第2話 スペック
「来ちまった来ちまった」
俺はのけぞり澄み切った大空に向かって叫ぶ。
「パチンコのない世界にいいいいいいいいいいいいいいいいい」
ここには俺の陽だまりはない。大声をあげても70億人の誰からも見咎められることのない荒野に俺はいた。殺風景過ぎて嫌になる。通常時か?
「ほっほっほっ、ここの道案内まではお役目じゃから果たすぞ、いわゆるチュートリアルじゃ?」
何もない空間から仙人めいた白いローブのような格好でハーデスが現れる。首元まで伸びた厚いローブで正直暑苦しい。ハーデスによるとどうやらこの空間はチュートリアル専用の空間で結界が貼ってあるらしい。ザ☆魔法。
「チュートリアル。つまりパチンコで言うデモ画面か」
「お主パチンコで例えないと死ぬ病でもかかっとるのか」
「ああ、とにかく打ちたい。で、何日で元の世界でパチンコ打てるの」
「それはお前さんの頑張り次第じゃ。それに戻ったところで打つ資金もないじゃろ?」
「うっ、痛いところを」
「話が進まぬ。主、ステータスオープンと唱えよ」
よかろう。右手をかざしステータスオープンと唱えた。
半透明の板が現れた。SF映画の無駄演出である。
「ザ☆通常演出。もうちょっと熱くなる演出はないのかね」
愚痴をこぼしながらもステータスを流し見る。数字が何やら書いてあったが低いか高いかも分からん。
お、一行目に俺の名前。
「遊都よ、お主にはこの世界の絶望から儂を救って欲しい」
眼を閉じてしんみりしながら爺さんが言う。
やめろシリアスな展開は俺に効く。
「具体的にはどうすればいいん? 魔王でも倒すのか?」
「それはの……ぐっっ」
首元を押さえハーデスが倒れる。大丈夫だと言いながら、ゆっくり立ったが顔面がやや青白い。息を切らしながらもハーデスが呟く。
「ともかく……お主は選ばれた。……選ばれた以上、特典が必要じゃ。スキルの欄を見るがいい神眼が備わっておるじゃろう。神眼は本当に見たいものを見通し、それが不安定な事象を固めるほどの力を持った能力じゃ、お主が本当にみたいものだけを見せてくれることぞ」
へーこれが裏ロムみたいなものね。
試しにハーデスのステータスを覗いてみた。
[すてーたす]
CRアナザーゴ○ドハーデス アドベンド
真名(型式名):CRアナザーゴ○ドハーデスRD
ライフ(1/X):319.7→46.9
命中率(確変率):65%
継戦能力(確変システム):次回まで
追撃能力(時短システム):100回
防御力(平均連チャン数):3.9回
攻撃力(出玉):860~2290個
……わあ。確かにハーデスだ。
いや見たいけど。見たいけども。
使えねーと思い、俺はそっと確定眼を封印することにした。
「……見たのかの」
「……見た」
「そうじゃ。特典はその確定眼と言語理解のスキル、そしてお主の確定眼から派生したスキルとなる
何故か視線を合わさず空に眼をさまよわせていたハーデスが言う。
空から何かを召喚するかのように両手を伸ばしたら鉄の剣が空中から落ちてきた。
「これにて魔物を3体討伐してみ
せよ」
杖で指し示された先にジェル状の水の液体みたいなのがじっくり迫ってきてた。使徒を肉眼確認。スライムです。
「まあやってやろうじゃないか。よいしょーっと」
スライムに直撃。剣ですぱーっと。
スライムが二つに割れる→その後引っ付く。
「なにこれダメージ通ってないんですけど」
「言ったじゃろ?チュートリアルじゃって」
「はいはいデモ画面デモ画面」
デモ画面はパチンコの遊戯の仕方を教える一連の動画である。台によっては、どこそこを狙え、その次はここだ。みたいなのがあるが、基本的には熱い演出の紹介だったりする。まあデモ画面なんか流してハンドルを握って球を打ち出してヘソと言われる中央の穴に球を入れて適当に始めるものだ。これもそのようなものだろう。
神眼を意識してみる。スライムの上に1/3との表示が見えた。これが俗に言うヒットポイントと言うやつだろうか。なるほど0にすればいいのかなと別の個体をみると1/4と1/4だった。俺ダメージ当ててないのにな? と不思議に思いながらも剣で先ほどと同様に真っ二つに唐竹割りをする。また分かれてのっそりとくっつく。どういうことだろう? 数字が1/2に変化した。これってもしかして? もう一度なで切りしてみる。HITの表示になって溶けるように消えていった。分母が減るのか? 減っていって1/1になったら次で確実に倒せるってことか? パチンコ機種みたいだな……とひとりごちる。だったらもう一つのスキルはなんだろうか。
「
ぷよぷよしてたスライムが止まり。世界が静かになる。
いやそれよりもこれはなんだ。見慣れたボタンがちょうど押しやすい位置に現れた。その上には0:03の表示が出ていた。当然押す押す押す。一度押してから0:03は減っていき0になるとボタンごと消えた。なるほど制限時間……演出かっ! とすればスライムの上に0が出ていたのは何だったのだろう?
「次は攻撃したタイミングでやってみるんじゃ」
とハーデスが助言した。言われた通りにスライムを切る。ボタンを押すと数字がランダムに変わっていく。2回押したら4が表示されたので、手を止めた。スライムが一撃で四散した。
「俗に言うクリティカルじゃな。その能力は確定してないものを変化させることができる能力となる。不安定な力で溢れているこの世界では面白い能力となるじゃろう。ランダム性の操作にはなじみのものが現れる。どうじゃお主にぴったりな享楽を感じるじゃろ?」
得意そうな顔でハーデスが同意を求めたが、
俺は絶対間違えない。
「いや、ボタンは平倭だった」
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