第49話 子供のお願い
ダーク=ヒーロとレイはボロボロのフード付きマントを身に着け、貧民窟に潜入した。
二人は上手く溶け込み、聞き込みを始める。
「あんたら見ない顔だな、新入りか? ……わかるぜ、その不細工な顔だと仕事もままならねぇよな」
レイの化粧で不細工ヒーロ姿になっているダーク=ヒーロは、浮浪者に同情されながら貧民窟の失踪騒ぎについて詳しい情報を聞きだす事が出来た。
「……レイの化粧が凄いのはわかっているけど、俺の元の顔も美男ってわけじゃないから微妙に傷つくよね」
ダーク=ヒーロはレイと二人きりになった時、顔に同情されながら情報を聞きだすスタイルに、苦笑しながら冗談交じりの愚痴を漏らす。
「ダークの顔は不細工ではないですよ。本当の不細工というのは汚い性根がそのまま表にでている顔の事を指すのだと私は思っています」
同じく化粧で影が薄いみすぼらしい感じの顔になっているレイが、説得力のある言葉で励ましてくれた。
「……なるほど。顔も若い内は親の責任。大人になったら自分の責任って言うからなぁ。性格が顔に出る大人になって不細工になる人もいるか」
ダーク=ヒーロはレイの言葉に妙に納得するのであった。
そんな関係のない会話をしつつ、二人は子供の失踪情報を集め続ける。
「……みんな、親がいないか捨てられた子、他所からやって来た子供ばかりのようですね」
レイが集まった情報を精査してダーク=ヒーロに告げる。
「つまり失踪しても心配する人がほとんどいないって事だね」
ダーク=ヒーロは失踪にありそうな条件だと口にした。
「それでも貧民窟にも仲間意識は少なからずありますから、心配する声もありましたね」
「うん。それだけが救いだよ。──集めた情報だと、子供が失踪する夜は大体近くで幌付きの馬車が目撃されているね」
「はい。目立たず運べますから、この馬車が一番怪しいと思います。問題は誘拐目的でしょうか?」
二人が貧民窟の月明かりも届かない暗がりの一角でひそひそと話していると、そこに一人の子供が足音も立てず、気配を消してやって来た。
もちろん、ダーク=ヒーロは気づいていたが、その巧みさに内心感心する。
「あんた達か? 子供の失踪について嗅ぎ回っている大人っていうのは? ──それにしても兄ちゃん不細工だな!」
その子供はボサボサの赤毛に生命に溢れた輝く赤い目の少年で、着ている服はボロボロで貧民窟の住人であろう事はすぐに想像できた。
「その感想は今いらないだろ……! それで何の用だ……?」
ダーク=ヒーロはちょっと傷つきつつ、言い返す。
「……何でそんな情報を集めているんだ?」
子供はダーク=ヒーロとレイを警戒しつつ、その目的を問うた。
「……解決する為さ」
ダーク=ヒーロは堂々とその目的を告げた。
子供相手に嘘をついても意味がないと思ったのだ。
「……本気か兄ちゃん? 俺達、貧民窟の子供を助けたところで、何の得にもならないぜ? 売り飛ばすというのなら、少しは価値があるのかもしれないけどな」
子供は嘘だと思ったのかダーク=ヒーロの言葉に真実を求めてさらに問いただす。
「ただの自己満足さ」
「自己満足? そんな事で飯が食えるかよ!」
「じゃあ、聞くが、お前はなんでそんな事を気にするんだ? もしかして知り合いが失踪したのか? それなら見つける為に協力を求めるべきだろ」
ダーク=ヒーロは子供に直球の返答をする。
子供はあまり真っ直ぐな物言いのダーク=ヒーロに一瞬言葉が詰まった。
そして、話し始めた。
「……失踪した中に俺の妹がいるんだ……。三日前の夜、トイレに行くって外に出たところでいなくなった……。あの時、俺がいつも通り、付いて行ってればこんな事にはならなかったんだ……! どこの誰か知らないけど助けてくれよ、妹はまだ、七歳なんだ!」
「よく言った……! あとは俺達に任せろ。お前と妹の名前はなんと言うんだ?」
「俺は……、ゾロ。妹はリリアだよ」
「わかった、ゾロ。妹のリリアを見つけ出す為に全力を尽くす」
ダーク=ヒーロはゾロの頭をポンと叩くと約束する。
「兄ちゃん達は何て名前なんだ?」
「俺達か? こっちはレーイ。俺はダーク。夜闇のダークだ」
ダーク=ヒーロはレイの名前をまた、とっさに伸ばして紹介し、自分はいつも通りの名乗りを上げる。
そして、魔法紙で出来た仮面を付けて変身し、同時にボロボロのマントをはためかせて脱ぐ。
そして、それを一瞬で魔法収納に納めて右手を差し出し、左手は握り拳を作るポーズを取る。
レイもそのタイミングに合わせて仮面を付けていつもの早着替えでダークのパートナー的な立ち位置でポーズを取った。
「!……格好いい……!」
ゾロと名乗った少年は、ダーク=ヒーロ達の決めポーズに目を輝かせる。
「それでは妹のリリアを見つけたらここに送り届ける。さらばだ!」
ダーク=ヒーロはそう告げると、レイの手を取り、その場から一瞬で消えた。
「夜闇のダーク……。顔は不細工だったけど、妹を見つけ出してくれると信じるよ……!」
ゾロはそう一人夜空につぶやくと自分の寝床に戻っていく出のあった。
「……ダーク、あんな約束をして大丈夫だったんですか?」
貧民窟を見下ろせる塔の上に瞬間移動した二人。
レイは失踪した子供が無事かまだ分からない状況なので、それが気がかりで心配した様子であった。
「……わからない。わからないけど、まだ、無事な気がする」
「失踪して三日……。予想では人身売買が有力だと思います。先月の失踪した子供は三人……。今月はまだ一人……。それならまだ、見つかる可能性はありますね」
「それならある程度人数を集めてから移動するはずって事だよね……? 明日から貧民窟の子供をマークしていれば、犯人はすぐ見つかるかもしれない」
ダーク=ヒーロには便利な能力『地獄耳』があるから、貧民窟の子供に絞ってマークする事も可能である。
こうして二人は解決に向けて連日、貧民窟を訪れる事になるのであった。
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