第8話

堂村秋彦は、川本にお茶を勧めた。

醜く太った体をソファに沈め、粘着質の物言いで、言った。

「下手なことをしたものです。あなたは首になると、ホームでも噂が立ってますよ」

「すみません。私の考えが甘くて」

「ホームにも、病院にも國枝さんのシンパが多くいるのは知ってるでしょう。永井が動いてるのはまずいですね」

「後任は小橋さんとか」

「いや、小橋には私がストップをかけています。100%あり得ません。あれも気の小さい男です」

「しかし、私の部下、斎藤が永井院長に会ったとか。他の部下も態度が変です」

「駆け込み宿の所長を続けるのは、難しいかもしれませんね。ホームの副園長ポストでも用意しておきましょう。小橋君はどこかに異動させますから」

「そうして頂けるとありがたいです。次の理事長に堂村さんが就くためには、何でもしますから」

「君の体は、まだまだ魅力的です。せいぜい磨いておきなさい。では、今夜は当直なんでしょう。長く留守にすると、また何を言われるか分かりません。下がりなさい」

川本は、深々と一礼して、誰にも見られないように、部屋を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る