第5話 お姫様タイム 前編

テレビ出演にグラビア撮影、コスメやランジェリーなどの商品開発の打ち合わせ、事務所が展開している動画チャンネルの撮影に動画クリエイターとのコラボ動画の作成と、グラビアクイーンとしてもインフルエンサーとしても忙しない日々を過ごす中で、ディアナは思うようになった。「お姫様扱いをされたい」と。

元々ディアナは幼い頃よりお姫様という存在に憧れていた。自分もいつかお姫様になって、可愛い調度品に囲まれて過ごしたいと思ってきた。それが30歳を迎えた現在ではファン達から『姫』と呼ばれてこそいるが、家はインフラと防犯の観点から選んだ賃貸マンションで、調度品は下積み時代に買った物をずっと使い、家事の類は全て1人でこなさねばならず、姫とは程遠い生活を送っている。

真っ白でフリルのついたワンピース型のパジャマを着て、四方をレースカーテンで囲まれた天蓋付きのベッドで寝起きして、誰かが準備も片付けもしてくれる環境で食事をしたい。心の底から湧き上がってくる願望を、ディアナは習慣としているパーソナルトレーニングの最中にトレーナーである鳥山恭一へ漏らしてしまった。

鳥山恭一はディアナより7つほど歳が上であるが見目の若々しい男で、厳しくはあるが適度な緩さがある為に取っつきやすく、ディアナは恭一に対し日頃から何かと個人的な相談をしているのだ。

ディアナの願望を聞いた恭一はバインダーに挟んだ書類に目を通しながら「ふーん」と素っ気無い相槌を打っていたが、唐突に顔を上げると「願いを叶えてしんぜよう」と言い出した。


「本当に?」


「本当だとも。ディアナさんは頑張ってるからね。予定を合わせて出かけようじゃないの」


ディアナは僅かに顔を強張らせた。恭一のことを信頼していないわけではないが、2人きりで会うとなるとトレーナーと利用者としての関係が変化してしまうのではないかと思った。

しかしお姫様扱いはされたかったので、ディアナは恭一の誘いに乗ることにした。

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