013 男嫌いの三女神 その1
「聞いてくださいサリダ先輩。私、博士に告白しちゃいました! きゃっ!」
「えっ!? マイちゃん、今なんて?」
「はい! 結婚して子供が欲しいって博士に言いました!」
「え、ええええええええーっ!?」
前線のボナム方面から帰ってきた守護機士シャクニクの
純粋なマイはきっと帝国からやってきたあの博士、ミロウ・カザミラに騙されているに違いない。
悪く言えばチョロいマイに、帝国の頭脳とまで呼ばれた頭の切れを持つ悪の博士。どう考えてもたぶらかされているとしか思えない。「大きくって紳士で、大人なんです! 温かく包み込んでくれるような、そんな感じなんです」というのがマイ談。一夜を密着して過ごしたけど何もなかったから清廉潔白なんですよ、とも言っていた。
もちろんサリダはその発言を鵜呑みにはできない。そのため――
「きっとボロを出すはず。マイちゃんみたいに可愛い子に手を出さないなんてことあるはずが!」
と、物陰から二人の様子を伺うサリダ。
対象はグランドホーン帝国の頭脳と呼ばれた男、ミロウ・カザミラ。そして仲間であり後輩のマイ・クレハ。
マイの話を聞いてから、サリダはミロウの本性を暴こうとコッソリと様子を伺っているのである。
極度の恥ずかしがりであるサリダだが、それを無理やり押してでもマイのために証拠を掴もうと必死なのだ。
両目を覆うほどの長さがあるサリダの前髪。その前髪の隙間から見る視線の先にはニコニコ顔のマイが、ミロウの腕に自分の腕を絡めようとしながら歩く姿がある。
基本、
パイロットスーツさえ着用していれば軍の上着を羽織ることは許されているため、サリダはそうしているのだが、目の前のマイはサリダの目から見ても恥ずかしいあのぴっちりスーツだけを身に着けている。
やめるんだ、と優しくたしなめて絡めてくる腕を解くミロウと、残念そうにそれを受け入れるマイ。話も弾んでいる様子だ。
(さすがに露骨にえ、えっちなことはしてないですね。そ、そうですよね。そんな事したらマイちゃんに嫌われてしまいますからね。見た感じは紳士のように振舞っていますが、マイちゃんがいなくなって一人になったら本性を現すかもしれません)
しかしながら、ずっと監視を続けているが、マイがべったり引っ付いているため、ミロウが一人になる機会はなかなか訪れない。
(マイちゃん、ずっと恋する乙女の顔してる。本気なんだね。って、いいえ、洗脳! あれは洗脳されてる表情。だって、デコピンされても頭にチョップされても、あんなに嬉しそうなんて……。私の知ってるマイちゃんはあんな顔しないよ。むむむ、絶対に証拠を押さえてマイちゃんを救うんだから。おーっ!)
自らを心の中で鼓舞して引き続きスパイ活動に専念する。
もしかしたら人のいない所でいかがわしい事をするつもりなんじゃないか、と思ったものの、二人に気づかれずに入り込んだ物資倉庫でも、用事を装って入った副司令室でも特に二人が何かやましい事をしている場面を押さえることは出来なかった。
(副司令って結構忙しいんですね)
いろんな場所に向かう二人を追跡して、副司令というのも結構忙しいのだなと理解するサリダ。
(でも調査の結果、悪の博士の側面が見えてきました。マイちゃんと違って副司令はずっと疲れた顔をしていて、表情をまったく変えていない。マイちゃんが笑顔を向けたら微笑み返すくらいしてもいいはずなのに、ずっとそのままだった。マイちゃんが大人って勘違いしたポイントに違いないけど、実のところは面倒くさい駆け引きはせずにエッチな事をしたいだけなのかも。むむむ、まだ情報が足りませんね。引き続き調査です!)
マイが早朝勤務を終えて寮に帰っていった昼過ぎの事。
「さてと、サリダ君。時間があるならシャクニクを見せてもらいたのだが?」
(ぴえっ! な、なんで分かったのぉぉぉ!?)
これまでうまく尾行していたはずが、突如ミロウに声をかけられたのだ。
確かに素人にしてはうまく隠れていた。特に注意深くない人ならば、まったく気づかなかったかもしれない。だがバレてしまった。
バレた原因はその隠し切れないほどの胸部。物陰からはみ出た胸部を不審なものと勘違いされて、ミロウに注意を向けられてからはバレバレだったのだ。
「あのっ、そのっ、すみません!」
壁の裏。隠れたまま謝罪する。
「なに、気にすることはない。個人の趣味はそれぞれだ。それよりもシャクニクをだな」
物陰から
だが、ミロウが自分の方を向いているのを見て、しゅっと物陰へ戻ってしまう。
(だめ、だめ、だめ、見られてる。見られてるよぉぉぉぉ!)
「どうしたんだ? サリダ君?」
ミロウが近づいてくる。
(見られちゃう、見られちゃうよぉぉぉぉ!)
サリダ・ヴァーレン16歳。年齢に相応しくない体つき、特に小さなころから胸の発育が良く、皆から事あるごとにじろじろと見られたため、人の視線に極端に敏感になり、人の視線から隠れるようになった。特に男の視線から逃れるために隠れている様子から、マイには人見知りだと思われているのだ。
本人は人見知りだという認識はないのだが、恥ずかしさのため人と距離をおいてしまうので、結果同じことになっている。
そんなサリダはもちろん男性に免疫が無く、女性以上に過剰な反応を示してしまう。
「あっ、あのっ、シャクニクですね、分かりましたからこっちに来ないでください!」
「おお、了承してくれるか! ありがたい! メーケルゲンはオーバーホールで
カツカツと廊下を進んで来る音がする。
背中ごしにその音を感じているサリダだったが――
「ひやぁぁぁぁぁぁぁ!」
男性が近くに寄ってくるという恐怖感に負けて、サリダは背を向けて一目散に走り出してしまった。
後姿でも分かるほどにその胸部が揺れているのだが――
「あ、おい、サリダ君! サリダくーん!」
そんなことはミロウには関係なく、貴重なシャクニク観察の機会を失うまいと必死に後を追いながら、いかに守護機士が凄いのか、シャクニクを見たいのかを語り掛けるのだった。
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