶことが多く、友達も男子が多いようであった。


 平凡であった両親が亡くなった。老女は60歳になり、定年退職した夫と二人きりで仲睦まじく暮らしていた。二人の我が子たちも既に結婚し、長男夫婦は孫たちを連れて年に数回遊びに来てくれた。毎回必ずご馳走を用意して大歓迎したが、孫の一人である女の子だけは、老女のことをあまり好きでないようだった。



 一生を共にした夫が亡くなった。私は80歳になり、今は一人で穏やかに暮らしている。夫に手紙を書く。生まれて初めて書く恋文。夫の墓参りの際にそれを渡す。私の人生と、彼へのすべての愛が詰まった、私が確信する、私だけの物語である。

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