第11話
「斎藤君なら何でも出来ますよ」
「だろうね。うちの事務にも、あれだけ出来る者はいません」
「将来の理事長だって」
「私も、まずうちで総務課長にと考えている。あとは彼の努力次第でしょう」
永井が、國枝に煙草を勧めた。
「ありがたいです。部屋では吸えんもので」
「各病棟に、広い喫煙室を作るつもりです。患者さんが、ゆったりとくつろげるような」
「それはいいですね。暇を持て甘して、売店で甘い物ばっかり買ってしまいますんでな」
「もちろん空調と火災対策は、万全にします。看護婦の許可を得て入室し、ゆっくりテレビでも観ていられるスペースで、今設計を依頼しているところです」
「ああ、助かりますわ。他に何にも楽しみがないもので」
「酒は厳禁ですが、煙草は楽しんでもらいたい、吸いすぎはいけませんが、それは個人の自覚に任せます」
うまそうに紫煙を吐いて、テーブルに置かれた灰皿で、もみ消した。
「食事は、どうですか」
「はっきり言って、不味いです」
「すみません。まずは、温かい物が出せるように、調理場の温冷蔵庫に大幅に予算をつけます。調理員が悪いわけではないのです。素材も予算内で旨い物をと、栄養士が懸命にやっているところです」
「院長、究極の幸せとは、何だと思いますか」
「それは生き甲斐、とか、人間関係、とかいうことですか」
「いえ、単に、美味しい物を頂く、それだけです」
「なるほど、よく覚えておきます。ありがとうございました」
「では、盗聴されても困るので、この辺で失礼いたします」
深々と、一礼して、部屋を出た。
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