第5話 デモ画面
「お前ら死ぬぜ?」
ギルドから出て行こうとした俺に声をかけてきた。
熟練者っぽい顔立ちの顔が真っ赤のおっさんからかけられた言葉だ。
その様相は煽るわけでも根拠あるわけでもなく、とりあえず言っておくか的な感じではあったが。
別れた俺たちだったが行く当てもなく、同じようにギルド斡旋の無料の宿ですごす。
これも当然真城つばさ様とやらの配慮らしい。ここまで手厚いと逆に気持ち悪くなってくる。
当然朝は顔を合わすことになる。気まずい朝それでも依頼を協力してこなす。
口数は少なめだが、俺たちは頼れる人が他にいない。
「まじめに働いてくれるならそれでいいのですが」
とは巴の言葉だ。きまずい。ただただ気まずい。
一応昨日は取り乱してごめんなさいと謝られはしたが。
「ただで武器が欲しい。それも強力な武器が」
武器屋の店主にそう言ったらこっちには一瞥もくれずに。
「冷やかしなら木の枝でも拾って使うんだな」と言われた。
悔しいので一人一本ずつ拾ってきた。先のとがった枝なら結構乱雑に放置されていた。
ギルドに何か自分たちでもできそうな依頼はないか見にいった。
「顔見知りでもいたら情報が手に入るんだが」
なあ、と巴にふるけど無反応。はあ。やっていけんのかね俺たち。
仕方なく遠巻きに掲示板に群がる人たちを見る。最低でも金属の剣もってんな。木の枝持ってる俺たちってめっちゃ浮いてると思うけど誰も絡んでこないな。見渡すと昨日唯一声かけてきたおっさんと目が合った。片手をあげてこっちに近づいてくる。
「よお、昨日のドンキーじゃねえか。やっぱりドンキーだな。珍しくもねえから誰も声かけねえか」
かっかっかっと快活に笑う中年の男はハリウッドスターと言われても驚かないぐらいの整った容姿で着崩しただらしないシャツなのにそれすらも映画の演出かと思わせる絵になる男だ。でも酒くせえ。
「珍しくないって?」
「よそ者ってことだよ何の伝もない、何の金もない。だがそこからのし上がるのもまたドンキーだ。ちなみにドンキーはまぬけって意味だ。ギルドで登録したろ? あれ仮登録だから。ゴブリンの耳持ってきて本登録な。これ常識だから誰も教えない。家族からの支援や下働きで貯めた金でまずは剣を買う。それが冒険者のなりかただ。それを知らないのはよっぽどの馬鹿か...」
声を潜めて自分たちにだけ聞こえる声量で呟く。
「地球から来たものだけだ」
ヒック。何がおかしかったのかケタケタ笑っている。
「悪い悪いお嬢ちゃん。懐かしくってなあ。ついついな。ちょっと訳あってアンダーツリーからやり直してんだが、思わぬ出会いがあるもんだ。記念に一杯いっとくか? なあに慣れればいいもんだぜこっちの世界もよぉ」
男がクイッて飲むジェスチャーをする。
「結構です。私たち一刻も早く地球に帰りたいので」
何故か急いで離れようとしている巴を、腕を掴み立ちどまらせる。
「よかったなら何か情報を」
「遊都っ!いいからいこっ」
何故そんな手がかりからはなれたがるんだこいつ。
「んんっ?? どうしよっかなあ~~一杯付き合ってくれたら何か思い出すかもなあ」
男はケタケタと相変わらず笑ってはいるが、眼は笑っていない。
「大サービスだ。恩に着ろよ。最初はゴブリンじゃなくてスモールキャタを狩るんだそれで小銭が稼げる。それで武器をそろえるんだな。なーに枝っきれでも倒せる。革袋は借りれるからな。あの糞アマのおかげでな」
ふんっ。男が鼻をならす。
「恩は必ず返せよ。俺はグレイソン・コート。お前は遊都か。嫌な名前だな。まあいい。今はアンダーツリーにいるが、王都で上級冒険者をやっている。時期にわかるさ。この世界は腐ってるってな。ははは」
立ち去ろうとするグレイソンを止め聞く。
「なんで死ぬって言った?」
ん? って疑問が顔に張り付いたグレイソンが納得したように言った。
「そりゃあそっちで死ぬんじゃねえよ、むしろそっちじゃ死なねえ。また会えたら分かるさ。じゃあいい冒険を」
大声で笑いながら出てったグレイソンが消えてから巴が怯えたように話しかけてきた。
「あの男諦めてた。帰ること諦めていた。あんな男より遊都の方が100倍マシ」
自分で言って自分で恥ずかしくなったのか手をばたばたさせながら巴は掲示板にいこっと誘ってきた。
グレイソンの言うとおりスモールキャタの討伐依頼を俺たちは受けるのだった。
スモールじゃねえよビッグだよ。
そういえば当たりを引いた時にビッグボーナスとスモールボーナスに分けられるものがある。引いた時点で抽選されどっちかのボーナスになるわけだが、それをラウンド振り分けと言う。ラウンド振り分けは偏るもので振り分けに負けたとか勝ったとかあるが、振り分けに例え負けたとしても当たりは続く方がいい。そしてラウンドはでかければでかい方がいいのだが。
「うえ~~でかすぎない?」
ぶしゅぶしゅ音がする。そりゃあ無抵抗な芋虫をぐちょぐちょにしてる音だ。
そしてその体液を革袋に入れる。
「泣きそう。でも泣いた目を拭いたくない。やっぱり泣きそう」
体液というか粘液を無事換金した俺は巴を待っていた。
ぐちょぐちょになった体を洗うため公衆浴場からでたところで待っているのだが。
なんて長風呂なんだ
パチンコにもエロ要素? があったなあと思いを馳せる。セクシー女優が題材になっている台があったりする1482とかこの台の面白い所は14回のSTと呼ばれる回数限定の高確率で当たりが狙えて、それが終わったら82回のチャンスタイムまたは時短というまあ2では踏襲されなかったのが残念だったが語呂合わせに感動したものだった。最近ではS○Dがだしていたなあ。ちなみに打つのは男だけかと思いきや普通に女性も打っている。何を思って打っているのか聞き出したいのは俺だけではないと思う。でも多分皆何も考えていないと思う。
とまあ愛すべきパチンコに思いを寄せていると、巴が出てきた。
ドライヤーもないので湯上がりに濡れた髪である。すごくいい。結っていた髪も鏡がないので今はストレートだ。湯冷ましに円形の形をした広場の縁に腰掛ける。聞くべきか聞かないべきか。パチンコは俺にとって人生だ。それを嫌っている人とパーティを組むなんてやっていける自信ないぞ。夜空を眺める。この世界に月はない。夜空に王都の魔法陣が浮かんでいて魔法陣明かりとでも言うべきものが夜の世界を照らす。遠くにもいくつか同じような白い光が見えるので結構色んな国があるんだろうな。心して巴に聞くことにする。俺たちは進まなければならない。こんなとこで躓くわけにはいかない。言葉を選ぼうと思ったが、ふいに出た言葉は率直なものだった。
「なあなんでそんなにパチンコを嫌うんだ」
沈黙が続く。六芒星が浮かぶ空を見上げたままぽつりと巴がこぼす。
「親を殺されたんです」
ちりちりという爆ぜるような音だけ巴の体から響いて聞こえる。
「パチンコ屋で耳にパチンコ玉を入れた男が路上に飛び出してきて、それを避けようとした車を運転していた両親が対向車線の大型車と正面からぶつかってしまって。幸いにも対向車の人は無事だったのですが。その後警察の現場証言の中から逃げていく男が耳からパチンコ玉をはずすのを見たという人がいて。それが直接の原因とは思いませんけど。それを知ってからはもう駄目で」
眼を閉じ巴は続けて言う。
「パチンコは悪なんです。あんな何の役にもたたず。百害あっても一利もないものはなくなるべきなんです。パチンコで人生破滅はしても成功はしない。何の目的も持たずどうしてパチンコなんてやるんですか?
だからかな私異世界に来てある意味ちょっと落ち着いたんです。どの街にもあるパチンコ店がここにはないから。でも地球に戻りたい。まだ私にはおじいちゃんとおばあちゃんがいるから。家族が待っているから」
パチンコは悪と断言する巴に俺はやはり何も言い返せなかった。けれどろくな人生が待っていなかったとしても、動機が俺の場合不純だとしても二人して地球に帰りたい。帰るべきだと思った。
「明日から頑張るから俺明日から」
「それ頑張らない人の言い草ですよ」
しばらくの間俺たちは広場でそれぞれ思慮にふけっていた。
「そろそろ戻りますね。明日からまた頑張りましょうね」
ぺこりと頭を下げて去って行く巴を見送り俺は決心した。
「決めた俺は明日からパチンコのことなんか忘れて頑張るんだ」
そう、俺は生まれ変わる。転生してやるよ!
「パチンカスからなっ!!」
上空に見える変わった形の六芒星が光っている明かりを見ながら俺は誓ったのだった。
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CRパチンカス転生~俺の連打が世界を救うver.~
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