020 鹵獲作戦 その2
「いかん、気づかれたか? ガラーラムが離れて行く。逃しはしないぞ!」
『あっ、カザミラ副司令! 待ってください!』
ミロウは、運搬車両のエンジンをかけると深々とアクセルを踏み、逃げるガラーラムを追うため、一人で飛び出してしまう。
武器を積んでいないただの車両。それが一台、敵地で疾走する。そんな危険な行動を止めるため、サリダはシャクニクのハイディングモードを解除し、エンジンをフル回転させて、急いで後を追う。
逃げるガラーラム。追うミロウ。
6脚のガラーラムの移動速度は2脚のボズーとは比べ物にならない。それこそ四輪の車の移動速度以上のものが出る。そんなガラーラムにくらいついて行くミロウ。
追いつくか追いつかないか、着かず離れずの距離を維持している。
『カザミラ副司令、撃ちます!』
スピーカーからサリダの声が聞こえてくる。
「頼む、逃したくはない。左右どちらかの3脚を一気に撃ち抜いてくれ!」
――ギシュゥゥゥゥゥゥゥゥン
返事の代わりにシャクニクの背中の二門の長距離砲が火を噴く。
標的までかなりの距離があったにも関わらず、オーダー通りに向かって左側の足に直撃するが――
「ちいっ、対エネルギーコーティングか!」
砲撃の着弾点であるガラーラムの足の部分で、マグネシウムが燃えるときのように目を焼くような激しい光が発生する。
足に塗られた対エネルギーコーティング膜がシャクニクの砲撃に激しく反応しているのだ。重機士が持つ
『第二射、いきます!』
間を置かず第二射が放たれて、反応を起こし終えて対エネルギーコーティングが無くなった脚3本を撃ち抜いた。
支えを失ったガラーラムがぐらりと揺れ、地面と接触して転倒する……と言う所で、バックパックを吹かして浮遊し、姿勢を維持しながらさらなる逃走を試みる。
「さすがしぶとい! 私が設計しただけのことはある!」
自画自賛。並みの人間であれば嘲笑されて終わったかもしれないが、さすがは帝国の頭脳と呼ばれた男、ミロウ・カザミラ。たとえ多くの人が聞いていたとしても誰も口を挟むことはしないだろう。
『撃ちますか?』
「いや、いい。ガラーラムのバックパックは緊急時の姿勢制御用。長時間吹かす目的のものではない。じきに落ちる」
開発者であるミロウ博士の読み通り、ガラーラムのバックパックの火は徐々に小さくなっていき、ある時を境に消えてしまい……推進力を失ったガラーラムは、体勢を崩しながら荒野と接触し砂煙を上げた。
とはいえ、それなりに粘ったガラーラム。時間にして1分程度だが、それなりの逃走距離を稼いで不時着している。
『敵パイロットが脱出します。威嚇射撃を行います』
逃走を促すための威嚇射撃をこれまでと同様に行うと、ガラーラムのコックピットから出てきた2人の帝国兵は一目散に走り去っていく。
「さすがサリダ君だ! 自爆の解除は任せてくれ!」
全力で追って来たそのスピードを落とすことなく、車両で突っ込んでいく。
ガラーラムのパイロットたちは全力疾走中。
『副司令! 戻ってください! 新たな敵機が複数近づいています』
射撃を終えたシャクニクのレーダーが敵増援の接近を示す。
「なんの、やつらが来る前に自爆を解除して見せる。牽制頼むぞ」
スピードに乗った状態から思いっきりブレーキを踏んで車両を乱暴に止めると、ミロウは運転席から飛び出してガラーラムの胴部分へと入っていく。
人が3人座っても余裕があるくらいの空間。ガラーラムは6本脚の4本腕。そして二本の隠し腕を持つ機体。それら全てを一人で操ることは並みの人間では不可能であるため、コックピットは複座となっている。
「やってくれる……」
そんなコックピットの中を一目見て、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべるミロウ。
それもそのはず。自爆解除のためのコンソールに近づかれないようにと、その前に物理的な爆弾が設置されている。
振動で爆発するタイプの爆弾か、それとも指定時間が来たら爆発するタイプか。どちらにせよ、まずこれを解除しなくてはガラーラムの自爆装置の解除には移れない。
『副司令! 撤退を。時間をかけては囲まれてしまいます!』
胸ポケットに仕込んだ携帯式スピーカーからサリダの声が聞こえてくる。
(しかし、ここでガラーラムを諦めるなどと!)
宝の山と同じ光景がミロウの目には映っている。
このガラーラムのコックピットを構成するコンソール・パネル・コード類・その他細かな部品類に至っても、今のミロウには喉から手が出るほど手に入れたいものなのである。
『副司令、応答を! 5機ずつの小隊が合わせて5! こちらを包囲するように近づいてきます』
全部で25機。ミロウが頭に思い浮かべていた数よりも多い。好立地・好条件で戦ったとしても手こずる数。むろん周囲を包囲された挙句ミロウを守りながら戦うなど自殺行為となる。
(罠とは分かっていたが念入りなものだ。そして!)
「私が逃げずにこの爆弾を解除すること
『カザミラ副司令!?』
これまで無言だったミロウがようやく応答した、と思ったら、何やら理解しがたい事を言い出した。
その発言だけでは説明不足であるため、ミロウの思考の領域まで至ることができず、サリダは意図を読めずにいる。
「サリダ君、迎撃を。私は爆弾を処理してから自爆装置を解除する」
『で、できません!』
「おかしなことを言う。シャクニクの武装と君の腕があれば対応は容易だろうに」
ミロウは、目の前の爆弾の構造を調べながらも、頭の処理の一割程度を返答に回す。
並の人間では行い得ない、並列思考を行っているのだ。
『シャクニクだからです』
「詳しく」
返答を端的に行いながらもミロウの手は動く。
外装に起爆は関連していないと判断し、ゆっくりと爆弾の外装を取り外す。
『シャクニクの主砲、
(爆薬と繋がる起爆装置。コードが24本か。手の込んだことを)
『そして、砲撃の射線上に町があるんです』
「町を盾にしているというわけか。汚いな帝国軍め」
(時限爆弾をわざわざ設置する目的は、解除に来た相手を爆殺すること。爆発が早すぎるとその目的は達成されない。だから爆発までの時間を長く設定し、解除に手間取らせて爆発させる。そのための仕掛けがこのコード。間違ったコードを切ると爆発するのは切るという行為がターゲットがこの場にいることを示しているから。なら正しいコードを切ったなら?)
『それは違うと思います。帝国軍からすれば
(いや、正しいコードなんて無い。私が造るのならそうする。たとえ
『だから撤退を! 今ならまだ間に合います!』
「サリダ君、牽制射撃を。町に影響の出ない地点に砲撃を行うんだ」
ミロウは抑揚のない声で答える。
(そうだ。これは実質はフェイク。どのコードを切っても爆発する。だとしたら)
『りょ、了解。ほ、砲撃開始します!』
詳しく理由を説明した上でのミロウの返答に対して、これ以上は聞く耳を持たないという回答だとサリダは受け止めてしまった。
ミロウが脳の9割ほどを爆弾解除に回しているためだ、という事をサリダは知らないのだ。
(帝国軍はこちらの牽制砲撃には怯まないだろう。包囲までの時間は伸びて数秒。だが、その時間だけで問題ない。なぜなら)
「少し構造がお粗末だったな」
ミロウは、カチカチと音を立てている機構のギアとギアの間に、手に持った細いドライバーを差し込み、爆弾が時を刻むのを
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