019 鹵獲作戦 その1

 ――帝国シーギル地方軍司令室


「これで三機か。決定だな。何者かが我が軍を襲い、重機士を奪っている」


「間違いないですぜ。いずれも無反応状態からの一撃で両足をやられてます」


 点在する中継基地から報告を受けている。これで三件目だ。

 三人の哨戒兵達は、気づかぬままに重機士の足をやられて行動不能にさせられて、命からがらコックピットから抜け出したところを、さらに遠距離からの砲撃を受けていた。

 幸い、重機士よりもパイロットは的が小さいため、砲撃によって命を落とすことは無かったが、いつまでもその幸運が続くわけはないと思い、背を向けてわき目も降らず逃走し、最寄りの中継地点まで全力疾走したのだ。


『あんな攻撃は見たことないっすわ大佐。気づいたら地面に倒れる所なんすよ。さすがにその状態で根性を見せて戦えとか言わねえですよね?』


 音声のみの通信ではあるが、状況把握のために詳細な報告を行わせている。

 主観も交じるため100%正確という訳ではないが、状況は把握できつつある。


「ああ。自爆を忘れたことは目をつぶろう。命あってのものだねだからな」


『さすが大佐だぜ』


「だが! 今後は自爆スイッチを入れてから脱出しろ。鹵獲が目的なら第二射は来ない」


『イエッサー!』


 通信を終え、敵の目的が鹵獲だと断定したキジャン大佐は、速やかに地方軍全軍に対応を通達した。


 ◆◆◆


 ――山の中 ミロウ達のキャンプ地


「さすがに知られてしまったか。皆、自爆を始めてしまったな」


 4機目、5機目の狙撃を行ったものの、これまでとは違いパイロットが脱出した後、倒れた機体は大きな音と火炎をまき散らし爆散してしまった。

 このことはミロウ達が鹵獲を行っていることを敵軍の将校に知られてしまったことを意味している。


 作戦の練り直しと、それまでに鹵獲した三機を一時保管するために山中に作ったキャンプ地に戻ってきたというわけだ。


『もう終わりにしますか?』


 運搬用の特殊車両の荷台からこれまで鹵獲した足の無い帝国軍の重機士ボズーを降ろす作業をしているシャクニクとサリダ。

 通信装置を片手にその作業を眺めているミロウが呟いた言葉に反応した形だ。

 直接対面で話をしているわけではないので、いつものようにおどおどした感じは無い。


「いや、続けよう。あと何機かは鹵獲したい。ボズーの自爆装置にはタイムラグがある。パイロットを追い払った後、自爆装置が起動するまでの間に私が直接解除すればいいだけのこと」


『き、危険すぎます! パイロットが戻ってきて撃たれたらどうするんですか!』


 敵が脱出してから自爆するまでの時間はそれほど長くは無い。

 つまりはミロウは始まる前に車両でそれなりの距離を詰めておく必要があることに加え、逃げるパイロットと鉢合わせする覚悟でボズーまで到達しなくてはならない。


「戻ってこないようにサリダ君が追い払ってくれるんだろ?」


 あっけらかんと言うミロウ。


『ま、まあ、そうですけど……』


 もちろんサリダとて手をこまねいてそれを見ているだけという訳ではない。ミロウが目標を達成するために、ミロウの命を守るために、正確無比な威嚇射撃を行う。


 (信頼してくれるのは嬉しいんだけど、プレッシャーが……)


 とはいえ、危険な作戦を補助することは精神的な負担にもなる。

 失敗したらどうしようという思いは煮汁の灰汁のように湧き出てくるものだ。


「なに、気楽に行こう。釣りだと思えばいいんだ」


『私、釣りやったことありません……』


「そうか、私もないな……。じゃああれだ、テトラ・クロム基水素酸のムガルフォーン反応を観察するってのはどうだ? あれは見てて面白いものだ」


 (この人、励まし方が下手なのかしら……)


 例えが悪すぎて共感できないながらも、フォローしようというその想いは伝わってくると感じたサリダなのであった。 


 ◆◆◆


 ――翌日 山岳地帯と荒野の境目


 昨日と同様に砲撃ソナーによって帝国軍の哨戒機の動きを掴んだミロウ達。相手には鹵獲がばれているはずなのだが、帝国軍に変わった動きは無く、これまでと同じく1機で行動していた。


 『カザミラ副司令、やはり危険です。機会を改めてもいいのではないでしょうか』


 通信機を通してシャクニク内のサリダの声が聞こえてくる。

 元々危険な作戦である上に、昨日と同じ行動を取る帝国軍の意図も不気味である。ミロウの命の事を考えると中止の判断をしてもらいたい、という上申を行うのも仕方のない事だ。


「そうだな……、んっ? あれは!」


『副司令? どうかされましたか?』


 木々に身をひそめながら遠方を望遠レンズで確認する。

 体を前のめりにしても望遠鏡の倍率は上がったりはしないのだが、それでもなおミロウは映し出された像の正体を突き止めようと無意識にそうしていた。


「やはり! あれはガラーラムだ! 饅頭巻きの姿を見た・・・・・・・・・とはこのことだ!」


 興奮を抑えきれない様子で声を出すミロウ。


 ちなみに『饅頭巻きの姿を見た』というのはこの世界のことわざで、『鴨が葱を背負って来る』と同義である。

 饅頭巻きとは、この世界のおとぎ話で語られる妖精的な存在で、作成に手間のかかる饅頭を家主の知らない間に代わりに作ってくれるというもの。もし饅頭巻きが饅頭を作っている姿を見ることが出来たのなら、饅頭巻きは霧となって消えてしまうが、作成していた饅頭が虹色の輝きを放ち、この世のものとは思えない程おいしくなる、と信じられている。

 つまりは饅頭巻きが饅頭を作ってくれるのに加えて、見ることによって美味しいまんじゅうを得ることができ、幸運に幸運を重ねる、ということわざなのだ。


『えっ!? 饅頭巻き!?』


「そうだ、ガラーラムは私が設計した重機士で、そのあちこちに科学の粋を集めたパーツを使っている。つまりは、あれを鹵獲できれば、一層素敵な研究ライフが送れるのだ! サリダ君、狙撃狙撃!」


『ちょ、ちょっと待ってください、ハイディングモードからはすぐに狙撃に移ることはできません』


 ミロウが自爆装置を解除するためには自爆装置が作動する前に無力化した重機士に乗り込む必要がある。敵の射程外から一方的に攻撃していた昨日より必然的に近くに陣取る必要が生じ、その距離まで近づくと敵の重機士のレーダーに引っかかる可能性があることから、その危険性を少なくするため、ジャマーを使ってかく乱するのと同時に、シャクニクのエンジンの回転数を低く抑えるというハイディングモードを取っていた。


「いかん、気づかれたか? ガラーラムが離れて行く。逃しはしないぞ!」


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お読みいただきありがとうございます。

時たま発症する「異世界ことわざ作りたい病」の結果、よくわからない異世界ことわざが生まれましたが、そういうものだと思っていただきますよう、お願いいたします!

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