第18話 二人の買い物

 冒険者ギルドで荷物持ちクエストの手続きをして、ヒーロはそれを受注すると、依頼主であるレイと共に、デズモンドの街を一緒に回る事にした。


「何が必要なんですか? 俺もこの街はそんなに詳しくないですが、良いお店はいくつか教えられると思いますよ」


 ヒーロはあくまでも初対面の相手としてレイと接する。


「……えっと、ヒーロさんと言いましたよね?」


「はい?」


「どこかで会った事ないでしょうか?」


「え!?」


 ヒーロは早速自分がダークだとバレるのではないかとドキドキする。


「それも最近だった気が……」


 まずい!


 ヒーロは誤魔化す為にとっさに、


「そ、それって、新たなナンパかなんかですか? 俺はそういうのは間に合ってるので、さっさとクエストを完了させましょう!」


 ととぼけて見せた。


「ち、違います! そんなつもりは全くありません! 私にはちゃんと好きな人もいますから!」


 レイはヒーロの言葉に驚くと、自分の言葉を恥じて全力で否定する。


 全力で否定された事でそれはそれでショックを受けるヒーロであったが、それと同時に思い人がいる事がわかってさらに何となくショックを受けた。


(そうだよな。こんな美人だもの、恋人の一人や二人いるよな……)


 ヒーロは傷つきながらそう思いつつ、話が反れた事に複雑な気持ちながら安堵した。


(今は、正体が気付かれないで、手伝いを完了させる事が第一だ!)


 自分にそう言い聞かせて、ヒーロはレイに改めて、買い物内容を確認するのであった。


 レイは少し恥ずかしい思いをしたという感じで顔を赤らめたままであったが、自分の目的を思い出し、顔を手で扇ぎながら冷静さを取り戻した。


「それでは量が多い物から先にお願いします。まずは、お酒を」


 腐らないお酒は保存がきくから辺境では重宝される品だ。


 特にヤアンの村は出来立てほやほやで何もないところである。


 温泉と井戸はダーク=ヒーロが掘り当てたから大丈夫だが、大人達の嗜好品としてもお酒は大切な品だろう。


「──わかりました。それなら、俺がよく荷物持ちの仕事でお世話になっている商会があって、そこが色々なお酒を扱っているのでそこで大量購入しましょう」


 ヒーロは普段からGクエストの関係で街民とは交流が多く、仕事として顔は覚えられつつあった。


 だから伝手をレイに紹介する事にしたのであった。


 知り合いの商会に行くと、商会長が丁度お店にいた。


「お? ヒーロじゃないか。今日も仕事を引き受けてくれたのか?」


 どうやら商会長は冒険者ギルドに荷物運びのクエスト依頼を出していたようだ。


「商会長、今日はお客としてきたんですよ」


「客? その後ろの美人さんとか?」


 商会長はレイの姿に気づいた。


「はい。今日は俺、この人の荷物持ちとして雇われています」


「そうか。それなら、普段のヒーロの働きぶりには助けられているからな、多少負けても良いぞ? わははっ!」


 商会長はヒーロを気に入っているのかそう答えると笑う。


「それでは果実酒をとりあえず、これだけ」


 レイはお金の入った袋を商会長に提示した。


「……こいつは驚いた。この額なら中樽で七つは買えるぞ? そんなに買うつもりかい?」


 中樽は一つで四百から六百リットルが入る量だから結構な量である事がわかるだろう。


「はい。良ければ、サービスしてください」


「ふふふ……、わははっ! これは良いお客さんだな! 店でも始める気かい? ──わかった、一樽につき、一割引きだ」


「もう一声」


 レイは真面目表情で、一言そう答える。


「もう一声? ……そうだな……。よし、あとは最近入った出来の良いお酒の小樽を一つ付けよう。──これでどうだ?」


「──商談成立で」


 レイは真面目な顔から一転、可愛らしい笑顔で応じた。


「はははっ! ──ヒーロ、とんでもなく良い客を連れて来てくれたな! これからもよろしく頼むよ」


 商会長は満足気にそう答えると、ヒーロに酒樽を持っていくように従業員に案内させる。


「他に入用のものがあるかい? うちならなんでも揃うが」


「それでは消耗品などもお願いします」


 と、レイはヒーロがいないところで商会長にその内容を伝えてお願いした。


「……ふむ。これはうちのカミさんの方が、詳しいな」


 そう言うと商会長は奥の部屋にいる奥さんに声を掛ける。


「どうしたんだい、あんた?」


「こちらのお客が消耗品や女性向けの商品なんかを大量注文してくれるというから頼む」


「あいよ。じゃあ、話を聞こうか」


 二人はまたそこで、違う商談を始めるのであった。


 そこに、ヒーロが購入した酒樽を魔法収納に入れて戻ってきた。


「ヒーロ。あのお嬢さん何者だ? 美人だし肝が据わっているし、何より、うちのカミさんのように笑顔が可愛いと来てやがる。あれは男として放っておく手はないぞ?」


 商会長はヒーロの背中を軽く叩いて小声で言う。


「……あはは。あれだけの美人ですから、彼氏の一人や二人いるみたいですよ?」


「そうなのか? 儂の勘ではまだ、独り身だと思ったのだが……、そいつは残念だったな」


 商会長はヒーロがまるでフラれたかのように同情的になって、また、背中を軽く叩く。


「いや、俺、別に関係ないですからね?」


「おいおい、男ならあれだけの器量よし、放っておいたら駄目だろ。まあ、男がいるなら仕方ないが簡単に諦めるなよ? チャンスはきっと回って来るぞ」


 商会長はヒーロを再度励まして発破をかけると、奥さんとの商談を済ませたレイに「毎度あり!」と、笑顔で応対するのであった。

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