第3話 未開の地ZONE
「さて、チュートリアルも終えたことじゃし、結界を解きたいのじゃが頼みがある」
「……どちらかと言えば嫌だ。ZONEは抜ける物じゃない」
「お主……立派なパチンコ廃人じゃな。しかしこれは男なら誰でも喜ぶくらいの美少女のことなんじゃ! 名を
ここチュートリアルで使うの、とぼやきながらハーデスが右手の杖を掲げる。ハーデスの神性に疑問が芽ばえると同時に一面荒れ地だった世界が緑豊かな草原へと生まれ変わる。彼方にはこの世のものとは思えない大樹が見えた。
腕組みした俺は呟いた。
「演出消化早くないか?」
そんな草原に咲く一輪の花。可憐なと言葉が似合うようなお嬢様のような少女が佇んでいた。丁寧に結われた髪からは育ちの良さがにじみ出ている。恐らく彼女が徳川巴で間違いないだろう。ただ、大自然にミスマッチなのが、今日大学か何かの卒業式だっけ? と思わせるような和装ということだ。それか大正時代の人が時空の狭間から連れられてきたに違いない。ただ一心に真っ直ぐ前を向いてらっしゃる。これは怖い。美人で可愛いだけにもの凄く怖いのである。その美少女が揺れぬ体幹でこちらに向かってくる。一歩また一歩近づく度ハーデスが怯える。俺に見向きもせず、ハーデスの方に大胆な歩幅で接近して……あ、ハーデスの胸ぐらを掴んで揺さぶりだした。
「いい加減にしてください。人を呼びますよ。呼びますから人がいるところに案内してください。圏外のところまでどうやって連れ去られたかは覚えていませんが、絶対絶対に私は許しません!」
え? 犯罪??
「じゃから死ぬところを契約したんじゃ。タンクローリーの爆発は忘れておるまいに。あっついあっつい」
「それは夢です!! 間違いありません! 警察呼びますよ」
「そこの人110番!!」
ぐわんぐわん揺れてるハーデスによく通る声で巴が詰問する。
街はどっちですか?? 肩で息をするように大きく叫んだ少女に対してハーデスは首元を押さえて苦しそうに答える。
「それは……教えられん……と言うてるじゃろが。儂にも色々と制約があるんじゃ」
鷹の目みたいな眼力から、役物が動く効果音みたいなイメージの罵声が響く。
これをどうにかしろと?
「あのー徳川巴さん? 何をしてらしてるのですか?」
美しい亜麻色の髪が動く。
「私を知っているということは捜索隊の方ですか? 失礼ながら警察の方とはお見受けられませんが」
「いやここは異世界という話で……」
「だったら!!」
「だったら尚更こんな平原でほっぽり出されてどこに行けばいいって言うのよ」
顔がひきつる。泣きそうだが、気丈さで必死に堪えている。
「町はどこにあるのって聞いても答えてくれないし」
「まあなんかしら事情があるんだろう?」
「そんな余裕ありません! ここが本当に異世界だと言うのなら尚更」
俺は過去の経験からこういう時なんて言えばいいかを知っている。だが、それが通じたのなら、俺はまさかその為だけに連れて来られた……なんてことはないよな。
「私も貴方も飢え死ぬわ。この頑固な老人のおかげでねっっ!」
涙がつつーっと一筋こぼれていた。
「大丈夫だ、安心して欲しい」
倒れそうになる巴の体を支えて言った。
「俺はこういう状況に慣れている」
ハーデスの肩に手をかけ、言葉を投げかける。
「答えれなければ答えなくてもいい。だから教えてくれ……」
俺の噛みしめるように言った質問に、ハーデスの眼が大きく見開いた。
§ § §
「遊都~遊都って呼んでいい? 代わりに私も巴って呼んでいいわよ。でねでね。何で街の場所を教えてくれたの?」
草履なのに、軽やかに飛び回るようにはしゃぐ巴。
「あんまり考えたくないけど俺が連れてこられた理由? ってのがそれかもしれない。つまり俺はパチンコを……するから」
ふーんパチンコをするんだ。オウム返しで巴が相づちを打つ。
「へー見下さないんだ珍しいな」
「えっ? パチンコでしょ? 弾を飛ばすやつ。変わっているね」
「そうかな……でももう打つことはないかもしれないな」
「撃てるよ! 私街にいったらあると思う。だって異世界だもの。鳥とか撃つイメージがあるのだけど、魔物にも効くのかも。いいえ効くに違いないわ。なんたってファンタジーですもの」
あ、ごめん神眼作動してた。そうか。打てるのか。
「パチンコ打てるって楽しみだね」
「ええパチンコで撃てるって楽しみですね」
あはは、と楽しく笑って、俺たちにとって最初の町。大きな大樹の下にある町へと向かったのだった。
見知らぬ土地ときたら誰もが経験するしょうもない話だ。俺はパチンコを見知らぬ土地で打った時のことを思い出していた。パチンコで勝って現金にしようとしてもそれはできない。だからまず特殊景品に交換するんだ。そしてその特殊景品を古物商のお店で現金にしてもらう。その場所というのが時に分かりにくいんだ。特殊景品に交換する客を追いかけてもよくわからない時があって、仕方なしに店員に聞くんだ。その時にはそのお店を教えたらいけないという慣習がある。
ハーデスは爽やかな笑顔で俺に答えを言った。
「次の町がどちらにあるかは知りませんが。出られた皆さんは右手の大きな木の方へ行かれますね」
三店方式でもやってんのか! ここは!
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