第58話 出立

「エミリア、オイゲン、ランベルト、留守は任せた」


 いよいよ俺達が王都に出立する日になった。父さんが残った面々に言葉を掛ける。


「私も兄様達と王都に行ってみたかったです……」


 留守番のシィルが落ち込んでいる。


「その内に一緒に行く機会があるさ。それに俺達が居ない分、アルフの事を構ってやれよ」


 末弟の2歳のアルフは、転生者の俺や天才のシィルとは違い、至って普通の子供だ。俺とシィルは1歳の時に魔力を操っていたけど、アルフは操ることが出来ない。

 そういう意味ではアルフの世話をしている母さんやメイド達は、大変ながらも本来の子育てという手間を楽しんでいる。


「はい。アルフを兄様のような立派な人に育てます!」

「それはシィルの役目じゃないからな。父さん母さん、世話役の侍従達の仕事だからな。それとアルフがそこまで育つ前に帰ってくるから。その前に俺はそこまで立派じゃないし」


 俺とアルフの年齢差は7歳。5年間学園に通っても、アルフは今の俺の年齢よりも下だ。物心はついているだろうけど、まだまだ成長中の時期だ。


「アルフ、お姉ちゃん達はちょっと出かけてくるね」

「お土産期待してて」


 シィルとアンジュが、メイドに抱っこされているアルフに話しかける。シィルと同じように、アルフの事が大好きな義姉だ。


「お前達は地上から帰還しろ。私が先に帰還するといって、急いで帰還する必要はないからな」


 ヴィルマー義父さんは、ファルケンベルク領まで連れて来た配下に指示を出している。義父さんは俺達と一緒に飛空艇で帰るので、配下の人達とは別行動だ。


「それでは、エミリア、エマ。またお会いしましょう」


 アンジュも出立するので、ペーターとエマの二人も見送りに来ていた。ローザ義母さんは母同士でお別れの談笑をしていた。


「飛空艇が量産されれば、今度は私からそちらに向かいますよ」

「それは楽しみね。その時はエマ、貴女もぜひいらして」

「た、楽しみしています」


 ただエマはまだまだローザ義母さんに対して、いまだに緊張している。母さん相手だとそんなでもないんだけどな。


「アリス。パウルと仲良くね」

「レックス様も、お二人に愛想を尽かれないように、お気を付けください」


 宗教上の問題で王都に一緒にいけないアリスと言葉を交わす。


「ですが、レックス様が王都でどんなことをやらかすか心配です……」

「どんなことって例えば?」

「王都を破壊したりとか」

「しないから」

「貴族家ならまだしも、王族に対して不敬を働いたり……」

「それは父さんじゃないか?」


 王家の方々がどんな性格をしているかは知らないけど、我慢が出来なくなったら喧嘩を売りそう。


「新しい婚約者が増えたり……」

「そんな気はないから」

「アンジュ様も最初はそのつもりだったのではありませんか?」


 おっと、それを言われると何も言い返せない。


「まぁ仮に誰かが傍に居たとしたら、それはリース様が御認めになった方。変な方ではないでしょうから、レックス様に仕える身としてはお側にいやすそうです」

「だから増やす前提はやめようよ」


 一夫多妻が認められている世界だからって、ほいほいと婚約者を増やすつもりはない。


「それじゃあ、そろそろ出発するか。全員、飛空艇に乗りこめ」


 父さんが号令を掛ける。乗船するのは、俺、リース、アンジュ、父さん、ヴィルマー義父さん、ローザ義母さんの6人だ。


 ……これ、もしもの時は全員俺が守らなきゃいけないな。


 なにかしらの事故が起きて墜落しそうな場合、空中に足場を作れる俺がどうにか対処しなければならない。父さんはどんな高さから落ちても生き残りそうだから、最悪無視だな。

 そんな事を考えながら父さんの顔をボーっと見ていたら、声を掛けられた。


「どうした、レックス? 忘れ物でもあるのか?」

「いや、何でもないよ」


 息子が父の安全を蔑ろにしようと決意しているだけだよ。


「そうか。それなら早く乗れ」


 おっと、いつの間にか全員乗っていた。ローザ義母さんは今回はヴィルマー義父さんに抱きかかえられて乗ったっぽい。

 俺もポンとジャンプして飛空艇に乗り込む。


「操縦は誰がする?」


 リースやアンジュ、父さんも操縦訓練はしているので一通り操ることが出来る。


「俺はヴィルマー達の相手をしているから任せるわ」

「最初は私が操縦するよ。まだ高度での運転はしたことなかったし」

「リースが疲れたら私がやる」

「分かった。なら俺は、もしもの時のための警戒をしているか」


 それぞれの役割が決まったので、各々立ち位置につく。


「王都に、しゅぱーつ!」


 舵を握っているリースの掛け声で飛空艇が浮かび上がり、王都ハーヘルムへ進路を取った。

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