第12話

亜紀子が言った。

「今夜、飲む?」

「いいね」

「宮本さんも呼ぼうよ」

「ああ、それいいね」

「じゃ、言っとく。立川にいい店あるんだ」

「分かった、任せる」

亜紀子は、事務所を出た。

私は、監査資料に目を通しながら、宮本佐知子と三人なんて、初めてじゃん、と、嬉しくなった。

立川の居酒屋で、刺身の盛り合わせと、好きな日本酒、お嬢さん二人との飲み会。銀座のどんな高級クラブより、贅沢な夜。

「飲もうかって言った時の斎藤さんの、あの嬉しそうな顔」

亜紀子がほろ酔いで笑った。

「仕事じゃあんなに厳しいくせに」

「仕事で厳しくした?」

「そうだよ、私にミスがあっても、すぐにあちこち手配して解決してくれるけど、後になって飲み屋でお説教でしょ」

「そんなこと、あったね」

「あの時、トイレで泣いてたんだよ。店の人が、『気が済んだ?』って言ってくれた」

「へえー。別れ話って誤解されたかな」

「その後また楽しく飲んでたから、それはないよ」

佐知子は、にこにこして、

「今度、夢千代観に行きましょうよ」

と、話題を変えた。

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