第44話 お互い様
ヒーロとレイは思わぬ使者が訪れた事により、この日は完全休養という形になった。
ヒーロは部屋で大人しく寝る事を決め、その一方でレイはヒーロに譲り受けたマッサージ機で疲れを取る。
「あ゛あ゛あ゛あ゛……」
レイはその背中に伝わる振動に癒されながら、知らぬ間に声が出ていた。
マッサージ機あるあるである。
そんな事をしていたレイであったが、疲れが取れたので、ヒーロが寝ている間に、自分が出来る事をしようと考えると、魔法収納から生地と裁縫道具を取り出す。
そして、変装用の服を作り始めた。
レイにとって、これが元からの疲れを癒す趣味である。
レイは型取り無しで生地にハサミを入れると、頭の中でイメージがあるのか迷いなく生地を裁断していく。
そしてそれらを縫っていくのだから、大したものだ。
これをヒーロが見たら素直に驚くところだろう。
きっと夜の無双モードでも真似できないかもしれない。
レイはそんな事は想像だにせず、ただ、自分の想像した服を作成していくのであった。
「……よし、できた」
レイが作った服はマトモス王子の私兵が着ていた服である。
レイはどうしても自分がその場に溶け込む為に必要と思える服を見ると、欲しいという思考になり易い。
今回も王子の私兵が仲間内の制服として統一されたものを着ていたので、作らずにはいられないのであった。
「うん、上出来。縫い目も私兵の着ていたものと寸分違わないはず。明るいところで使者の護衛の服をもう一度確認出来たのが良かったわ。それに生地も持っているものと同じで良かった。丈夫さを優先させた服ね……。シンプルだけど、嫌いじゃないわ」
レイは出来上がった私兵の服を裏表ひっくり返しながら出来を確認して頷く。
これだけ見ると、変装に全力を注ぐ姿は、現代のコスプレイヤーそのものであったが、もちろん本人はいたって大真面目であった。
レイにとって服は潜入先で自分を守り、溶け込む為の武器であったから、持っていない制服を見ると作らずにはいられない。
以前の潜入先の王宮では、王族専用使用人と一般使用人ではその制服は違っており、レイが潜入した時は一般使用人だったから、王族専用使用人の制服は真っ先に作った。
近衛兵の制服も未だに着ていないが作って用意してあるし、下級から上級官吏、同じく武官の制服も作った。
さらには絶対着る機会が無いであろう、各大臣の制服も念の為作っている。
レイは制服と見れば、その形、生地、縫い目など全てを目に焼き付けて、すぐ作ってしまう。
「……久し振りにサイズの確認しておこうかしら……」
レイはそうつぶやくと、いつもの魔法収納の能力を使った早着替えで着ている服を一瞬で消し、次の瞬間には他の服を出して身に纏う。
「……あれ? この服、こんなに小さかったかしら?」
レイは肌面積が少ない踊り子の服が以前着た時より、着心地が悪くなっていたので、首を傾げる。
レイは十七歳、だから多分成長しただけだろうが、本人はそうは思わない。
「……太った?」
レイにとってこれは重大事態である。
作った服は当時の自分にジャストサイズで作っているからだ。
それを着る為に食事もちゃんと気を遣っているし、運動もしっかりしている。
何度も言うがレイは成長しただけなのだが、彼女はそれを太ったと誤解した。
「……ヒーロには私、どう映っているのかな……。やはり、図々しい太めの女……? そう思われないように今日から食事制限を考えないといけないかも……」
何度も言うが、レイはただの成長期で胸も腰回りも魅力的に育っているだけである。
レイはその後、姿見鏡で色んなポーズを取り、自分の体をひたすらチェックしていたのだが、その姿を偶然見ていた者がいた。
そうヒーロである。
「(扉が少し開いてたから見てしまったけど……、何をやっているのかな……?)」
ヒーロは見慣れない煽情的な格好(踊り子の服)で、姿見鏡にポーズを取る銀髪の美女レイの姿を見て、これはいけないと思いつつ、その美しさに見惚れる。
「はっ!(いけない、いけない! これじゃあ、ただの覗きじゃないか!)」
ヒーロは正気に戻ると、お風呂に入るべく、音を立てないようにこっそり移動するのであった。
そんなヒーロへのサービスショットをいくつもしていた事を知らないレイは、サイズが微妙に合わなくなった服を数着確認すると、それを補正していく作業を始めた。
いつ何時、その服が役に立つかわからないからだ。
今の体格に合った服に拘るレイは、胸と腰回りを悔しい気持ちになりながら少し大きめに変更するのであった。
「ふぅ……。終わったわ。──汗もかいたし、ヒーロが起きてくる前に汗を流しておこうかしら」
レイは補正を終えて、そうつぶやくと浴室に向かう。
魔法収納から着替えと下着、タオルを取り出しながら脱衣所に入り、服を脱ごうとした瞬間であった。
浴室の扉が開いた。
レイは服を脱ごうと屈んでいたから、丁度、お風呂から上がってきたヒーロの生まれたての姿、それもその股間の高さに視線が合った。
ヒーロはヒーロでレイが屈んだ状態で自分の股間にばっちり視線が合っている事に不意を突かれ、二人は、
「「え?」」
と、一言漏らすと、その場に固まる。
そして、次の瞬間も同時に、
「「うわー!(きゃー!)」」
と悲鳴を上げるのであった。
ヒーロは股間を隠して湯船に飛び込み、レイは見てはいけないその人を見てしまったので思わず両手で顔を覆った。
そして、また、
「「ごめんなさい!」」
とお互い謝る。
「……あ、……えっと、まぁ……、何というか……。……お互い様という事で今回は無かった事にしよう……か?」
ヒーロは自分も不可抗力でレイの煽情的な姿を見てしまったので、その事と、レイにばっちり股間を凝視された事を天秤にかけてお願いした。
「……は、はい。……え?……お互い様?」
レイは思わず頷きかけたが、意味が通らない言葉に引っ掛かって聞き返す。
「あ……。そ、そうだ……!見てしまった事、見せてしまった事がお互い様という事で!」
ヒーロは思わず、自分が見た事を有耶無耶にしようとして適当な事を答えた。
「……もしかして、ヒーロ。……私が部屋でやっていた事を見てました?」
レイはヒーロの不自然さに心当たりを思い出してピンと来た事を聞く。
「……。ご、ごめん!扉が少し開いてて、見えた……」
ヒーロの返答にレイは顔を真っ赤にすると、
「ど、どの辺りですか?」
「煽情的なポーズを取っていた辺り……」
「わ、私の独り言は!?」
「? それは聞いてないけど?」
「なら大丈夫です! いえ、大丈夫じゃないけど……、大丈夫です!」
レイはそう答えると脱衣所から飛び出していくのであった。
「独り言? 何か言ってたかな……?」
レイが気にした独り言というのが、湯船に浸かったままのヒーロも気になるのであった。
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