第53話 人選
というわけでヴィルマー義父さんに説得された俺は、心置きなく飛空艇を飛ばすことに。
「これから本格的に飛びますが、その前に搭乗者を選びます」
そして1時間後。俺の目の前にいるのはアルフを除いたファルケンベルク辺境伯一家、ヴィルネルト公爵一家、アンジュに飛空艇を造り上げた親方とピッケ。それに我が家の家臣。それとヴィルネルト公爵家の家臣だ。
飛空艇というものがなんなのか、よく分かっていないヴィルネルト公爵家の家臣以外は、自分が乗りたいと目で訴えかけてくる。ここに居る人は試験飛行の低空飛行とはいえ、実際に乗っている。だから空高く飛行する飛空艇に乗ってみたいのだろう。
「見ての通り、飛空艇のサイズはそこまで大きくないので、ここに居る全員を乗せることは出来ません、ですので必要最低限の人員を選びます。ということで先ず一人目は……」
全員が固唾を飲み、自分の名前を呼ばれることを期待している。でもごめんね。一人目は涼やかな顔をしている人なんだ。
「オイゲン」
「承知しました」
オイゲンが前に出て俺に向かって一礼をして、すっと後ろに控える。
「オイゲンを選んだ理由は、ほとんどの人が知っている通り、俺以上の魔法の使い手であり、いざという時、空から自力で帰還できる人物だからです。他にも空を走れる人は居るけど、オイゲンに比べたら頼りになりません」
俺の言葉に何人かの人が落ち込んだ。
「レックス様のお言葉に悔しい思いをしたのならば、私を超える人物になりなさい。そうすれば、レックス様も私ではなくお前達を信頼する」
オイゲンの言葉に、落ち込んだ人達は視線を上げて、オイゲンを見つめる。その目にはいずれ抜いてみせるという野望を抱いているようだ。
ただ色々な方面でオイゲンを抜くのは至難の業だけど。使用人のまとめ、家令として父さんの補助、膨大な知識、卓越した魔法の腕。これを全部超すには、それこそオイゲンと同じぐらいの年齢を重ねなければ無理だろう。
それでも努力する気があれば成長も早くなるだろし、いいことか。
「それでは二人目。どっちか悩んだけど、ピッケで」
「よっしゃあぁぁぁぁ!」
「なんでじゃあぁぁぁ!」
喜ぶピッケと嘆く親方。まぁ今の言葉からピッケを選んだ時点で、親方が選ばれないのは分かるよね。
「ピッケを選んだ理由は、飛空艇が木造だからです」
「金属の部分もあるじゃろ!」
「確かに一部では金属を使っているけど、基本は木造だからね。だからピッケを選んだんだけど」
「動かしている際に、重要なプロペラが破損したらどうするんじゃ! あれの制作には儂も関わっているぞ!」
「その時は普通に脱出するよ。ってかそんな状況になったら、いくら親方でもその場で修理出来ないでしょ。プロペラを止めたら落ちるんだし」
「壊れ方を直に見ることによって、分かることがあるじゃろ!」
「それはそうかもしれないけど、ピッケはどう?」
「俺もこいつの設計を一からやってきたんだ。どこかおかしかったらすぐに分かる」
「だそうです」
「ならば儂も乗せればいいじゃろ! そっちの方が確実じゃ!」
「人数が多すぎると、いざという時動きづらいから却下」
「そこを無理して頼む、小僧ぉぉぉぉぉ!」
物凄く嘆く親方。でもごめんね。人命優先で今回は我慢して。それに今回の飛行に問題がなかったら、時間のある限り試運転するから、その時に乗って。
親方はお付きの弟子達に任せて次に行こう。
「三人目は母さん」
「やった! 愛しているわよ、レックス!」
呼ばれた母さんは前に出てきて、俺をぎゅっとハグする。……離れない。母さんを引っ付けたまま理由を説明する。
「みんなも知っている通り、空にも魔物が存在している。例えばスピッドバードとかね。他にも未知なる魔物がいるかもしれない。だから遠距離攻撃が出来る母さんを選びました」
ここに居るみんなは母さんの強さを知っているだけに異論は出ない。
「んで、必要最低限の人数だと、この三人と俺だけになる」
俺がそう言うと、あちこちから残念そうな声が。
「ただちょっと俺の我がままで一人増やしたいんだけど、オイゲンに負担が掛かるかもしれないけどいい?」
「この老体に期待していただけるのなら構いません」
老体いうけど、オイゲン以上に色々と信頼できる人っていないんだよね。
「それじゃあ、最後はヴィルマー義父さん」
「私か?」
「ヴィルマー義父さんのお陰で、こいつを飛ばす決心がついたからね。そのお礼に、世界で初めて空を飛ぶっていう体験を味あわせてあげる」
「それは光栄だな」
ヴィルマー義父さんが微笑みながら前に出る。だけど、ここで今日一番の文句が出た。
「ちょっと待ったー!」
ヴィルマー義父さんに文句を言えるのなんて、この場には3人しかいない。その内の2人は家族であるリースとローザ義母さん。そして3人目はヴィルマー義父さんの親友である父さんだ。そして声を上げたのは父さん。
「ヴィルマーがいいなら、俺でもいいだろうが! ってか、俺の方が強いからお荷物にならんぞ!」
「アルベールよ。レックス自身が実の父より、私を選んだのだ。ならば潔く諦めるべきだと思うが?」
「実の父を選ばないから納得できないんだろうが!」
「その理由はお前も分かるのではないか?」
「あんなもん、綺麗事を並べた屁理屈だろうが! レックス! ヴィルマーの事だ。どうせ頭の中では飛空艇を使って、他の貴族をどう出し抜くかの計算をしているぞ! そんな奴より、実の父を優先する気はないのか!?」
「……貴族としては当然では?」
これをどう利用するかは、人それぞれなのだから。だからヴィルマー義父さんが政治に使おうが、それはヴィルマー義父さんの勝手だ。
「おいヴィルマー、人の息子をたぶらかしてるんじゃねぇ!」
「人聞きを悪いことを言うな。そもそもレックスが悩んでいたのを、お前が諭さなかったのが悪いのだろう」
「くっ……!」
いや、父さんにも普段から感謝しているよ。ここでは言えないけど、前世の知識を受け入れてくれた時は嬉しかったし。
「レックス、お前ならばヴィルマーより優先すべき人物がいることが分かるだろう!」
そう言いながら、リースとアンジュ、それにシィルを前面に出す。
「そう、お前の家族だぁっちぃぃぃぃぃ!」
父さんがいつまでも五月蠅いから、母さんが痺れを切らしていつもの火球お仕置を繰り出した。無論、周りに被害が出ないように調整している。無駄に神業だよな。同じ火魔法使いのリースも、じっーっと母さんを見つめ技術を盗もうとしている。
……将来父さんのように、俺もリースからお仕置されたら嫌だな。
「子供達が抗議していないのに、自分が選ばれなかったからって駄々をこねて。恥ずかしい人ね」
「エミリアは自分が選ばれたからそんなことを言えるんだろうが!」
確かに母さんの性格だと、選ばなかった場合一言二言小言を言われただろうな。だけど、父さんよりは引き下がりがいいと思う。
「アルベール、流石に見苦しいわよ。シィルも呆れた目で見ているの、気がついてる?」
「……はっ!? ち、違うんだ、シィル! これはシィルも乗りたいと思って反対しているのであって……」
「兄様がお決めになったことです。私は最初から反対などしていません。なのに私をだしにするなんて。父様は最低です!」
「さ、最低……」
シィルの一言で父さんの膝が崩れ落ちた。そして肩を震わせて涙を流す。
マジで泣いてない!?
父さんの涙は、ポタポタと地面濡らしている。そこまで落ち込むこと!?
いや、でも俺もシィルに最低とか言われたら落ち込むな。
……あ、想像しただけで泣きそう。
「兄様の事は大好きです!」
俺の表情から何を考えてくれてたか察した我が最愛なる妹は、俺を元気づけるために俺にエールを送ってくれた。それだけで俺の単純な心は立ち直る。
「「私は?」」
「大好きです!」
「「私も!」」
そしてリースとアンジュとシィルの定番のやり取りが行われた。
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