第6話

浜村さちゑ、58歳。

都下のラブホテルの店長をしている。元SMクラブの売れっ子であった。

現在もクラブと提携して、プレイにホテルを使わせている。

母と二人暮らし。貧しい暮らしを助けるために、風俗の道を歩んで来た。

妹は私立の医大を出て、そのまま病院に残って外科医をしている。学費はもちろんさちゑが出した。

痴呆が進んだ母を、介護保険のなかった時代、一人で世話して来た。

父は、在日韓国人だが、行方知れずである。母は廃品回収業を細々とやっていた。

容姿に恵まれ、機転の効くさちゑは、真美という名で、店長に可愛がられ、三年で店のナンバーワンになった。

三十代からは、夜学で簿記とそろばんを学び、店の事務も担当するようになった。

四十代になると、馴染みの指名客以外は現場に出ず、店長の右腕として経営の才能を磨いて行った。

そして、五十で店を円満退職し、コツコツ貯めたお金で、ホテルを買い取った。

一般客にも評判が良く、クラブの女の子たちからは、姉さんと慕われていた。経営は、そこそこ黒字を保っていた。

一時、母の世話で精神的に行き詰まっていたさちゑは、広報で、24時間老人に関する相談を受け付ける施設を知った。

夜遅くに、藁にもすがる思いで、そこに電話した。すぐに、おじいさんらしい声で、どうなさったですか、と返事が聞こえた。

さちゑは、都合で深夜電話したことを侘び、そこでは、家族からの相談も受けてくれるのかと、聞いた。

老人は、もちろん、高齢者に関する悩みなら、本人でも家族でも誰でも聞くし、今でも話してみなされ、と答えてくれた。

さちゑは、改めて昼間相談に伺います、ご親切に感謝します、今聞いただけでも、気持ちが軽くなった気がします、と言って電話を切った。

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