第41話 接触の夜
ダーク=ヒーロは、マトモス王子の寝室周辺を探る為、塔の内部を能力で確認した。
塔の内部は強力な結界を張ってあるのか、ダーク=ヒーロの能力を一瞬弾いた。
「お? これは意外に厳重だ……。でも、破れない結界でもない、かな?」
ダーク=ヒーロはそう独り言ちると、次の瞬間にはその結界を易々と破って塔内部を窺う。
するとマトモス王子の寝室辺りだろうか?
人の動きが激しくなっているのが察知できた。
どうやら結界を破って内部を探った事を感づかれたようだ。
「これはどうしたものか……、今から『瞬間移動』で突然現れた人間の話を聞いてくれるような雰囲気ではないかも……。どうしようかレイ?」
おんぶしているレイに事情を説明して相談した。
「……正面から面会を求めてみましょうか?」
レイは不意に突拍子もない事を提案した。
「さすがにそれは……。どこの馬の骨ともわからない相手を、こんな夜中に寝所に招き入れる馬鹿はいないと思うよ?」
ダーク=ヒーロもレイの提案には賛同できず、そう指摘する。
「わかる相手なら、どうですか?」
レイは意味深げに答える。
「わかる相手? レイ、マトモス王子と顔見知りなの?」
「いえ、私自身は王宮ですれ違う事もなく、遠くで一度見かけたくらいです」
「それじゃあ、さすがに難しくない?」
「その代わり、王子とその側近が興味を持ちそうな名前を知っています」
「名前?」
ダーク=ヒーロはレイをおんぶしたまま首を傾げる。
「はい、ですから、塔の下まで移動をお願いします」
「──わかった」
ダーク=ヒーロはレイを信じると、『瞬間移動』で塔の下まで一瞬で移動した。
「貴様達は誰だ……! どこから現れた……!?」
塔の出入り口で警備をしていたマトモス王子の私兵二人が、突然目の前に現れたダーク=ヒーロとレイに槍を構えて警戒する。
そして、私兵が扉を素早く四度ノックすると、中からすぐに仲間の私兵が五人飛び出してきた。
「お待ちください。私は旧ボサーレ家の関係者です。マトモス王子の容態を確認しに参りました。それに……、もしかしたらこちらのダークがそれを治療できるかもしれません」
レイはダーク=ヒーロの背から降りると、謎の家名を口にした。
「ボサーレ家だと……?」
私兵達は心当たりがあるのか、お互い視線を交わして確認し合う。
「……その証拠は?」
私兵の一人が、剣を構えたまま、レイに問い質す。
「私の親族は旧ボサーレ家の分家であった旧ホーロ家のものです」
レイはそう答えると魔法収納から家紋の入った札を取り出し、私兵の一人に見せる。
「──! 確かにそれは今は無きホーロ家のもの……。そんな家紋を出してくるお人好しは、今時、詐欺師でもいないが……。──それよりも、殿下の治療が本当に出来るのか? 高名な王宮医師でも治療が不可能だと言っているのに……」
私兵は考え込むと、一番気になる事を口にした。
「その王宮医師は治療法がわかっていたとしても、治す決断ができないのでは?」
レイは意味ありげに私兵に問う。
「……どこまで知っているのか知らないが、旧ボサーレ公爵家は一族全て処刑され、分家のホーロ家も爵位剥奪後、国外追放という形で滅んだ一族。旧家の再興を願って王子の命を狙っていないと言えるか……?」
私兵は考えられる可能性を口にした。
「主家を亡ぼした国王に与するような愚か者かもしれないと疑うのですか? 旧ボサーレ家とその一族はこの国の行く末を最後まで案じていました。そして、それは残された私達も変わりません」
レイは毅然とした態度で私兵に言い返した。
「……すまん、言い過ぎた……。少し待ってくれ、上に確認を取ってくる」
私兵の一人はそう答えると奥に消えていく。
「……レイ」
ダーク=ヒーロはレイ達の会話からロテス達の境遇を少し察する事が出来た。
「ダークすみません。私達の事について話していなかったですね。でも、もう過去の事なのでその必要性を感じていなかったのが事実です」
「……いや、俺も聞いてもよくわからなかっただろうからな。……だけど、復讐なのか?」
ダーク=ヒーロはロテスやレイの原動力についての可能性を確認した。
ダーク=ヒーロとしては私怨の類なら協力出来ないと思ったのだ。
「父が子供の頃に主家と分家は滅びました。父にはもしかしたらその気持ちが少しはあるかもしれませんが、私は父からずっとこの国の将来の為に尽くせと言い聞かされてきましたから、その様な気持ちは一切ないです」
レイはまっすぐと仮面越しにダーク=ヒーロの目を見つめて答えた。
「……レイを信じるよ」
ダーク=ヒーロがそう答えると上に確認に行った私兵が戻ってきた。
「……上が会うそうだ。付いて来い」
私兵はそう言うと二人を先導して階段を上がっていく。
ダーク=ヒーロとレイはそれに付いていくが、その背後にはこちらが下手な動きをしないよう私兵が二人付いて来ていた。
螺旋状の階段を上がっていくと高さにすると二階あたりだろうか、王子の側近と思われる人物達が数人いる部屋に通された。
「その二人か? ──仮面を取って顔を見せてもらおうか?」
「それは断る」
ダーク=ヒーロは即座に言い返した。
「……顔も見せられない者の言う事をどう信じろと?」
側近はダーク=ヒーロを上から下まで確認してそう応じた。
「こちらは、リスクを負ってここまで来ている。身元を明かしてさらにリスクを負えと? マトモス王子を助ける気が無いならそう言え」
ダーク=ヒーロは敢えてきつい言葉を投げかけた。
これは相手との駆け引きだ。
王宮に三か月滞在してわかった事は、こちらが弱い立場とわかると貴族というのは使い勝手が良い駒としてこちらを利用しようとする事である。
だから相手が貴族だろうが王族だろうが、下手に出て都合よく利用されるのは避けたかった。
それにダーク=ヒーロは今は『夜闇のダーク』としてここにいる。
その小さな誇りを失うつもりはない。
「……お前は医者か?」
「違うが、治療できる可能性はある」
側近はじっとダーク=ヒーロの目を見据えたまま、少し迷うようにして口を開いた。
「……わかった。だが、下手な真似はしてくれるな。こちらも神経質になっているのでな……」
それは二人を殺す可能性もある事を臭わせるものであったが、ダーク=ヒーロとレイはそれに頷くと、三階のマトモス王子の寝室へと案内されるのであった。
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