第48話 事件を知る夜
王都ではマトモス第二王子重体の噂話から一転、どうやら助かったらしいというまたも噂が流れていた。
というのも、クルエル第一王子が王宮の一室でマトモス王子の事を半狂乱で暴れて貶す内容を喚き散らし、さらには「なぜ死んでいない!」と側近を怒鳴りつけていたというから、そういう噂になったらしい。
王都ではクルエル王子が、腹違いである弟のマトモス王子を元から邪魔に思っていたのは周知の事実だったし、マトモス王子は歯に衣着せぬ物言いで、父である国王にも苦言を呈していた事で確執の噂はずっとあった。
その為、事情通の中では、いつかきっとマトモス王子はあの陰湿な国王と王子の二人に命を狙われてもおかしくないと噂されていたのだ。
それが今回、実際にマトモス王子が突然前触れもなく倒れたという不確かな噂だけが流れ、実際、マトモス王子は表舞台から忽然と姿を消した。
それが、数日経って、それまで上機嫌であったクルエル王子が半狂乱になって、前述のセリフだから使用人達も想像がつくというものである。
それらの情報をダーク=ヒーロは歓楽通りの建物の屋根の上で、能力『地獄耳』を駆使して知るのであった。
「──という事らしい……。『人の口に戸は立てられぬ』とは言うけど、情報だだ漏れだなぁ……」
ダーク=ヒーロは、『地獄耳』で噂話を聞きながら、隣の長い黒髪に仮面、黒に緋色のラインが入った服を身に付けたスタイルの良い女性につぶやく。
「まだ、数日しか経っていないのに、もう、暗殺未遂事件が噂されるのは、その情報をマトモス王子側が故意に流しているのではないでしょうか? さすがにそうでないと王宮の情報が筒抜け過ぎです」
黒髪の美女、変装したレイは王宮で働いていた一人としてダーク=ヒーロに自分の推測を告げる。
「……確かに、そうかも……。マトモス王子の陣営は、みんな頭が切れそうなタイプばかりだったものね。クルエル王子側の評判をこれでもかというくらい落とすのが狙いかな」
レイの鋭い意見に感心してダーク=ヒーロは賛同する。
「でも、暗殺未遂という大きな動きを見せたクルエル王子は今後、歯止めが利かなくなると思うのですが……、大丈夫でしょうか?」
レイはルワン王国の未来であるマトモス王子に何かあった場合を考えると心配するのであった。
「その時はその時じゃないかな? マトモス王子も黙ってやられるつもりはないだろうし。──それより、レイ。最近王都で、子供の失踪が相次いでいるという噂を知っているかな?」
「子供のですか? 私達が王都に居た頃はそんな話聞いた事ないですね……。どちらかと言うと連続通り魔事件の方が、有名でしたが……」
レイはダーク=ヒーロの質問に答えられず、首を捻った。
「……おかしいなぁ。今、聞こえる声からすると、去年から十五人以上失踪しているって言ってるんだよね……。あっちの方角から」
ダーク=ヒーロは耳を傍立てる仕草をすると聞こえる方向を指差した。
「あちらは貧民窟がある方角ですね……。それならあり得るかもしれません。貧民窟の住人は違法滞在者や低所得者、犯罪者なども住んでいる地域で、その人数は把握されていませんし、一般人では立ち入る事が出来ない危険なところなので、行方不明者が出ても騒がれる事はほとんどないと思います」
「……貧民窟の子供……、か。──これ解決できないかな?」
ダーク=ヒーロは王子同士の争いは置いておき、誰もが知らぬふりをしそうな事件について、興味を持った。
レイは仮面姿のダーク=ヒーロの言葉にヒーロの優しい顔が浮かぶ。
「ダーク、貧民窟の子供は親がいない子も数多くいます。そういった理由も踏まえて助ける側の責任をとれますか?」
レイは暗に失踪した子供を見つける事、場合によっては助け出した後の問題を臭わせた。
助けるにしても助けて終わりではないという事をレイは言っているのだろう。
「……それは、助ける事ができた後に考えるよ。まずは、解決の為に動きたい」
ダーク=ヒーロはレイの言いたい事を理解した上で、そう答えた。
普段は慎重なのに、こういうところは向こう見ずだ。
レイはダーク=ヒーロのそんな判断に呆れる反面、その優しさゆえの行動を微笑ましく思う。
こんな人だからこそ、自分達はみんな救われたのだ。
「……わかりました。まずは貧民窟に行って詳しい情報を入手しましょう」
レイはそう言うと、魔法収納から一見するとボロボロに見えるフード付き外套を二着だして、一着を自分が、もう一着をダーク=ヒーロに渡す。
「今の私達の格好では警戒こそされても、信用して失踪者について話してくれる人はいません」
レイはそう言うと仮面を外し、魔法収納から鏡と化粧道具を取り出し、鏡をダーク=ヒーロに持たせ、それを見ながら化粧であっという間に特徴に乏しいみすぼらしい雰囲気のある女性の顔になってみせた。
「おお、凄い……! レイはそんな事も出来るのか……」
ダーク=ヒーロは女性が違う意味で化ける瞬間を目の前で目撃して素直に驚く。
先程までの美女が、影の薄い記憶に残らなさそうな顔になるのだから、化粧というものがどんなに可能性を秘めているものなのかを思い知らされた形だ。
「……それではダークも」
レイはそう言うとダークの仮面を取ってもらい、すぐにその顔に化粧を施して別人に変える。
そして、鏡でその顔を確認してみると……。
「……この顔、不細工過ぎない?」
完成したダーク=ヒーロ、いや、不細工ヒーロは、完成した顔に不満を漏らした。
「……すみません。ちょっと楽しくなっちゃいました」
レイは自分が行った化粧に満足気にそう答えると、クスクスと笑うのであった。
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