7
翌日も雨は止まなかった。
それどころか、窓に叩きつけるような激しさを伴って、僕の睡眠を妨げてきていた。
カーテンを開くと、雨粒が窓を叩いている。次から次へと流れる雨粒たち。悲鳴を上げるような風も窓の隙間から聞こえ、まるで助けを求めているみたいだった。
テレビをつけると、L字に表示された枠の中に台風十三号接近中と大きく見だしが出ていた。その下にはテロップで、電車の運行情報が流れている。
悩ましげな表情をしたアナウンサーが、中継を繋ぎ、ヘルメットを抑えながら雨風に晒されているレポーターに必死に呼びかけている
現在の様子は? 危ないので気をつけてください。
だったら、室内で中継すれば良いものをと、僕はどこか呆れていた。
場面が切り替わる。茶色い水が勢いよく流れ、かかっていた橋の下ギリギリまで浸食している川の様子が映し出される。
『各地で川や海が氾濫しています。絶対に近づかないようにしてください』
リポーターが、必死に訴えかけている。
あの女は大丈夫だろうか。さすがに行ってはいないだろうと思いながらも、不安は拭えない。大家さんがあの川は氾濫しやすいと言っていたのを思い出し、さらに不安が煽られる。
『危ないです。興味本位で見に行かないようにしてください。絶対にやめてください。引き続き、土砂災害にもご注意ください』
見に行こうとしていた僕を引き留めるように、リポーターが繰り返す。
僕はスマホを手に取ると、SNSを開く。行くなと言われても、行く人間は必ずいるはずだ。
まるで自分が記者にでもなったかのように、現場の状況を発信したがる人間はたくさんいる。
検索ワードに地域の名前を入れると、案の定、写真と共にコメントが発信されていた。
外は相当酷いことになっているようだった。
目の前の家が浸水してるだとか、道路が冠水していて困るだとか――
バンッと激しい音がして、僕は肩を跳ね上げる。音のした玄関の方を向くも、何も異常は見られない。多分風で飛ばされた何かが、壁にぶつかったのかもしれない。
僕は再びスマホに目をやる。親指で画面をスクロールし、本当に得たい情報を探す。
やっと川の写真を見つけ、僕はその画像を開く。ニュースで見ていた光景がそのまま、画像になっていた。違うのは橋がかかっていないこと。あるはずの草の生い茂る斜面が、今は汚水で消え去っていること。
本当にあの場所なのかと疑うような光景だった。だけどコメントにはきちんと、あの川の場所を示唆する記載があった。
映っているはずはないと分かっていたが、僕はその画像を拡大して、細部に至るまで見回した。あの女が来ていないと分かれば、それでいい。
あり得ないことを確信に変えるために、僕は必死で痕跡を追う。不安を拭うには行動するしかないのだから。
画像を拡大しては確認し、安堵し、それから馬鹿らしくなる。それを繰り返しているうちに、スクロール画面が進まなくなる。
そんなに呟かれていないこともあって、これで最後のようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます