第56話 光魔法
王都に出かける前日。ヴィルマー義父さんが我が家の戦力を把握したいと言ったので、アルフも含めた家族全員で、数年前に庭の隅にある建てた小屋に来た。
小屋の利用方法は主にシィルの魔法訓練所だ。王国に10人ちょっとしか居ないと言われている光魔法の使い手。なるべく人目に触れないようにと配慮した結果だ。
ここに入れるのは俺達家族と一部の家臣だけ。それ以外はどのような理由があっても入室許可は下りない。
とりあえず一番手はシィルだ。ヴィルマー義父さん達の常識で一番乖離しているのがシィルの魔法だから、一番手に名乗り出てもらった。
「私の姿を消して」
詠唱とともにシィルの魔法が発動すると、シィルの姿がすぅーっと消えていく。
「「なっ!?」」
初めて見たヴィルマー義父さんとローザ義母さんが驚きの声を上げる。
「シィルの姿が消えたぞ!?」
「一体どこに……?」
ただ驚いているのは二人だけで、見慣れている俺達は驚きはしない。
「シィル、そのまま維持して」
「分かりました、兄様」
シィルに指示して、ヴィルマー義父さんとローザ義母さんの手を握り誘導する。
そのまま横にスライドすると、徐々にシィルの姿が見え始める。
「どういうことだ?」
「シィルはずっとそこに居たのですか?」
二人はしきりに頭の上に疑問符を浮かべる。
「これは俺の知識を元に開発した魔法だよ」
こう言うと二人は瞬時に俺の前世の事だと認識してくれた。
「それでシィルがやったことだけど、光を操って自分の姿を見えなくしたんだよ」
「待て待て待て!」
簡単に説明するとヴィルマー義父さんから、凄い勢いでストップがかかる。
「まず光を操るとはどういうことだ!? 光魔法とは、人々を回復させる魔法ではないのか!?」
あ、まずはそこからか。
「俺も最初は特に疑問に思っていなかったんだよ。光魔法っていうのは、回復魔法なんだって。でも二人にも話したムニスのことなんだけど……」
「ああ、アルベールとエミリアの二人がかりでも勝てるかどうか分からないといった男のことだろ」
「正直、そんな人類が存在しているなんて信じられません……」
ローザ義母さんにとって、父さんと母さんは人類最高峰の実力者と思っているらしい。
「そいつが使っていた魔法なんだけど、影を操っていたんだ」
「それも聞いたな。しかしそれは影に見えた闇魔法という話ではなかったか?」
「もしそうだったら、一瞬で移動できたことが説明できないでしょ。ムニス一人だったらともかく、あの時はサラやリベリオが居たんだし。仮に居なかったとしても父さんと母さんに知覚されずに動くってことは出来ないと思う」
「……確かにな」
「それで思ったんだ。魔法ってもっと自由なんじゃないかなって」
「自由?」
「例えば……、アンジュ。氷魔法を使ってくれ」
「ん」
傍で説明を聞いていたアンジュに氷魔法の使用を願う。アンジュは掌に乗るほどの小さな氷礫を出す。
「これって水魔法じゃないよね?」
水と氷は似ているけど違うものだと、俺は認識をしている。
「水を冷やすと氷になるのだろう? ならば同じではないのか?」
水魔法使いが氷を出せるのは有名な話。だから義父さん達も驚きはしない。
「んじゃ、次。母さん、爆発お願い。……あ、ちゃんと加減してね」
「アルフが居るのに、大きな音を出すわけないでしょ」
アルフが居なければ手加減しないって言っていない? ちなみにアルフはアリスの腕の中ですやすやと寝ている。
母さんは音があまり響かないように、小さな爆発を起こす。
「これも火は関係ないよね」
これでは火魔法ではなく、爆裂魔法だ。
「しかし、火をつけると時々爆発が起こることがあるだろう」
「それは粉塵爆発のことだと思う」
「粉塵爆発?」
「アリスはアルフを抱いているから……。アーデル、小麦粉を入れた箱を持ってきて」
アーデルがすっと頭を下げて一旦屋敷に戻る。そしてすぐに戻ってきた。箱を受け取った俺は軽く振って、小麦粉を宙に舞わせる。これで準備は完了だ。
「この箱に小麦粉が入っているけど、これの中に点火と爆発するんだよ。母さん」
「分かったわ」
母さんか箱の中に火を点ける。そして数秒後。
「うおっ!」
「きゃっ!」
箱が爆発した。今の音は少し大きかったけど、アルフは起きなかった。
「細かい原理は忘れた、もとい説明しないけど、こういう風に爆発が起こるんだよ。他にも色々な爆発があるけど、一番分かりやすいのはこれだよ」
「しかし今のは火が必要では?」
「確か静電気とかでも起こるはず」
「また分からない言葉が出たな」
「あー、ここら辺の説明は俺も詳しく覚えていないから勘弁して」
前世の俺って天才でも秀才でもない、普通の人だったからなぁ。今世もだけど。こういった知識は断片的にしか覚えていない。
「まぁだから必ずしも爆発に火は絶対不可欠ではない! ……はず」
はっきりとした自信が持てないから、最後に小声で付け足す。
「最後の言葉聞かなかったとしてだ。それで今の説明は何を示すのだ?」
「仮称だけど爆裂魔法と氷魔法は、火魔法と水魔法の派生した魔法なのかなと」
「派生?」
「昇華っていってもいいかも」
「……つまり影を操った魔法は闇魔法の派生だということか」
「うん」
「それでは光魔法というのは……」
「元来は光を操る魔法で、派生が回復なんじゃないかな」
俺の言葉に2人は絶句する。その顔には驚愕と困惑が入り混じっていた。
まぁ今の話はかなり衝撃的だろうからね。母さん達も当初は驚いていた。いつもは冷静なオイゲンも驚いていた。驚いていなかったのはシィルだけだ。シィルは知的好奇心が優先され、質問攻めにあった。
「……ローザ、どうやら私は夢を見ているようだ」
「しっかりしてください。気持ちは分かりますが、現実です」
あまりの驚きに現実逃避をしたくなったらしい。でもまだ終わりじゃないんだよね。
「シィルが使える魔法の続きを説明したいんだけど」
「そういえばそうだったな……。だが姿を消す魔法ということだろう。それに理屈は分からんが、見える位置をずらすと相手の姿が現れる」
「そう聞くと、そこまで凄い魔法ではないように思えますね。使い道は何かの会談の時に、相手に悟られないように護衛につかせることが出来るぐらいですか」
「あー、それは無理かも。姿を消しているだけで、気配はあるから。使い手が未熟ならすぐにバレるよ」
「となると、本当に大したことにないように思えるな」
「ちなみに今回は説明しやすいように視点を変更したら見えるようになったけど、本来は360度どの角度から見ても姿は確認できないよ」
「レックス、そういうのは先に話すことではなくて?」
ローザ義母さんに詰め寄られた。
「他の光魔法の使い手にどんな人が居るかは知らないけど、シィルって天才なんだよ。そんな天才だから、処理能力が高くてどんな角度からでも姿を消せるんだ」
「……シィルが天才だと聞いていましたが、レックスが認めるほどですか」
シィルには光の屈折のことやら、モノが見えるのには光が関係しているといった漠然とした知識を披露しただけで、それを自分のモノにしたのはシィル自身なんだよな。
「もし俺が他の人に同じ説明をしても、実際に同じ魔法が使えるようになるかどうかは分からない」
魔法を行使するのに必要なのは想像力と知識。大抵の魔法は想像力で発動するけど、シィルが使ったような魔法は知識も必要になるので、多分想像力だけでは不発になるはずだ。
「むしろこれから使ってもらう魔法の方が、みんな使えるかも」
「まだなにかあるのか……」
この数分でヴィルマー義父さんの顔が、老けたような気がするけど気のせいだよね。
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