第351話『若き織田家の跡継ぎ信忠の決断(左近のターン)』
【織田信忠の視点】
雑賀孫一の銃弾によって、
若干18歳の青年であっても、元服は13歳と若き頃からだ。織田家の次期後継者として戦場を駆けている。
石山本願寺攻めで、銃撃された信長と共に、
【武田家の視点】
一方、鶴岡山の猛虎・下条智猛を
武田勝頼率いる本軍は、遠山一行の守る明知城を、岩村城の秋山虎繁に包囲させつつ、自身は、同じ恵那地方の
武田本軍の勝頼が、秋山虎繁と合流し総勢1万5000の兵で明知城を取り囲んだ。
【信忠の視点】
籠城する明知城の遠山一行の命脈は風前の灯である。
城に500人、
一行は、ただ、ひたすらに、籠城して、ひたすらに織田家の援軍を待つのみである。
およそ風前の灯となった明知城の遠山一行が、粘って、粘って、信長への援軍要請から10日ほど経ったころ、
八王子神社に陣をはる信忠は、明知城援軍の越えねばならぬ壁、鶴岡山に翻る”赤備え”山県昌景の赤地に
信忠は、軍配で鶴岡山を指示して言った。
「アレに見えるは、山県昌景の旗印である。我らの敵は、武田の”赤備え”だ」
陣所に居並んだ、蜂屋頼隆は震えあがった。
(なに、我らの相手はあの山県昌景とは聞いて居らぬぞ)
信長の乳兄弟、池田恒興、信長親衛隊・
織田家の陣中で、血気盛んなのは信長の信任厚い重臣の父・
森長可は、若くして頭角を現した。わずか15歳で、家老衆の羽柴秀吉、丹羽長秀、原田直政と同列で発給書状に連名している。
つづく、伊勢長嶋一向一揆にも、その才覚が認められ、信忠の側近として、将軍足利義昭の裏切りで起こった信長包囲網にかかわる槙島城の戦いで戦果も挙げた。
その武勇の
その妻は、池田恒興の長女・せんである。
この”せん”も、なかなかの女傑で、父・恒興に付けられた女武者200人の銃士隊、いわば、鉄砲隊を率いて戦場に出て夫、顔負けに戦場に臨んでいる。
長可とせんの夫婦は、互いに、勝気な性格で、喧嘩は絶えなかったが、いざ、戦となれば、敵を倒すために一致団結して槍と鉄砲で数多の命を
信忠は、信長の乳兄弟の池田恒興とその娘せん、夫の長可。信長の新鋭隊長を務めた、河尻秀隆が
長可は、一寸二分(およそ3.6センチメートル)の十文字の名槍・
「若殿、オレに自由に動く権限を与えてくれれば、”赤備え”の山県昌景の首を挙げてみせるぜ!」
と、息巻いた。
長可の
「こら、長可! 相手は、あの武田信玄直伝の軍法を身に着けた山県昌景ぞ。お主が蛮勇に走って、もしものことがあっては、ワシの
長可はケラケラと笑いながら答えた。
「
恒興は、長可を抑え込むように、小言を重ねる。
「長可、お前はワシの心労がわからぬのか」
(まったく、長可は無鉄砲な大馬鹿者だ。お前が早くおとなになれば、織田家の跡継ぎとなる信忠様の家中でワシの立場は安泰となる。もし、長可とせんに娘が出来れば、いずれ生まれる若殿の嫡男と
長可はなんとなく、恒興の腹を読み取って、あっけらかんと言った。
「舅殿、そりゃ無理だ。娘御のせんもオレと同じ考えだぜ」
恒興は、呆れて、自分の膝を叩いた。
すると、黙って聞いていた河尻秀隆が口を開いた。
「若殿、眼前の山県昌景を突破せねば、明知城への援軍は叶いますまい。
(恒興、お前ばかりに、若殿の信任を任せる訳にはいかぬ。ワシも大殿から、若殿の戦の全権を預かる身。頼りないが息子の秀長の将来の見通しも立てておきたい。そう易々と出し抜かせぬぞ)
河尻秀長は、今年、25歳になる。信長の新鋭隊長を務めた秀隆の嫡男ではあるが、エリート育ちのためか、少し傲慢なところがあり、かと言って武将として優秀かと言われれば怪しい。その武功の多くは、父・秀隆の武勇に付き従い挙げた手柄がほとんどで、長可とは真逆の性格である。
織田家の次期後継者に付けられた信長の信頼厚い家老、池田恒興と河尻秀隆もどちらが筆頭になるか、自分の跡を継ぐ息子たちの行く末も固めておきたい思惑もあるのだ。
すると、黙って信忠付きの家老が争うのを明智光秀が制した。
「恒興殿、秀隆殿、そなたたち双方の考えもわかる。が、此度は、厄介な”赤備え”が敵だ。どんな戦を仕掛けてくるかわかったものではない。用心してかからねばならぬ」
信忠は、光秀の鶴の一声に家老同士の争いに光を見たように、活眼して、鶴岡山を指さし睨んだ。
「光秀の申す通り、敵は武田の”赤備え”山県昌景だ!」
【織田家の援軍を迎え撃つ山県昌景隊の視点】
その頃、鶴岡山の砦では、勝頼の理不尽な
左近が、顎を摩って、傍らの智林に尋ねた。
「智林殿、織田家の大軍を目にすると、どう料理したものかワクワクせぬか?」
智林は、困ったような顔をして答えた。
「左近様、私は、まだ
左近は、智林に一本取られたといった表情で笑って、智猛を見た。
智猛は、ニヤリと左近に歯を見せて答えた。
「左近殿、私の願いも智千代(智林の幼名)と同じにございます。出来ることなら、私は、片田舎の鶴岡山の地侍として平和に生きたいと思っております」
左近は、やっぱり困った顔をして、織田家の陣所を指さして答えた。
「そうだ、戦がない世の中が一番良い。だが、ふりかかる火の粉は、払わねばならぬ。そうだろ智猛殿」
智猛は、智林と左近にしっかり目を合わせて答えた。
「いかにも、鶴岡山にかかる火の粉はすべて消さねばなりませぬ」
と、そこへ、武田家の風林火山の旗印を背負った伝令が駆け込む。
「伝令、若殿(勝頼のこと)より伝令です。明知城の重臣、
と、伝令は告げると、左近に寄って、傘の
「段蔵ではないか」
「へい」
つづく
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