第57話 光魔法2

「シィル、次は攻撃しよう」

「それは構いませんが、どこに向かって?」

「アーデル、分厚い壁を」

「畏まりました」


 土魔法使いであるアーデルに、土の壁を用意してもらう。厚さ約3メートルの壁だ。


「これぐらいでよろしいでしょうか?」

「十分だよ。シィル、これに向かってお願い」

「分かりました。それではいきます!」


 シィルが気合を入れて右手の人差し指を壁に向かって指す。すると指の先が光り始めた。


「いっけー、閃光!」


 指から光線が発射され、土壁を貫く。光は土壁を貫通して消えた。


「どうでした、兄様?」

「うん、よく出来たね。ってか前より威力が上がった?」


 前は壁を貫くことは出来なかったのに。


「どうやらそのようです。夜中に本を読むとき、いつも魔法を使用しているから精度が上がったのでしょうか?」

「夜はちゃんと寝なきゃ駄目だぞ」


 シィルはまだまだ子供なんだから。寝なきゃ成長しないよ。人のことは言えないけど。


「……光魔法の使い手が、土壁を貫いたぞ」

「これは世界が変わりますね」


 初めて本来の光魔法を見た二人は、茫然としていた。


「もしこれが聖国に知られたら、大騒ぎになるぞ……。あそこは光の魔法使いは神の子と崇め奉り、人々を癒す存在として知らしめているからな」

「下手をすればシィルが異端者として、責められるかもしれません。そうなればカールスベルナ王国がファルケンベルク辺境伯家を切り離す可能性も?」

「もしそんなことになったら、帝国は意気揚々とファルケンベルク領に攻め入るだろう。そして王国の盾が無くなったら、本体を攻めてそのまま滅ぼされるだけだ」

「頭が痛くなってきました……」


 あー、やっぱりそんな感じなんだな。シィルに初めて魔法を使ってもらった時、父さんとオイゲンが似たような悩みを抱えていたから。


「はっはっはっ、ヴィルマーも俺と同じ悩みを抱えて楽しそうだな!」


 父さんが朗らかにヴィルマー義父さんに笑いかける。


「お前、この事をワザと黙っていただろ……」

「そっちの方が楽しそうだったし」

「私は一気に胃に負担がきたぞ……」


 そう言いながら腹を摩っている。


「兄様、お腹が痛いならヴィルマー様を回復した方がいいでしょうか?」

「あれはストレスからくる痛みだから、魔法じゃどうにもならないよ」


 精神を回復させる魔法があれば別だけど、そんなものはなさそうだし。


「陛下にどのように説明するか……」

「んなもん黙っておけばいいだろ。ここに居る連中が全員黙ってさえいれば、どこにも伝わらないんだからよ」

「それならば、私達にも黙っておけばよかろうに……」

「ファルケンベルク家とヴィルネルト家は家族ぐるみで付き合っていくんだ。だから隠し事は失くしていこうぜ!」

「一理あるだけに反論しづらいですね……」


 父さんの言葉にヴィルマー義父さんとローザ義母さんが負けた。


「それに知っておけば、仮に世間に知られた時に反応しやすいだろ」

「確かにな」


 ヴィルマー義父さんが大きな溜め息を吐いて、シィルと向き合う。


「シィル、今の魔法は外では使ってはならんぞ」

「あなた、光魔法の使い手はそれ自体が希少な存在。魔法自体を使わせない方がいいでしょう」

「む、そうだったな。下手に使って聖国や教会に目をつけられてたら面倒だ」

「それは大丈夫。シィルには人前で魔法は使っちゃ駄目って言い聞かせているから。な、シィル?」

「はい。ここに居る人の前以外では使ったことはありません」

「ならばよい。ところでシィルの年齢は5歳だったか? とても5歳の子供とは思えない話し方だな」

「まだまだ兄様には敵いません」

「そういえばレックスと初めて会った時も5歳だったか。あの時は本当にアルベールの子かと驚いたな」

「お前は、ちょくちょくその話をするよな? それを言ったらリースちゃんもお前の子か疑わしいだろ」

「どこがだ? 私に似ていい子だろ」

「お前のどこに似たらいい子っていう発想が出てくるんだよ」


 父親同士が軽口を言い合う。俺も誰かとこんな親友みたいな関係を築き上げられるだろうか?


「それよりもレックス、他には何かあるのか? 正直ない方がいいのだが、あるなら全部見せろ」

「あとは母さんが空を飛んだり、俺が空を走ったりぐらいかな?」

「そういえばエミリアが空を飛ぶとか言っていたな……。レックスの方は、この間の見えない階段の応用か?」

「そうだね。着地点に空気圧の層を作り出して、足場にするだけ」

「だけ、で済ますような話ではないが、なんとなく理解で出来た。それでエミリアの方だが」

「それじゃあやってみせます」


 母さんが少し離れると、手からジェットエンジンのような火を噴き出す。その勢いで母さんの身体が浮く。


「本当に飛んでいるぞ……」


 母さんは両手の挙動を微調整して、器用に方向転換して自由に空を飛びまわる。


「リースは同じことが出来るの?」


 ローザ義母さんが、母さんと同じ火属性であるリースに聞く。


「あそこまで自由に飛ぶのは無理。だけど不格好なら飛べるよ」

「私の娘が、どんどんファルケンベルクに染まっていくわ……」


 ローザ義母さん、それってどういう意味? まるでファルケンベルク家が魔境か何かのように聞こえるけど。


「ちなみに水魔法でも同じことが出来るかもだけど、ウチにはそこまでの使い手は居ないから試していない」

「アンジュでは駄目なのか?」

「アンジュは魔法が苦手だから」

「ん。剣で戦う方が得意」


 魔法のセンス順は、リース、俺、アンジュなんだよね。近接戦は逆にアンジュ、俺、リースだけど。だから魔法を使わない模擬戦だと、いつも俺が負ける。ただ身体強化の強化率は俺が断トツなので、本気の戦いだと負けることはない。


「あと水で飛ぶ場合、下に居るとビシャビシャになると思うから、止めておいた方がいいかも」

「確かにな……」


 飛んでいる母さんを見て一言。母さんは火だから下に影響はないけど、水の場合は地面が酷いことになる。畑に水を撒くついでなら問題ないかもだけど。


「もうちょっと、自然に飛べるようになりたいわね」


 数分飛んでいた母さんが、地に戻ってきた第一声がそれだった。


「楽しそうに飛んでいたように見えましたけど?」

「意識しないと変な方向に飛んでいってしまうんですよ」

「エミリアにも出来ないことがあるのですね」

「私自身も魔法は極めたかと思っていたのですが、まだまだ甘かったようです。ですが逆に言えばまだ成長できる見込みがあるということなので、最近は楽しく修練していますよ」

「あらあら。もしエミリアが現役に復帰したらすぐにSランク冒険者になるかもしれませんね」

「実力は足りていますが、実績が足りませんよ」

「その場合は、ヴィルネルト家から推薦します」

「それはありがたいです。ただ復帰するにしても子供達を育てあげた後になりますので、その機会はまだ先でしょう」


 母達が和やかに話していた。

 これ以上はビックリネタがないので、今日の試射会は終わりだ。

 それでもヴィルマー義父さんは胃の調子が悪いらしいので、胃に効く薬湯を飲んでいた。

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