第50話 誘拐事件
貧民窟の子供失踪事件を受けてダーク=ヒーロとレイは翌日もまた足を運んで子供達の監視を始めた。
特にゾロと名乗った少年を注視する。
と言うのも、その少年ゾロは翌日の夜も妹を攫ったであろう大人を探すべく、その情報を求めて夜の貧民窟をうろついていたのだ。
「危なっかしいなぁ……。俺達に任せるはずじゃなかったのか?」
少年ゾロが、貧民窟の大人達に聞いて回っている姿を塔の上から確認してダークは苦笑する。
「妹の事がそれだけ心配なんですよ。でも、私達が目を光らせていますし、そのゾロ君を狙って誘拐犯が動けば手間も省けます」
レイは冷静に囮としての効果を指摘した。
「冷静だね……。──あ、『地獄耳』に引っ掛かる声が……。うん? ちょっと待ってて確認してくる」
ダーク=ヒーロは『地獄耳』に飛び込んでくる声に何か心当たりを感じたのかレイを塔の上に置いたまま、その声が聞こえる場所に『瞬間移動』する。
その移動先には丁度、ダーク=ヒーロ達と同じく、ボロボロのフード付きマントで貧民窟の住人に子供について聞いている不審者がいた。
「──ここまでわかっただけでも十五人だと……。──(背後に気配!?)……誰だ?」
不審者は住人に失踪者の数を確認しているところだったようだが、突然背後に気配が現れたのでその人物、ダーク=ヒーロに対して警戒しながら聞く。
「……そちらこそ、貧民窟の子供の失踪事件を聞いて回っている不審者だろ、何者だ?」
不審者の男は、ゆっくりと振り返ってダーク=ヒーロの方に向き直った。
するとそこにはどこかで見た事がある男の顔があった。
「確か……、私兵の?」
ダーク=ヒーロはマトモス王子という名を口に出すのを憚って、敢えて私兵とだけ口にした。
「あっ、あなたはダーク殿か……! ──私はジンだ。なぜあなたがここに?」
不審者の男はマトモス王子の命を救うべく王子塔を訪れた際、最初にダーク達に対応した私兵の一人だ。
「俺は子供の失踪事件解決を依頼されてここにいます。そちらは?」
「私は呪毒絡みで調査を行っている最中ですよ。れっきとした証拠はないですからね。コツコツと探してるところに、丁度、失踪事件の事を耳にしました」
「偶然という事か……?」
ダーク=ヒーロは少し考える素振りを見せた。
「しかし、ダーク殿を動かす依頼人とはどこの大物ですか?」
ジンは謎の多いこのダーク=ヒーロを警戒しているのか、その背後関係に興味を示した。
「俺の依頼人は子供ですよ。──それより、そちらは『呪毒』についてどこまで調べているんですか?」
ダーク=ヒーロは子供失踪事件と関係あるかわからないマトモス王子殺人未遂事件の『呪毒』に関係があるか一応確認する。
「こちらは実験に必ず人を使っているはずと睨んで、手っ取り早く実験用の人を集めるのに適していると思われる貧民窟をシラミ潰しに当たっているところでした。ですが、そういった実験の怪しい募集はないみたいです。失踪事件を聞いたのは偶然です、……ですが、ダーク殿はどう思われます?」
ジンはダーク=ヒーロに説明しながら、点と点を結んで線になる事に気づいたというように聞き返す。
「……失踪した子供で実験を行っている、という事ですか? ですが、数日前にも失踪した子供がいます。……いや、誘拐犯と呪毒犯は別のグループと考えるとあり得ない事でもないのかな……?」
「……それを聞いて今、私も同じ事を思いました。誘拐犯は多目的に子供を攫っており、そのうちの一つが売買で、呪毒開発のグループに売っていたなら人体実験にまで話が繋がります」
「王都は最近ずっと厳戒態勢なのに、子供の失踪が無くならない事にも結び付きますね」
ダーク=ヒーロもジンの憶測のお陰でかなり考えがまとまった。
「ダーク殿。お互い目的は違いますが、協力した方が良さそうですね」
「……わかりました。こちらは誘拐犯グループから失踪した子供を助け出します。そちらにはその誘拐犯と取引のある関係者を引き渡す、……それで良いですか?」
「交渉成立で」
ダーク=ヒーロとジンは握手を交わす。
「こっちは子供が誘拐される現場を見張っています。俺は音に気を付けているが、子供が眠らされるとその音も拾えません。それに馬車は夜でも沢山走っているので、すぐに向かっても、どの馬車からの音だったかまでは判断するのが難しいです。ですからそちらには目ぼしい貧民窟の幌付き馬車の監視をお願いします」
ダーク=ヒーロは周囲を見渡すとそう答える。
そう周囲にはジン以外にも私兵が何人も貧民窟内で情報収集していたのだ。
その一部が、ダーク=ヒーロとジンの周囲にいつの間にか集まっていた。
「……わかりました。『音』ですか? 今、サラッととんでもない事言われましたが、聞かなかった事にしておきましょう……。では、子供が誘拐された時の『音』が確認出来た場所を私に教えて頂ければ、こちらからその近くにいるうちの部下を現場に向かわせ、その一帯の幌付き馬車を特定して、ダーク殿に知らせます」
ジンはダーク=ヒーロの言う音による監視について詳しくは聞かず、応じる。
そもそもこのダークについてはマトモス王子を救った魔法自体、自分達はよく理解していないのだ。
呪毒もダークが教えてくれなかったら、知らないままマトモス王子を亡くしていたはずである。
だから、助けてくれた恩に報いて信じる、それ一点だけであった。
その翌日の夜。
月が雲に隠れてより一層、貧民窟を暗くした時間。
貧民窟を見下ろす塔の上で能力『地獄耳』を使用していたら、少年ゾロの声が聞こえてきた。
「──だ──」
少年ゾロの声が何かに妨げられて聞こえなくなる。
次の瞬間、ダーク=ヒーロは傍に居るジンに、「三番の地域辺りだ」とだけ告げて、その場から消える。
ジンがその場で夜回りなどで使う拍子木を三回叩くと、離れた場所でもそれに応えるように三回、笛の音が響いてきた。
そして、しばらくすると、鋭く一回笛の音が響く。
それを待っていたとばかりに三番地域付近で待機していたダーク=ヒーロとレイは、その音が聞こえた辺りの家の屋根の上に『瞬間移動』する。
周囲を見下ろすと馬車がそれぞれ違う方向に二台走っており、その一台を私兵と思われる男が指差していた。
「あれか!」
ダーク=ヒーロはレイと視線を交わして頷くと、次の瞬間には『瞬間移動』で馬車の前に移動して立ちはだかるのであった。
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