第8話 回想EPISODE.1
「殺らなきゃ犯られる」
腕は動かないびくともしない力で押さえつけられてる。
これから私は犯されるのだ。
この醜悪な緑の化け物に。
涙がでてきた。
自分の無力に。
叫ぶ。わめく。助けを求める。
でも、誰も答えてくれない。
「はっ」
目が醒めた。
「すっごく嫌な夢」
すごい寝汗を巴はかいていた。
もう朝か。
窓から中庭を見渡す。
小鳥が3羽飛んできた。
井戸のまわりに仲良く飛び交うのを見て癒やされた気がする。
「私はまだやっていける」
先ほどみた悪夢を思いだし身震いをする。
自分に納得させるように、巴はまたつぶやいた。
隣の部屋から奇声が響いた。
遊都もうなされているのだろう。
仕方ない、それほど異世界での初戦闘はショックが大きかった。
巴は、遊都の心の平穏を静かに祈った。
$ $ $
遊都は夢を見ていた。
嘘のような本当にあった怖い夢だ。
暗い世界の中遊都はひとりぼっちで椅子に座っていた。
何気なく右を見ると光がみえた。
中肉中背の小男らしき人影が見える。
あれは、
そう、大当たりだ。
場違いな陽気なファンファーレが鳴り響く中男は微動だにしない。
違うんだ。そこは違うんだ。
右にパカパカしているものがあるだろう。
そこに玉をいれるんだ。
右打ち
「そこじゃねえんだよアタッカーはああああ」
自らの叫びで遊都は飛び起きた。
悪夢だった。
でも悪夢と闘わないと生きてはいけないんだ。
嫌な気分を吹き飛ばそうと窓から中庭を見渡した。
雀がチュンチュン3羽
右から左に通り過ぎた。
ふっ。
通常演出か。
「くそったれが」
パチンコ店で一歩踏み出して右打ちを教えてあげなかったことを後悔した。
「そういやハーデスの時は踏み出せたな。何もかもを失ったからか。以前踏み出せなかったことを後悔しているのか」
ハーデスとのやりとりを思い出す。
「別に裏ロム欲しくないな。当たるだけの台の何が楽しいのだろう。全く自暴自棄だったな」
最悪な気分のまま今日も一日が始まる。
$ $ $
「よ~冒険者ぁ~今日も楽しく冒険してるか??」
ギルドに何か情報を探しに行った俺らを迎えたのは対照的なほど陽気なグレイソンだった。
今日も朝だというのに酒を飲んでいるらしい。
楽しくなんかないとぶっきらぼうに言った俺らに、いいからいいから経験者に相談してみなと言われ、昨日のゴブリンとの一戦を話したら大爆笑された。
「ひえっひえっひえ、あー笑った笑った。アンダーツリー1の珍事だなっ!」
それにしてもゴブリンで死にかけるとかと痙攣みたいに笑うグレイソンに訂正する。
「死にかけてない逃げただけだ」
「まあまあ似たようなもんだろう。普通は実力差があったら逃げれない。準備は基本だな。あらゆることの基本だ。」
確かに準備する。その視点は欠けていた。巴の能力を把握したのだって道すがらだ。引き返すことならその時できたはずだ。
巴がスキルについて愚痴をこぼした。
それに対してグレイソンは素で驚いてた。
「え、何スキル磨いてないの?」
スモールキャタは? 最初はスモールキャタって言ったよね。俺。
「そりゃあ死ぬよ死んじゃうよ~~」
どかっとジョッキを置くとグレイソンは語る。
「ゴブリンって動物じゃないんだよ。魔物魔物。生命力が段違い。ここの世界の住人は普通ゴブリン倒せるまでスキル磨いてゴブリン倒して、冒険者登録だもんね。俺らとは順序が違う。まずはスキルを満足するまであげな」
しかしまあと話を区切ってまた話がループしだした。
「お前らスモールキャタでスキル上げしてないのか~やるな~冒険してるな~。」
酔っ払ってんなあ。助言はありがたいけれど。
「何生きてたんなら笑い話さ。いや生きていても笑えない話もあるか。だがここは王都じゃない。笑い話だ。いい思い出じゃねえかゴブリンにうひひいゴブリンに殺さぷすす殺されかけるなんて……」
伝説もんだぜ。
あっ焼き串もう5本ねー。
真面目な顔になったグレイソンが言う。
「トラウマは引きずる前に治療したほうがいい」
ほらスモールキャタ狩りにいったいった。
グレイソンは俺たちを追い払うと「スキルは使えよ~」と追い打ちをかけた。
一週間経った。体液どろどろの一週間だった。
俺と巴のスキルはこうだ。
伏見 遊都
<ユニークスキル>
神眼(見たいものだけを見れる)
神眼Lv.2(本当に見たいものの一部を具現化できる)
<アクティブスキル>
|乱数支配(ランダム・オーダー)<30秒>
弓術Lv.2
射出Lv.1
<パッシブスキル>
言語理解・時刻理解・スキル表
徳川 巴
<ユニークスキル>
原初の炎(感情を炎に変える)
原初の炎Lv.2(感情の炎を収斂できる)
<アクティブスキル>
炎操作Lv.2
熱耐性Lv.2
槍術Lv.1
剣術Lv.1
<パッシブスキル>
言語理解・時刻理解・スキル表
話し合った結果俺が後衛、巴が前衛だ。ゴブリンのこともあって巴が前衛なのはどうかと思ったが炎には射程範囲があって遠ければ遠いほど難易度があがるらしい。それで射出で弓を射って牽制できる俺が後衛に回ったかたちだ。弓術を取得したはいいが矢の代金が馬鹿にならないことに気づいた俺たちは血反吐のでるような不摂生な食生活をして、矢を夢の中でも欲しがっていたら、射出という名の魔法の矢を生成できるスキルをが覚えていた。このときばかりはレベルの上がった神眼に感謝した。魔力を具現化できる射出はこれから派生したのだろう。見たい物を具現化できる。これ神スキルなんじゃない? 巴は最初に槍、次に剣を試していたが、どれもしっくりこないらしい。幸いにも武器に炎をまとわせることも炎操作Lv.2からできるようになったので、これでトラウマ克服もといゴブリン退治ができそうだ。
今日はゆっくり休んで明日の闘いに備えることにした。いつまでもスキル上げしたい気持ちもあるが、このまま異世界に腰を落ち着けるつもりのない俺たちは急いでいるのだ。例えそれが生き急いでいると言われたとしても。
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