第51話 悲しい解決

 ダーク=ヒーロとレイは幌付き馬車の前に立ちはだかった。


 御者は突然目の前に現れた二人の人物に慌てて馬車を止める。


「何ですか、あんたらは。道を空けてもらえますか? こちらは仕事で先を急いでいるんですよ」


 御者は不審な道を塞ぐ二人を相手に注意する。


 しかし、それは馬車内にいる人物達への知らせとも取れた。


「厄介ごとか?」


 と馬車内から声がする。


「少々お待ちを。──お前ら、道を空けないとひき殺すぞ……!」


 御者は馬車内の人物にそう応じると、ダーク=ヒーロ達を恫喝する。


「その前に馬車の中を改めさせてもらおうか」


 ダーク=ヒーロがそう告げると、馬車内から、


「俺達の仕事みたいだな」


 という声がして、馬車内から剣を手にした男がでてきた。


 他にも三人従って降りてくる。


「……馬車内にはあと二人いる気配。一人は少年ゾロとして、もう一人は監視かな?」


 ダーク=ヒーロがそうつぶやくと、


「ほう、気配察知か。察知阻害の魔道具を馬車に積んでいるのによく気づいたものだ。──ちっ。人が集まってきたか……。──時間がない、こいつらは俺が斬るから集まってきた連中はお前達でなんとかしろ」


 と馬車内から降りてきた手練れっぽい男が仲間に告げる。


 集まってきた人とは、ジンの部下達であり、監視をしていた者と、近くに居て駆け付けた合計三人の事だ。


「ダーク、これを」


 レイはそう言うと魔法収納から剣を取り出しダークに渡す。


 ダーク=ヒーロは無言で受け取ると、その手練れっぽい男と向き直った。


「構えが素人だな。俺の気のせいか? ──いや、やはり強者の気配を感じる……。どちらにせよ、邪魔をする者は斬る……!」


 手練れっぽい男はそう告げると、次の瞬間、ダーク=ヒーロとの距離を一瞬で詰め、剣を抜き放つと同時に一閃した。


 ダーク=ヒーロはその閃光のような斬撃をギリギリのところで剣で弾く。


「驚いた……、よく反応出来たな。だが、身体能力に任せた素人の動きだ。次はない」


 想像通り手練れであったその男は、今度は差しの勝負で剣士としては卑怯の誹りを受けかねない、足元を狙った斬撃を不意打ちとばかりに浴びせた。


 さすがにこの意表を突く攻撃には素人レベルでは反応できないはずだ。


 だがダーク=ヒーロは軽々と後方に飛んでそれを躱す。


「(反応速度が上がった、だと)!?──この斬撃を躱した者はこれまでいなかったのだがな……。殺す前に名を聞いておこうか」


 手練れの男が、殺す相手に興味を持つのは初めてであった。


 そして、全力を尽くす為に、あらゆる身体強化の為の魔法を自分に使用する。


「夜闇のダーク。お前を倒す者だ」


 その間にダーク=ヒーロはそう宣言して応じた。


「きぇー!」


 手練れの男は威圧効果のある奇声をダーク=ヒーロに発して斬りかかる。


 先程とは比べものにならない程の速度で振り下ろす渾身の斬撃だ。


 ダーク=ヒーロはそれを剣で受け止める、はずだった。


 手練れの男の一振りはダーク=ヒーロの剣を真っ二つに両断し、その剣先がダーク=ヒーロの顔に迫る。


 しかし、その剣先はダーク=ヒーロに届かなかった。


 ダーク=ヒーロはなんと、それを左の人差し指と親指で摘まむようにして止めていたのだ。


「ば、馬鹿な!? 俺の全身全霊をかけた一振りを指先で止めるなど、ありえない!」


 手練れの男は愕然とする。


「相手が悪かったね」


 ダーク=ヒーロはそう言うと、次の瞬間、手練れの男の腹部に拳を突く。


 手練れの男は崩れ落ちるように倒れると、そのまま絶命するのであった。


「先生がやられたぞ!?」


 手練れの男がやられたと知ると、誘拐犯達は明らかに動揺が走り、剣先が鈍る。


 すると、それを見逃さなかった私兵達によってあっという間に、組み伏せられ、捕縛された。


 馬車内にいた見張りの男は剣に関してからっきしなのか、短く悲鳴を上げると、短剣を捨てて降参し、捕縛される。


「ダーク殿、すぐにこいつらの拠点を吐かせます。少々お待ちを」


 私兵達はそう告げると、近くの空き家に捕縛した犯人達を連れて行く。


 その間にダーク=ヒーロは馬車内を確認するとゾロが魔法で眠らされたのか、起きる様子もなく樽に詰め込まれたまま寝ているのを保護した。


「……無事のようだな。──レイ、ゾロは任せるよ」


 ダーク=ヒーロはそう告げると、悲鳴が聞こえる空き家に向かう。


 そこでは、私兵達が捕縛した誘拐犯達に拷問をしていた。


 それは容赦のないもので、ナイフが一人の男の太ももに突き刺さっている。


「は、話すからこれ以上は止めてくれ! 俺達のボスはスゲンさんだ! お願いだからもう許してくれ! 場所は有名だから知っているだろ!?」


 誘拐犯は刺されてから後悔し、泣きついていた。


「……スゲンとは?」


 ダーク=ヒーロが私兵の一人に聞く。


「王都の裏社会でボスを務める一人ですね。貴族との間にも黒い噂が後を絶たないゲス野郎です」


「ゲスか……、それなら、滅ぼしても文句は出ないか。──場所を教えてくれ。今晩中に片を付けたい」


「噂では歓楽通りの路地裏の地下に拠点がありがあります。──この辺りです」


 私兵は地図を広げるとダーク=ヒーロに指し示した。


「わかった。ジン殿には後から来るように伝えてくれ。──では」


 ダーク=ヒーロはそう答えると次の瞬間には、『瞬間移動』で消え去るのであった。


 十五分後、ジンが私兵と共に駆け付けると、地下に下りる階段の先に侵入者を阻む分厚い鉄の扉がそこにはあるはずだったが、その扉はなく、蝶番が派手に破壊されていた。


 そうスゲン一味自慢の鉄の扉は、あり得ない形に曲がった状態で室内から発見されたのである。


 室内はチンピラ達が全員伸びており、丁度そこへダーク=ヒーロが右手に一人の女の子を抱きかかえ、左手には大柄でこめかみに傷がある人相の悪い男が引きずられている。


「子供はその子だけですか? そちらの男は人相からスゲン本人ですね」


 ジンがダーク=ヒーロに確認を取る。


「……あとは任せたよ。この子を兄の元に届けて来る」


 ダーク=ヒーロはスゲンから何か聞きだしたのか、やりきれないという表情だ。


 そして、暗い声色で答えると、少年ゾロの元に妹リリアを送り届ける為、『瞬間移動』するのであった。

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