第5話山県昌景のスカウト(戦国カケルのターン)
「小僧よ、よくぞ申した気に入った。その、山県昌景がこのワシじゃ。どうじゃ、北庵殿が御舘様(武田信玄のこと)の側へおる間だけでもワシに仕えぬか? 」
馬上の山県昌景がカケルに言った。一四〇センチメートル足らずの小男のくせにどこからその自信が湧くのかわからないが、なんとも云えない自信がある。
「へっ?! 」
だが、カケルはまだ
山県昌景は、カケルを見据えて、
「左近殿、ワシはお主のような豪の者が我が隊に欲しかった。どうじゃ、ワシの元へ来ぬか? 」
山県昌景の言葉は男惚れするような腹の底からうったえる熱い言葉であった。平成育ちのカケルもこの口説きにはシビれた。
「わかりました山県のおじさん。そこまで言うならボクは時代劇にエキストラとして出演します」
「出演?! エキストラ?! そなたは
カケルは、かる~く、こたえた。
「OK! 」
――
北面に霧の諏訪湖を望み、南に中山道下諏訪の街道を要した小高い
その高島城の評定の間にて信濃から三河への城と街道の絵地図を広げ軍義を開く上座の山県昌景に、居並ぶ武田の武将たち。末席に、カケルこと嶋左近も加わっている。
山県昌景が、居並ぶ武将たちに語りかけた。
「さて、こたびの戦は、昨年、京の室町幕府の将軍、足利義昭公よりの
山県昌景の左に控える、獲物を狙う虎の目をした侍がこたえた。
「我が山県殿を大将とする美濃(現在の岐阜県)、三河攻略軍七○○〇は、ワシ、秋山信虎が兵二○○〇をもらいうけ、これより、美濃、岩村城を攻め申す。山県殿五○○〇は、岐阜の織田信長からの援軍に備えるべく後詰めとして牽制願いたい」
「ウム」
山県昌景は秋山信虎の提案に静かに頷いた。
秋山信虎はさらに話をすすめた。
「だが、1つ問題がござる」
山県昌景は眉をひそめてむずかしい顔をして、
「我が赤備えの騎馬隊の馬の調達であるな」
「さようにござる。甲斐、信濃、武田の領内は馬産地でありますが、こたびは、例のあの巨馬の邪魔が入って馬狩りに失敗いたした。あの馬をなんとかせねば馬の調達ができませぬな」
秋山信虎の進言をうけた山県昌景は頭をひねった。
「ウム、どうしたものか難儀である……」
山県昌景は、ズラリ居並ぶ武将たちをながめたが、皆、この問題のやっかいな馬の扱いに困って目を伏せている。だがしかし、カケルは問題のむずかしさを感じておらず話半分に山県昌景と目が合った。
「おお、嶋左近殿、我らが手こずる例の巨馬の扱いに、よほどの自信があると見える。どうじゃ、左近、お主やってみぬか? 」
「イイッスヨ! 」
カケルは、ゲームのイベントをこなす感覚でかる~くこたえた。
カケルの二つ返事に山県昌景は気を良くして、
「さすが、ワシが見こんだ嶋左近じゃ、この巨馬と馬狩りの一件任せたぞ! 」
――霧の諏訪湖半。
足の低い草が生える原野。
カケルは、山県昌景につけられた一〇人ほどの足軽を連れて馬狩りへやって来た。
馬狩りになれた足軽の進言に従い、
辺りは諏訪湖の
ヒヒーン!
遠くで馬のいななきが聞こえた。
「来たぞ! 悪魔の馬が! 」
そのいななきに足軽たちに動揺が走った。
霧の中に浮かぶ黒い影。
「あれは六尺三寸はありますな」
いつの間にかカケルに寄り添った足軽がそう目算を言った。
「デカいなあ」
カケルは、ゲームのイベントと信じているから子供のような声を漏らした。
足軽は、
「さすが、あの山県殿に気に入られた嶋左近殿。豪気なことでございます」
耳を澄ますと
やがて、先頭の巨馬が姿を現した。
巨馬は足軽の目算通り二メートルをはるかに越える漆黒の巨馬だった。背景の霧に隠れて馬群の馬の大きさはわからないが、この馬はひときわデカイ。
漆黒の巨馬は、荒れた
漆黒の巨馬のいななきひとつ、で足軽たちは恐れをなして逃げ出さんばかりである。
カケルに寄り添った足軽だけは違った。囮の馬へヒョイと飛び乗ると、セイヤッ! 一ムチくれて駆け出した。
「左近殿、ワシが巨馬をけしかけます。突っ込んで来たのを見計らって、絡めとっていただきたい」
「了解! 」
つづく
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