021 鹵獲作戦 その3
鳴らなくなった物理爆弾を放置すると、コックピットの横側に設置されているガラーラムのコンソールを弄りだすミロウ。わずかな時間もかけずに、ミロウは手際よくガラーラム本体の自爆装置を解除してしまった。
「サリダ君、自爆装置は解除した。煙幕を張ってかく乱後、ガラーラムを車両に積み込んでくれ」
『は、はいっ!
シャクニクのバックパックから二種類の弾が放物線を描いて飛んでいき、迫る帝国の重機士とミロウ達の間に落下する。
落下後一呼吸おいて弾が自壊し、中から煙のような気体が辺りに立ち込める。
それは光学兵器のエネルギー結合を分解し威力を弱化させて砲撃の意味をなさなくするもの、そして、実弾兵器の弾に接触するとその場で爆発させる物理的な小片をまき散らすもの。
どちらも、未だ帝国では開発されていないものだ。
ガラーラムのコックピットから脱出したミロウはひらりと運搬車両に乗り込んで。
二種類のかく乱弾によって稼いだわずかな時間の間に、サリダはシャクニクを操作してガラーラムを荷台に積み込んで。
『副司令、急いでください! かく乱の効果が無くなります』
二種類のかく乱弾のどちらも空気散布するものだ。風などの対流により効果は薄れてしまう。
――ブォン
車両のエンジンを最高まで吹かす。急加速させるためにアクセルのペダルは限界まで踏み込んでいる。だが、重量のある重機士を荷台に乗せているため、どうしても通常時より速度は下がってしまう。
車両の後方を守るように、敵の前に立ちふさがるシャクニク。通常の重機士であれば速く移動するためには前進する必要があるため、進行方向を向かざるを得ないが、シャクニクは違う。ホバー走行のため、噴出する向きを変えるだけで後方を向きながらの高速移動が可能だ。
頼もしい守護者を背後にミロウは乾いた荒野を疾走するが――
『副司令、追いつかれてしまいます!』
町から離れたとはいえ、未だ全力で砲撃を撃ち込むことができない。威力を落とした射撃で敵の重機士を狙うものの、着弾即破壊というわけにはいかない。
逃げる二人を囲むような布陣もあいまって、ジワジワと距離は詰められていく。
「サリダ君、山間部に逃げ込むぞ。この広い荒野では不利だ」
ミロウは山側に向かってハンドルを切る。
まばらだった木々の数が増え、地形に高低差が生まれてくる。山と言ってもジャングルのような全くの原生林でもなく、人の手が入った事があるのか車両が通るくらいの幅が存在しているため、そこを突っ切って行く。
多少の段差、岩などはものともしないオフロード仕様の車両。倒木などを乗り越えるたびに大きく荷台が揺れてガラーラムが音を立てる。
(山間部の細い道では追ってくる重機士の機数は制限される。目論見通り一度に追われることが無くなったとはいえ、このままではいずれ追いつめられる。それに、この方角を進み続けてはケイルディアから離れてしまう。どこかで迎撃する必要があるな……)
ミロウはモニタに映し出された周辺地図を見る。
この先に射線の通る地形がある。曲がりくねって流れる川が一定の距離だけまっすぐに流れている場所だ。
そこまで行けば、最奥に陣取ったシャクニクが、やってくる重機士を一方的に砲撃できる。
(だが……)
ミロウはわずかな違和感を覚えていた。
(我々が重機士を鹵獲していることはすでに知られていた。6脚のガラーラムは脚を狙撃されてもすぐに落とされない対策だと思っていた。並の指揮官であれば6脚を見た時点で引き返すはずだからだ。だが、コックピット内部には時限爆弾も設置されていた。
そこから読み取るに、私が指揮しているとまでは知られていないが、おそらく相応の頭脳を持つものが指揮していると言うことを帝国軍が掴んでいるということだ。
だとしたら……この先の都合のいい地形に入ることまで読まれている可能性はある。そこに入ったが最後、包囲されて殲滅される、という可能性はある。と、なると!)
「サリダ君、この先の川への布陣は避ける! 反対側の窪んでいる地形を使うぞ」
かつて流れていた川が削り取った崖の先。川の終着点だったかもしれない干上がった湖のような場所。
先ほどの都合よく用意された直線には劣るが、こちらもシャクニクの攻撃の射線がとおる。
迎え撃つための後方左右は、川に削られた崖地形が突き出した壁のようになっていて、まるで城壁の様だとも言える。たとえ崖上に布陣されたとしても、シャクニクなら砲撃が可能。
『了解!』
ミロウとサリダは方向を変え、窪地を目指す。
――――――
――――
――
(そう思うだろ? どこの誰だか知らないが、頭の切れるやつならな)
前線からの報告によって目まぐるしく変わるモニターの情報を受けながら、キジャン大佐は自分の思惑通りに事が進んでいることに笑みを浮かべる。
相手は恐らく頭脳派の効率重視の指揮官。無駄な事を嫌い、行動にムラが無い。それゆえに次に取る行動もまた予想が付く。
それは教えられた知識ではない。キジャン大佐が長年の軍属経験から経験則として掴んだもの。
もちろん並みの指揮官の行動のように予想が立てやすいものではない。高度な読み合いの末に成り立つ細い糸のようなルート。それをこの男、キジャン・グルーニー大佐はやってのけているのだ。
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