異世界テキサスホールデム〜スキルぶっぱなしてくるけどこれポーカーだよな?〜【無事完結しました。ありがとうございます】
Cランク治療薬
第1章
第1話 新台入替
9時30分この言葉で落ち着かなくなる人がどれだけいるだろうか。
そう、パチンコ屋で整理券をもらうための整列の時間だ。
整理券と言っても並んだ先着順に番号がもらえるのではなく、番号が印字されたクジを引くのだ。ギャンブルする為の台選びの優先順位からしてギャンブルで決めなくてはいけないのか?
これは哲学だと思う。
今日は5番を引けたので狙っていた新台には座れるだろう。俺は番号が振られたグリッド上の枠線にポツンと一人で立っている。再整列の時間は開店十分前だからクジを引き終わった人たちはいったん解散していた。
コンビニに行く普通にカスに、タバコを吸うヤニカス。次の日の天井狙いのスロカス。朝一ランプ狙いのハイエナパチンカス、カスカスカス……。
カスしかいない場所に俺はひどく落ち着く。紛れもなく俺もカスなのだ。周りには場所取りの為の飲みかけのペットボトルやコンビニ袋が置かれている。今の俺には、そのゴミを買う余裕すらない。
「ゴミが人のようだ」
きれいに整列しているカスの代わりのゴミを見て呟いた。
財布を見て軍資金を確認する。4万円きっちり。何の因果かそれ以上でもそれ以下でもない。ジュースすら飲めない。サンドに入れるお金が1000円分減ってしまうからな。文字通りの全財産。
空は快晴。屋内駐車場にいるので光こそ届かないが、前途は明るい。今の俺だったら何でも引ける! 今日大勝ちして人生をやり直す為の資金に充てるんだ。そしたらきっと上手くいく。全能感に包まれながら開店時に流れる音楽に鼓舞され、俺は戦場に向かうのだった。
$ $ $
「おかしい。何かがおかしい。なんで熱いリーチの一つや二つ来ないんだ?」
轟音が鳴り響く店内で声を大にして嘆く。
ああ。なけなしの軍資金もあと二千円。震える手で玉貸のボタンを押す。これで何もこなければ、ああ。
こうなりゃとことんまで打つ。残りの1000円も球に変える。お腹減ったな。諦めの境地でじわじわ上皿から減っていく球をみる。
絶望が真綿で首を絞めに来る。
聞き慣れた効果音がした。
どうせ駄目だろと思って画面をみた時、保留がすべて「てがみ」に変わった。
「っしゃああああああああああああああああああああ」
思わずボタンを連打する。
左の客がどん引いたかのように身じろぎする。
そのまま俺のことを見放すかのように席を立っていった。
が、そんなこと関係ないね。タイトルロゴが3回。予兆とともに消化される。
来たっ! てがみ
継続X2? ん? なんか引っかかりつつも。
ライブ会場の特殊ステージで擬似連が展開する。
役物が降りて金枠でキャラが増えて登場していく。
「これは勝ったな。ああ。」
セルフパロも鉄板だ。
派手な効果音を伴って本機搭載最高信頼度のリーチへと発展する。
画面がブラックアウトして
右の台で打っている仙人みたいな爺さんが当たりを引く。関係ないねこっちも当たりだ。じっと右の台からなめつく視線を感じる。その嫉妬の視線が心地いい。
「いっっけえええええええええええ」
チャンスアップはないけど、なんとかなるだろう。
なんとか。ボタンを連打しながら心が冷えていく。
何故青から変わらない?? これは? とかもしかしたら? といった思いを拭い捨てる。
期待できる保留なんだ。
期待できるリーチなんだ。
自分の中でプラス要素を反芻する。隣の視線がざわつく心臓にトゲを刺す。爺さんなんでぼーっとこっち見てんだよ。さっさと自分の台打てよ。心の中が黒くなりながら、祈る。
引っけえええええ。台が煽る。
沈黙し、神を感じながら、レバーを引く。
ぷしゅうううううん。
駄目だった。もう終わりだ。はは。
乾いた笑いが止まらない。明日からどうすれば。
いらついて思わず右の台をキッと睨む。
……上皿が空だった。
「そういう…………ことね」
残り20発程度か。回したってもう当たんねえだろうな。
上皿から下皿に落とすボタンを押して左手で握る。俺の残りの全財産。さようなら俺の人生。手のひらの鉄球をそっと隣の上皿に流す。
流れを一瞥して告げる。
「返さなくていいから」
聞こえたかどうだかわからない。だがどうでもいい。爺さんが驚いた顔をしたが、水を得た魚のように打ちだす。そう、それでいいんだ。俺は運がなかった。いや、ギャンブルだけじゃないな。本当にくそったれな人生だった。
「死のう」
そう思って個室トイレにこもった。が、パチンコ店は自殺対策してるんだよな。どうやって死のうか。そう考えていたら、扉の向こうに人影が止まる。開ける気力もねえよ。
「やっぱり借りは返しておこうかのう」
トイレの扉の向こうから脳内に直接響くかのような声がする。
「なんだよさっきの端数か? 返さなくっていいってどうせ人生何も変わらないんだ」
「それがそうでもない、助けられたのは何を隠そう儂だからな、ほれ足下を見るがいい」
トイレに腰掛けてズボンを下ろしていた俺の足下にさっきの台の前兆かのような魔法陣が展開して動いている。しかし俺の心は冷え切ったままだ。
「色は白いし、ガセだな通常演出……」
まあ大きい方だから期待は少しはあるか。現実とパチンコがぐっちゃぐちゃになった思考回路で思う。魔法陣……だからなんなんだよ。
「じいさん、いいマジシャンになれるぜ」
「今からおぬしに新たな世界を紹介してやろう。運が良い。いや運が悪いからこそ条件が整ったというべきか。ボタンを連打するのは好きじゃろうこって。この世に未練があるのであれば、行くのを止めることもまだできるが、どうする?」
「はーーーーん? どんな世界なん??」
トイレ越しでなんなんこの会話。なんなん。
「いわゆるファンタジー風な世界なんじゃが色々不安定でな。まだ未成熟。そこで、色々干渉できる機能を渡しておこう。そうじゃな。変えたいそう思う意思だけで人によっては世界が更新できるそんな世界じゃ」
「全くわかんね。パチンコで例えて」
「そしてユニークスキルをプレゼントしようではないか心の根幹から形得るユニークスキルじゃ。これは行ってからのお楽しみじゃの、行ってスキルをステータスで確認するがよい。俗世間でいうチートなるものなんじゃが興味でたかの?」
「いや全然。よくわかんねえし、パチンコのない世界に行きたくはないね」
「報酬もなければやる気もでんか。元の世界への再転移とそうじゃのう宝くじ一等の5億円でどうじゃ。どれ? もってるじゃろ? 財布の宝くじじゃよ」
「これはただのはずれなんだけど? 当たりに変えてくれるって?
じいさんボケたんなら連れてくぜ。連絡先とかないか?」
コンコンとノック音がする。
おそらくじいさんが持っていた杖だろう。
「ほれっ」というかけ声とともに、財布から取り出した宝くじは紙なのに数字がランダムに動いていた。
「ほれ、これが未確定ということじゃ。どうじゃ興味できたじゃろ。異世界でチートで無双じゃ。何を迷うことがある?」
「いやだってパチンコないし……」
「……」
「……」
そういややけに静かだな。店内だというのに音が全くしない。
じいさんのため息が聞こえる。
「パチンコで例えると……」
「例えると?」
「大当たりプレゼント」
「行きます!」
宣言した瞬間。魔法陣が目も開けられない程輝く。
ホワイトアウトするなか。
じいさんのよく通った声が響く。
「ワシは運を司る1柱ハーデス」
「よき幸運を」
薄れいく意識の中俺は力強く思った。
じいさん……。
どうでもいいけどハーデスがハーデス打つなよ。
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