大家さんに釘を刺されたこともあって、僕はあの川から足が遠のいていた。

 あの女のことが気がかりではあったけれど、また見つかって説教されるのも嫌だったからだ。

 夏休みに入ったこともあって僕は、バイトの時間を増やすことにした。友達と遊びに行きたい気持ちもあったけれど、仲の良いメンツが海外旅行に行くと言ったことで、僕は断念していた。

 海外に行けるような経済状況に、僕はないからだ。父に言えば工面はしてくれるだろうけれど、切り出せるほどに甘えられなかった。

 ひたすらバイトに精を出し、アパートで一人コンビニ弁当を食べて、スマホでSNSを見る。

 みんなが楽しそうに海外を満喫している様子が写真と共に語られる。何の悩みも不安もないような、今を楽しんでいますという表情をした友人たち。一方で僕は、目の前のテレビから流れるバラエティ番組で、心の均等をはかる。

 いいなぁ、羨ましい。

 そんな感情は小さい頃から何度となく、感じていた。だから羨望はしても、嫉妬はしない。

 するだけ無駄なのは分かっているし、母親がいないことに、少しでも負い目を感じないようにしてくれた父に申し訳ないからだ。

 僕はスマホを置くと、コンビニ弁当に箸を伸ばす。大好きな唐揚げを口に運びながら、あの女のことを考えた。

 それから慌てて、思考を振り払う。何だか生臭さまで思い出してしまい、思わず顔を顰める。

 外から雨音が聞こえ、室内の湿度が上がった気がした。僕はエアコンで除湿をかける。

 それからあの女は、今何をしているのだろうか、とまたしても考えていた。

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