第10話 平福宿

 伊吹たちは大原に到着していた。

 大原から南に下った先にある宮本村は、かの剣豪、新免武蔵の出生地と言われている。巌流島での佐々木小次郎との決闘はあまりにも有名だ。六十余回の勝負にすべて勝利したという無類の剣客も、今はまだ生まれていない。

 激しい雨の中、街道にはほとんど人がいなかった。雨で霞んだ家々が侘しい気持ちを抱かせ、六人は早々に宿へ入りたくなった。

 しかし、気がかりが一つあった。鬼坊の存在である。いつ、再び追ってくるか分からない今、宿で落ち着いている場合ではないように感じたのだ。このまま大原を素通りして先に進みたいという気持ちも半分あった。

 そして、鬼坊が因幡方面へ向かっていた理由も気になっていた。おそらく、忍びを追いかけている蒼龍たちに勘付いたのだろうと思っていたが、誰もそれを口にはしない。

 こうして気持ちが揺らぎながらも歩くことを止めないのは、やはり鬼坊を恐れているからであろう。

「若旦那、お待ち下さい」

 とうとう、お松が行進を止めた。それに従い、他の者も立ち止まってお松のほうへ視線を送る。

「このあたりで休憩いたしませんか。蒼龍殿と源兵衛さんの到着を待つ必要もございますし」

 お松の提案を、伊吹は

「あの大男が戻ってくるかもしれないんだぜ。こんなところで道草を食ってる場合じゃないだろ」

 と一蹴した。

「しかし、蒼龍殿と源兵衛さんを置いていくわけには参りません。大原で落ち合う約束になっていますから」

「だったら誰か一人がここで待つんだな」

 お松は大きなため息をついて、後ろを振り返ろうとした。その時、お蘭がお松に話しかけた。

「私がここで待ちましょう。皆さんは先にお進み下さい」

 その申し出を聞いた伊吹が

「決まったな」

 と言って先に進もうとする。

「お待ち下さい若旦那。お蘭殿、一人でここにいて、もし発作が起こったらどうするおつもりですか?」

 お松にそう言われて、お蘭はそれ以上何も答えられなくなった。誰もが黙したまま、時間だけが過ぎていく。

「分かりました、私も一緒に残りましょう」

 ついに、お松が口を開いた。

「この先、峠を超えると平福宿があります。そこでお待ちになって下さい」

 お松が伊吹にそう伝えると、伊吹は慌てて

「この先で敵に遭遇したらどうするんだ」

 と叫んだ。

「一之助、三之丞、お雪の三人で対処するしかありませんわ。でも、少なくとも、あの大男に遭うことは避けられます」

「赤髪の野郎が現れたらどうするんだ」

「ならば、ここに残りますか?」

 お松の挑発的な言葉に、伊吹は怒りで顔を真っ赤にした。

「勝手にしろ!」

 そう言い残し、伊吹は先に歩き出した。

「皆、若旦那をお願いします。できるだけ早く追いつくようにするから」

「お松さんも気をつけて。あの大男に出くわしたら、逃げたほうがいい」

 そう忠告する一之助に対し、お松は微笑みを見せた。

 こうして、お松とお蘭を残し、四人は平福へと旅を続けた。


「お菊さん、どうしたの?」

 雪花は、旅の荷物をかき分けて何かを探しているお菊に声を掛けた。

「お祖父様から頂いたお守りが見つからなくて・・・ どこかで落としたのかしら。旅の安全を祈願したお守りだったのに、なんだか不吉だわ」

「お守りをなくしたのね。でも、気にしなくても大丈夫よ」

「ですが・・・」

 不安げな顔をするお菊に、雪花は微笑みながら

「お守りはね、なにか悪いことが身に降りかかりそうになった時、身代わりになってくれるの。役目を終えたお守りは、手元から離れてしまうものよ」

 と説明する。お菊は、少しホッとした様子だ。

 お菊は、雪花と会話したことはあまりない。宿に入ってからはいつも、昼間はお菊が外を出歩いているし、夜は雪花が外出している。雨のために外出できず、ちょっと退屈気味だったお菊は、雪花に対するちょっとした興味を覚え

「雪花様は、妖術というものをお使いになるのですよね」

 と尋ねてみた。

「あら、誰から聞いたのかしら」

「ごめんなさい、お祖父様とのお話を盗み聞きしていたんです。目を合わせるだけで、相手に幻を見せることができるって、何だかすごいですわ」

 あどけない顔で目を丸くするお菊に雪花は

「でも、使い方を間違えると危険な代物よ。相手にとっても、自分にとっても」

 と応えた。

「危険のない妖術なんてないんですか?」

「そうね・・・ こんなのはどうかしら?」

 雪花は、窓から雨の降る外へ手のひらを上にして差し出した。すると、雨が手のひらの上で球体の形に集まり、それはだんだん大きくなっていく。

 手毬くらいの大きさの雨水の塊が、雪花の手の上でふわふわと揺れている。お菊はただ、口を開けてそれを注視するだけだった。

「これは水鏡。人によって映るものが変わる不思議な鏡よ。覗いてみる?」

 お菊は、ゆっくりとうなずき、おずおずと水鏡に顔を近づけた。最初は自分の顔が映っていたが、それはだんだんと揺らいでいき、代わりに他の者の顔になる。

「伊吹様!」

 お菊が思わず叫んだ。水鏡に現れたのは、伊吹の顔だったのだ。

「この鏡はね、その人が一番欲しているものが映るの」

 その言葉に、お菊の表情が驚愕から動揺へと変わった。その顔を、雪花は穏やかな眼差しで見守る。

「あなた、まだ未練があるのね」

 雪花に心の内を明かされ、お菊は何も言えない。お菊が旅に同行する本当の目的は、伊吹の身を守ることなのだ。伊吹が拷問で苦しめられることに耐えられないのである。

「あなたにとって、この妖術は危険なものだったようね」

 雪花はそう言って微笑んだ。お菊は慌てて

「違うんです。私・・・」

 と悲鳴のような声を上げたが、その後の言葉が出ない。そのまま下を向いて泣き出してしまった。

「ごめんなさい。あなたの隠し事を暴くつもりはなかったのよ。大丈夫、このことは二人だけの秘密にしましょう」

 お菊は、手で顔を押さえたまま何度も首を縦に振った。

「心配しなくてもいいのよ。伊吹様は捕らえられても、すぐに殺されることはない。あなたが、お祖父様を説得すれば、きっと助けてもらえるわ。その時は、私も協力するから」

「ありがとうございます」

 ようやく、お菊は泣くのを止めて、潤んだ瞳を雪花に向けた。その目の中に、彼女の別の意志を感じ取ったのだろうか。

「お菊さん、あなた、死ぬつもりね」

 と雪花は問いかけた。お菊の目が揺らぎ、何かを言おうとしているのに言葉が出ない。

「軽率な真似だけはしちゃ駄目よ。生きていれば、何だってできるのだから」

 雪花は、お菊の頬にそっと手を添える。その手の冷たさに、お菊は自分の熱が吸い取られるような錯覚を覚えた。それと同時に、心が落ち着くような気がして

「ありがとうございます」

 ともう一度礼を言った。


 蒼龍と源兵衛が大原宿に到着した時、雨はだいぶ小降りになっていた。

 笠も付けず、びしょ濡れのまま街道を歩く二人に、道行く人々は訝しげな目を向ける。

「まだ少し、手足がしびれるな」

 腕を擦りながら源兵衛がつぶやいた。

「少し休むか?」

「いや、大丈夫だ」

 源兵衛は、心配する蒼龍に

「しかし、猛毒だったら、あの世行きだったな。わしとしたことが、色香に惑わされたか」

 と笑顔を見せる。

「あれでは、ほとんどの男が惑わされるよ」

 蒼龍も釣られて笑い出した。

 街道にはいくつかの宿が点在していたが、伊吹たちがいる目印は探し出せなかった。宿に入ったら、入口付近に目印の草鞋を掛けておくことになっていたのだ。

 あたりを見渡しながら、しばらく歩いた後、蒼龍がふと遠くに視線を送った時、誰かが手を振っているのが目に映った。

「あれはお蘭か?」

 蒼龍が驚きの声を上げると、源兵衛も懸命に手を振るお蘭の姿をすぐに認め、二人は一斉に駆け出した。

「あなた、源兵衛様、ご苦労さまでした」

「ご無事だったのですね。見張りの者は、どうなったのですか?」

 到着するなり、お蘭とお松が一斉に話しかける。

「敵には逃げられたよ。いろいろと聞きたいことがあったのだが」

「ところで他の者はどこに?」

 蒼龍が返答し、源兵衛が問いかけた。

「ここを通り過ぎて平福へ行きましたわ。それで、お二人にお知らせするために私達が残ったのです」

「何かあったのか?」

 源兵衛に尋ねられ、二人は大きくうなずいた。

「店に一度押しかけてきた大男がいたでしょ。ここに来る途中でばったり遭ったの」

「鬼坊とかいう奴か?」

 お松は源兵衛に視線を送り

「なにやら急いでいたみたいで、私達は全員助かったんですが」

 と説明した。

「すると、奴らはこの付近に?」

「いいえ、鬼坊は因幡方面へ戻っていったわ」

 蒼龍と源兵衛が顔を見合わせた。

「あの女が知らせたのか? でも、どうやって?」

「相手は忍びの者だからな。何らかの伝達手段を持っていたのかも知れぬ」

 源兵衛は、さらにお松へ質問した

「鬼坊は一人だけだったのか?」

「他に二人ほどいたわ」

「あの赤毛の男は?」

「いなかったわね」

 源兵衛は腕を組んで黙考した後、静かに話し始めた。

「鬼坊がわしらを狙う刺客の一人であることは間違いないだろう。おそらく、見張りからの助けの求めに応じて戻っていったんだ。我々の動きはすでに知られてしまったと考えたほうがいいな」

「すぐに出発したほうがいい。ここにいることが知れたら面倒なことになる」

 蒼龍がそう忠告した後、四人は沈黙したまま歩き始めた。


「奴ら、すでに先へ進んだぞ」

 宿に戻るなり、鬼坊は叫んだ。

「出し抜かれたか」

 月光が薄ら笑いを浮かべる。

「お蝶、お嬢様と雪花殿をお連れしろ。すぐに出発する」

 お蝶は鬼坊に命じられ、すぐにお菊たちの下へ向かった。どこから仕入れたのか、淡い紫の小袖を着ていた。

 銀虫がすっと立ち上がる。

「俺から逃れられると思うな。必ず兄者の敵を討つ」

 こうして、鬼坊たちの旅も再開した。雨はすでに止み、薄墨色の雲の切れ間から光が差している。その光を浴びながら歩く鬼坊たちの集団は、周囲から浮いていた。赤毛で目立つ銀虫はもちろんのこと、不気味な笑みを湛えた異常に痩せた男や、山のような二人の大男という組み合わせに、道行く人々は皆避けながらも遠目でちらちらと眺めていた。その集団の中に、三人の美しい女性の姿があったからだ。

 街道は吉野川を離れ、軒を連ねていた家々もまばらになり、やがて姿を消した。ここから釜坂峠だ。鎌倉倒幕に失敗し、隠岐に流された後醍醐天皇が、翌年に隠岐を脱出して京に上ったとき、この峠を通ったと伝えられる。峠を越えれば、そこは播磨国であった。

 峠の道は細く、陽の光は木々に遮られ、あたりは暗く沈んでいた。鬼坊たち以外に、旅人の姿は全くない。途中、湧水で喉を潤す四人の旅人に出会ったのが初めてだった。

「この水は美味しいですね」

 水をすくって一口飲んだ女性が、すぐ横に立っていた男性に話しかける。そのそばには、別の男女が何やら話をしていた。

 鬼坊が、その様子を一瞥した途端、大股で近づいていった。ただならぬ気配を感じて、四人の男女が一斉に振り向く。その表情は、驚きから恐怖へと変わっていった。

 不動明王のような顔で見下ろす鬼坊の姿に、四人は動くことができない。少しの間の後、男性が振り絞るような声で鬼坊に話しかけた。

「何か、御用ですか?」

 鬼坊は怒りの形相になり、女性たちは二人の男性の背後に隠れた。その男性たちも、あまりの恐ろしさに体が震えている。

 四人の旅人は蒼龍たちではなかった。人違いだったことが分かった鬼坊は、舌打ちをして去っていく。気の毒な旅人たちは全員、その場に座り込んでしまった。

「違ったようだ」

 お蝶に一言伝えた後、一行は旅を続けるのだった。


 伊吹たちは、播磨国の平福に到着した。

 空には赤銅色に染まった雲が流れている。すでに日は西へ傾き、小高い山々に暗い影を落としていた。街道の左側には、佐用川が穏やかに流れている。

 平福はかなり大きな町で、戦の痕跡は至るところにあるものの、店などが多く並び、栄えていた。旅籠もいくつか存在し、戦国時代においても旅をする者が少なからずいることを示している。その宿の一つに入ってすぐ、伊吹は部屋の奥で縮こまり、開口一番

「あんな大男が相手じゃ勝ち目がない」

 と叫んだ。

「若旦那、しっかり」

 お雪が声をかけるが、伊吹は頭を押さえて震えるばかりだ。

 一之助が三之丞に目配せした後、お雪に向かって

「俺たちは外を見張ってくる。お松さん達が到着したときに誰かいたほうが分かりやすいだろうから」

 と言って去ろうとするが、伊吹は

「駄目だ、ここにいることが奴らに知られてしまう」

 と反対する。

「ならば、宿から離れた場所で待ちますよ」

「でも、奴らに見つかったら危険だわ」

 お雪に指摘され、一之助は頭を掻きながら三之丞に視線を送った。

「大丈夫、隠れて見張るようにするから」

 三之丞の言葉を聞いたお雪は心配そうな顔を二人に向けている。彼らは、大丈夫だと言わんばかりに笑顔を作りながら宿を出ていった。


「あの状態では、しばらくは旅を続けることができないな」

「ああ、困ったもんだ」

 一之助は、額の傷を触りながら大きなため息をついた。街道を歩く人の姿はほとんどない。遠くから、烏の鳴く声が聞こえてきた。

 二人は、狭い路地に入り込み、そこから街道のほうを監視することにした。暗く湿った路地は居心地は悪いが、街道側からは影になってよく見えないので隠れるのには最適だ。

「無事にたどり着けるのだろうか」

 しばらくしてから三之丞が一之助に尋ねた。

「若旦那次第、かな?」

「いや、あの大男や赤髪を倒さない限り、無理な気がするが」

 一之助は首を縦に振り

「鬼坊とか名乗ってたな。恐ろしい力だった。正直に言うが、俺はあの男を倒す自信はない」

 と告白した。

「大男といえば、もう一人いたが、お前、見たか?」

「いや、気づかなかったな」

「あれも西極屋の用心棒だよ。何度か目にしたことがあったが、相当な怪力の持ち主らしい」

「ふん、化け物揃いだな。西極屋というのは」

 そう言って笑う一之助に三之丞は

「今日は三人いたな。見張りが一人にあの赤髪と、倒した奴を併せて六人か。これだけだろうか?」

 と聞いてみた。

「まだ、とんでもない怪物がいたりしてな」

「よしてくれ」

 三之丞も笑い出した。二人とも、それが事実であることはまだ知る由もない。

 日は沈み、あたりは薄暗くなる。あるのは家々から漏れるわずかな光のみ。人の気配もなく、時折、狼の遠吠えが聞こえる。

 二人は辛抱強く待っていたが、蒼龍たちが現れる様子はない。少し不安になった一之助が

「大丈夫だろうか」

 とつぶやいた。三之丞はそれには何も答えず、遥か遠くに目を凝らしている。

 その視線の先に人影が映り、二人は思わずあっと声を上げた。

 それは蒼龍や源兵衛、お松、そしてお蘭の、どの姿にも当てはまらなかった。早足で近づいてくる大きな黒い影に、二人はさっと身を隠した。

 やって来たのは、鬼坊たち一行だったのである。


 先頭には鬼坊とお蝶、その後ろをお菊が懸命に付いて歩いている。そんなお菊の姿を、鹿右衛門と猪三郎が背後から心配そうに見守っていた。

「ここが平福か」

 鬼坊がお蝶に話しかける。

「そうね。奴ら、もう宿に入っているわよ」

「ふん、また外で寝ることになるのか」

 鬼坊が立ち止まった。他の面々も歩くのを止める。

 その場所は、一之助と三之丞が隠れている位置のすぐ近くだった。二人とも動くことができず、鬼坊たちが立ち去るのを静かに待つしかない。

「さて、お嬢様、今夜こそはお蝶とともに、宿に泊まっていただきますよ」

 鬼坊は、お菊のほうを向いて話しかけた。

「私なら平気だと申したはずですわ」

「正直に申しますと、お嬢様がいては仕事がやりにくいのです。これからは、互いが血で血を洗う修羅場と化しましょう。その中でお嬢様をお守りするのは非常に困難です」

「足手まといだとおっしゃるのですか?」

 お菊の問いには答えず、鬼坊はただ、お菊の顔をじっと睨んでいた。

「お嬢様に何かあれば、元締めに合わせる顔がありません。それに、我々が人を惨殺するところを見られたくはないのです」

 鹿右衛門がお菊の横に立って訴えかける。お菊はそれ以上、反発することができなくなった。

 お蝶が、お菊の肩にそっと手を添える。お菊は何も言わず、お蝶とともに歩き始めた。鬼坊は、二人の姿が闇に紛れて認められなくなるまで立ち尽くしていた。

「よし、もういいだろう」

 鬼坊がそう言うやいなや、月光が刀を抜いて、隠れている一之助たちに近づいていった。

「出てこい」

 二人が潜んでいたことは筒抜けだったらしい。低く唸るような月光の声に圧倒されつつ、一之助は覚悟を決め、すっと刀を抜いて月光と対峙した。

「蒼龍はいるか?」

「ここにはいない」

 月光は、蔑むような目で一之助をにらみ

「お前たちでは役不足だ」

 と鼻で笑った。この挑発に怒った一之助が刀を振り上げようとしたときである。月光が前進して一之助の懐に飛び込んできた。そして、月光の刀が一閃しただけで、一之助は訳もわからないまま斬り刻まれてしまった。

 一之助には、月光がただ一回だけ刀を振るったようにしか見えなかっただろう。しかし、月光は、間合いを詰めたと同時に一之助の両腕を斬り落とし、返す刀で首を落とした後、さらに胴、足と薙いでいたのだ。この早業に、三之丞だけでなく、味方の鹿右衛門や猪三郎さえも戦慄した。

「この先、町外れに墓地がある。そこで待つと蒼龍に伝えろ」

 三之丞は声を出すこともできなかった。まるで蛇に睨まれた蛙のように、解体された一之助を前にして座り込んでいた。

「ここへ来たことがあるのか?」

 鬼坊が月光に尋ねる。

「いや」

「なぜ、墓地があると分かる?」

「こいつが教えてくれるのさ」

 血に濡れた刀をかざして月光は笑う。その姿を目の当たりにして、鬼坊は得も言われぬ気味の悪さを感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る