第3話ネトゲで寝落ちしたらイキナリ戦国(カケルのターン)
「おい小僧、起きよ! 」
「……母さん?! (おっさんの声だったような、今日は父さんが起しにきたか)」
「おい、起きぬか小僧よ!」
「しつこいな、父さん!」
カケルは、ガバッとはね起きた……。
「ここはどこ?!」
目をあけると、一面に広がる緑に囲まれた土の道、
「ここは信濃の国諏訪の町である。小僧よ」
と、言ってカケルの目の前に、馬に跨がった真っ赤な陣羽織を着た小柄なチョンマゲ侍が供連れを連れて立っている。
カケルは、目の前に広がる非現実に面食らって、キョトンとした口調で小柄な侍へ尋ねた。
「あの~、見ず知らずの方に何度も失礼しますけど、ここはどこですか? あの、時代劇の撮影かなにかでしょうか? 」
小柄な侍は、なにを言い出すのだこの若者は、と言う、表情でナマズヒゲを指でつまんで、
「小僧よ、お主なにも知らぬのだな、まさか、徳川の
「いいえ、徳川病院の患者ではありません」
カケルは真顔で応えた。
小柄な侍は、カケルの返答に小首を傾げて、一呼吸おいて「あやしい奴だ! それ、引っ捕らえよ!! 」と供連れへ目配せした。
すると小柄な侍の3人の供連れ侍が、一斉にカケルへ打ちかかった。
カケルは、慌てて立ち上がる。
立ち上がったカケルはおよそ五尺(190cm)はある大男だから、三尺六寸(140cm足らず)の親子ほど高さのちがう小柄な侍をはるかに見下ろした。
「おお、なんと
小柄な侍の号令で、供連れ侍が再び打ちかかり、左右からカケルの腕に組み付いた。
カケルは振り払おうと、
すると供連れ侍たちは簡単に降り飛ばされた。
「なんと言う、剛力じゃ、このような者が徳川にはおるのか、ええい! 槍をつかえ!! 」
小柄な侍は、目を丸くしてつぶやいたかと思うと、その理知と、判断力で、すぐさま号令をかけ直した。
供連れ侍は二メートルほどの手槍をつかんでカケルへ打ちかかった。
シュッと槍の穂先がカケルの腕をかすめた。
スッと切り傷になり赤い血が流れた。
「マジか! ちょっとタンマ! 絶対、おじさんたち人まちがいしてる!! オレは出演者でもなくてただの高校生だから!!! 」
「皆の者、少し待て! 」
それを聞いた小柄な侍が供連れ侍を制した。
小柄な侍は、いぶかしながらもカケルの真意を問いただそうと、
「高校生? 聞きなれぬ言葉じゃ。言葉遣いを聞くと、三河者のようではない。小僧よ、どこの生まれじゃ? 」
「オレは、奈良の平群郡の時生カケル! 高校3年生の17歳! 」
「奈良とは……、あの、大和の国か? 」
「そう、大和の国! 東大寺の奈良の大仏知ってるでしょう? あそこ! 」
小柄な侍は、少し、首をひねってなにか思い出すそぶりから、なにか、閃いて、
「大和……大和と……、お主、もしや、医師の北庵殿の供連れか? 」
「あんた、北庵先生知ってるの!? 北庵先生の娘がオレの同級生! 」
「おお、お主は北庵殿の供連れか、それは良かった。徳川の者にこのような豪の者がおってはワシらも枕を高くして寝ておられぬところであったわ。 だが、北庵殿の供連れの名前はたしか、嶋左近であったような……」
「嶋左近? それならオレはゲームでやってるよ。おじさんも関ヶ原やってるの? 」
「関ヶ原か、(小柄な侍は、思い出すように遠い目をして)美濃と北近江の国境、たしか、織田信長の家臣、あの、稲葉山城乗っ取りで名を上げた羽柴秀吉の軍師、竹中半兵衛の領地で、古くは、不破の関と呼ばれた古戦場の地であるな」
「おじさん歴史マニアだね」
「マニアとはなんじゃ? 」
「おじさん英語ダメなの? ま、くわしいってことかな」
小柄な侍はかぶりをふって、
「ワシなどは、武田家中では戦働き専門のイノシン武者の部類じゃ。勉学ならば、海津の高坂弾正には遠くおよばんて」
「高坂弾正って、武田信玄四天王の高坂昌信のことでしょう? 」
小柄な侍は目をほころばせ、
「ほう、武田四天王の名は遠く大和の国まで聞き及んでおるか」
カケルは得意の歴史の話で思わず身を乗り出して、
「歴史マニアの間じゃ武田四天王は常識。鬼美濃こと馬場美濃守信春。弓取りこと内藤修理亮昌豊。逃げ弾正こと高坂弾正忠昌信。大取りは、武田の代名詞、武田の赤備えの山県昌景!」
小柄な侍は「ほう」と、顔のほころぶのをこらえるように口をとがらせ頬をこけさせナマズヒゲをなでた。
「小僧よ。その、最後の山県昌景とやらの評判とやらはどうじゃ? 」
「武田四天王の中じゃ1番カッコいいですね! 」
そう聞くと、小柄な侍は、パッと喝采して、
「小僧よ、よくぞ申した気に入った。その、山県昌景がこのワシじゃ。どうじゃ、北庵殿が御舘様の側へおる間だけでもワシに仕えぬか? 」
つづく
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