第12話
「あなたっ! しっかり!」
目の前にめっちゃかわいい天使まで見えてきた。俺はもう終わりだ。
『聖なる光よ、この者に安寧を与え給え。苦しみを取り除き給え。蝕まれた身を清め給え。我は神の使徒、あなたに仕え忠誠を尽くす者』
天使の口走る祈りの言葉が、整然と列を描いて俺の体に吸い込まれていく。みるみるうちに苦しさが収まり、呼吸が整う。
俺は自分の体を起こして殴られた辺りに手を添えたが、かなり良くなってる。奇跡みたいな回復魔法だ。
信じられなくて目の前の女の子をまじまじと見たが、どうやら幻覚ではないようだ。昨日イルザが酒場で勧誘していた修道女だ。落ち着いて見てみると彼女は水浸しだった。開け放たれた扉から点々と水が
彼女は唇を噛み締めてぽつりと言った。
「あの後考えていたんです。本当にするべきことはなにかと」
「それでここまで一人で来てくれたの?」
静かな夜の空みたいな瞳が俺を見ている。
「はい。聖水を浴びてから来たので、魔物たちは私に近づくことはありませんでした」
「聖水すげぇな……。あ、いや、修道女さん。来てくれてありがとう」
彼女は照れくさそうにはにかむと、俺の手を掴んで立たせてくれる。日夜魔物熱の患者を治療して回る彼女の薄い皮膚はすっかり荒れていたが、それでも元の
「私はエルフリーデといいます。エリーと呼んでください」
エリーに促されるまま起き上がると、オークが広間の端からこっちに向かって突進してきている。せっかくの絹の服は
「何アレ!? イノシシ!?」
「しーつーれーいーねえええぇぇぇっ!!」
イルザの方に向かおうとしていたイノシシ、もといオークがこっちに向かって方向転換してくる。ヤバいはねられそう。
『ひっ、火、火球!』
かろうじで火球だけ作った俺は、それをオークの方に投げて一目散に走り出した。
「ちょっと! ぜエッ、ぜえっ、服焦げるじゃない!!」
自分の方に飛んできた火球を避けたオークは、俺に焦がされた服の裾を見て絶叫した。
「ぎゃあああぁぁぁ!! 私の
手が折られた時よりも強烈な絶叫だ。オークは自分の焦げた服を持って俺たちに見せてくる。棍棒なんてあんなに大事に使っていたのに、服が焦げた途端にポイだった。本当は痛くなかったんじゃないかとも思ったが、手の方も相当痛むらしい。かばいながら動いているのを見て、俺はヴィルを見た。ヴィルもオークの焦げて妙に短くなった裾を見て俺を見てくる。
「姫のくせに一枚しか服持ってないわけ?」
苦し紛れにそう言うと、オークは怒り狂う牛のような声を上げた。
「うるさいうるさぁい! もうすぐお父様がいらっしゃるのに!」
「お父様ぁ? 父親ならいいでしょ我慢しな」
この後に及んでイルザがオークを煽っている。流石に哀れになって俺たちはオークに助け舟を出してやることにした。
「安心しろって。俺だって王子だけど下着二枚ぽっちしか持ってないよ」
「イルザ、あんまりいじめてやるな。可哀想だろ」
口を出してくる俺たちをイルザは実に汚らしいものを見る目で睨みつけてくる。
ヴィルは実に女の子受けしそうなかっこいい顔に爽やかな笑顔を浮かべた。だいたいこういう人受けの良さそうな笑顔を浮かべる時は嘘か誘導尋問しかしてこないが、このオークは知らない。ヴィルのナイスガイな笑顔にちょっとときめいているのか、ブモ、となんとも豚のような鳴き声を上げた。
「それで、お父様ってどんな人? かっこいいのか?」
「そ、そうよぉ‥…。妖術使いで、すらっと背の高い人なの。お父様の作る毒は世界で一番すごいんだよ。すぐに私の友達を沢山作るために、って毒耐性の低い人間たちの近くに来て実験を始めたの。毒の改良も進んできたけど……」
言いづらそうにオークは俺たち一行を一瞥した。
「ニンゲン、ヨワイ……すぐシヌ……」
「なんで片言なんだよ」
俺のツッコミでへにゃりと笑ったオークだったが、途端に足元に金色の輪が浮かび上がる。見れば服の
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