006 脱出戦 その2
メーケルゲンの腕を操作し、バックパックに取り付けられていた武装を手に取る。携帯性に優れるサブマシンガンタイプの銃。メーケルゲンは
バックパックのブースターを0から一気に全開にする。
タイムラグはほとんどなくブースターが火を噴き始め、それと同時に二人の体に重力がかかる。
狙うは11時方向、3機のボズーの小隊と5機のボズーとマッケイの混合小隊が位置取る
「しぃぃぃんせくしょぉぉぉんましいぃぃぃぃんがぁぁあぁぁぁぁん!」
手に持ったマシンガンの射程内に敵が入った時、マイはそう叫んだ。
まるでアニメの主人公が必殺技の名前を叫ぶかのように。
ズルリとシートから滑り落ちそうになるミロウだったが、弾が実弾ではないことに気づく。
(エネルギー弾か。そのカートリッジで何発撃てるのだろうか)
シンセクションマシンガンの銃口から発射された無数のエネルギー弾が3機のボズーへと迫る。前方に位置取る2機のボズーが四角く武骨な形体のシールドを構えエネルギー弾を迎え撃つ。
実体弾ならば完全に防げたのかもしれない。だがマイの放った弾丸のいくらかはそのシールドを突き抜けてボズーの本体装甲に到達していた。
「やぁぁぁあぁぁぁ!」
間を置かず、右手側に位置する5機に向けてマシンガンを放つ。
こちらは牽制の意味もある。一度に5機全てを撃破するのは不可能。突破が目的なので撃破する必要もない。隊列を崩し、逃走に必要な隙間を広げるのが目的だ。
「えねるぎぃぃぃぃせえぇぇぇぇぇぇっっとぉぉぉ!」
空になったカートリッジがマシンガンから排出された後、バックパックに取り付けられた変えのカートリッジを器用に装着する。
(ふむ。目視で弾数を確認するのは難しいが、モニタに表示されているじゃあないか。弾数は1500。20秒ほどで打ち尽くしたことを考えると、1分間で4500発か。結構なものだ)
ミロウは落ち着いて分析を行う。
左手側の3機のボズーの内、後方に控えていた小隊長格のボズーがバズーカ砲を抱えている。旧世代型重機士の武器は主に実弾兵器。例にたがわず包囲に参加した重機士もそのようだ。
煙を吹いて膝をつく2機のボズーの後ろからロケット弾が撃ち込まれる。
それを見逃すマイではなく、進行方向を変え直撃コースを避けたことにより、ロケット弾はメーケルゲンを素通りしていく。
だが、その先、移動後の場所を狙うかのように他の敵機から銃弾が浴びせかけられる。
それを回避するのと当時に狙いを絞らせないようにするジグザグ回避運動を行わざるを得ないことで、メーケルゲンの突破スピードが極端に下がってしまう。
結果、一点突破をするという当初の目的は果たせず、ジワジワと小さくなる包囲網の中を残された武器で乗り切る必要に迫られる。
「くうぅ、コスモプロミネンスが使えさえすれば」
「武装か? 名前からして攻撃用だと思うが」
「はい。メーケルゲンのコスモリアクターの出力を最大にしたときに使える必殺の武器です! だけど、今のメーケルゲンの出力じゃあ……」
「ないものをねだってもしかたがない。今できることを――」
――どおぅぅぅっ
「きゃぁっ!」
「ぐっ!」
至近距離にロケット弾が着弾し、その余波で機体に衝撃が走る。
――パンッ
「きゃんっ!」
そんな中、手と手を合わせたときのような、拍手のような、そんな音が小さく一つコックピットの中で聞こえると同時にマイが悲鳴を上げた。
「す、すまん! 手が当たって!」
珍しく釈明に追われるミロウ。
それもそのはず、着弾の衝撃でマイの尻は浮かび上がり、同時に体勢を崩したミロウの手のひらが宙を舞った尻を
――どおぅぅぅっ、どおぅぅぅっ
「うんっっ!」
動きを落としたメーケルゲンを撃破するためロケット弾の嵐が襲う。
そのたびに浮かび上がったマイの尻は、ミロウの平手打ちの洗礼を受けることになってしまう。
(このままではいかん)
「マイ、動きを止めるな!」
ミロウは跳ねるマイの体をしっかりと抱き留めると、その腰に自分の手を回して体を固定する。壊れたシートベルトの代わりをするためだ。
「マイ?」
返事の無いマイ。衝撃で気を失ったのかもしれないと思い、急いでその様子を確認する。
ぐいっとのぞき込んだ先。そこにはハアハアと息を粗くして顔を赤らめたマイの顔があった。
『コスモプロミネンスの発動が可能です』
突如コックピット内に
(どういうことだ? 出力が戻ったのか? いや、今はそんな事よりも)
「マイ、しっかりしろ! コスモプロミネンスとやらでこの窮地を脱出するんだ!」
「は、はいっ!」
体をゆすられ大声を浴びせられ、ようやくマイは正気に戻る。
「フォルゲムコートも発動できるようになってる! だけどここを乗り切るには!」
マイは正面に向き直り、キッと敵を見据える。
ミロウはそんなマイの体をしっかりと支えている。
「ECクリットネス解除! エルエム・メンタル値基準以上!」
コンソールを操作し、その状態を声を出して読み上げるマイ。
さすがのミロウもマイの操作する速さで初見の画面内容を読み解くことは出来ない。
「コスモリアクター、フル、ドラアァァァァァイブ!!」
右手側にあるエネルギー制御用の取っ手を力任せに最大ゲージまで上げるマイ。
それまで聞こえなかったエンジン音と振動がコックピット内まで伝わってくる。
(これがコスモリアクターとやらの臨界か。軽く見積もってボズーの7倍はあるな。帝国の重機士が太刀打ちできない訳だ)
「こおぉぉぉすもぉぉぉぉぉ! ぷろみねぇぇぇぇぇぇぇぇんすぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
響き渡るマイの絶叫。
その声は周囲の音をかき消して、ミロウの中をマイの声一色に染めあげる。
機体から溢れ出るほどの高濃度のエネルギーが目視でも確認できる。メーケルゲンが赤い炎に包まれているかの様だ。その姿は太陽光が屈折する際に、溢れ出すエネルギーによって赤色だけを通さないことで発生している現象によるものだ。
「おぉぉぉぉばぁぁぁぁぁぁぁぁ! ふぁいあっっっっ!」
ミロウはこれまでで一番の重力を感じた。
ぐぐぐと体がシートに押し付けられる。その上、膝の上に乗っている小柄な少女の体重が一気に何倍にもなって襲ってくる。気絶しそうなほどの重さ。
それでもミロウはマイの体に回した腕を離すことはしない。彼女のために体勢を維持しようと決めたのだから。
メーケルゲンの姿は残像となり揺らぐ。
遠くから見ればまるで赤い帯が一瞬にして前方に伸びて行ったように見えただろう。
その答えはエネルギーを身に纏った超速の体当たり。
その残像は溢れ出したエネルギーがその場に残ったもの。
赤い帯の先端。技を出し終えた後のメーケルゲンの後方で8つの爆音が聞こえた。
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