第2話ネトゲ「関ヶ原」プレーして寝落ちをしたら……

  ――午前一時。


「聞け! 武士もののふどもよ! 先陣はこの嶋左近がつかまつる。狙うは徳川家康の首ただ一つ!いざ、参らん!」


 薄暗い一戸建ての2階屋。机にはスクールバックが放り投げられ、学生服はベットへ脱ぎ捨てられている。高校三年の時生ときおカケル(17)は、今夜も夜どうしゲームに没頭してこの時間だ。


 カケルは、歴史シュミレーションゲーム「関ヶ原」にはまっている。


「関ヶ原」は、日本を統一した豊臣秀吉の死後、禁止されているはずの大名どうしの勝手な婚姻など、卑怯な手段ばかりを使う憎っくきたぬきオヤジ徳川家康に、ジワジワと豊臣家の天下を乗っ取られて行く時流中で、卑怯な手段は選ばない不器用な石田三成を、軍師、嶋左近に成って、助言し、時に戦場の先鋒に立ち形勢をひっくり返すゲームだ。


 カケルは、学校で勉強も、スポーツも、恋愛でもイマイチ活躍できない自分に何がのこるかを考えた時、小学生のころからなぜか社会だけはデキたから歴史ゲームにだけは希望をもった。


 "義に生き石田三成を支えて歴史をひっくり返す!"


 それが、カケルの存在意義なのだ。



 学校でのカケルは、影だ。目立たない、卒業したら40人クラスの同級生たちはみんな彼の存在を忘れてしまうだろう。こないだ撮影したクラスの卒業写真も、実行委員の女子が選抜した写真には申し訳程度にクラスの陰キャラグループにまざった写真1枚だけだ。


 あとのページを埋める写真は「こいつら卒業したら絶対黒歴史になるぞ! 」と心配したくなる寄り添うカップルがもう少しでチューしますよの間にハートを描いたラブラブ写真だ。ま、カケルのモンモンとした不満は本文とは関係ないのでおいておこう。



 さて、影なるカケルにも青春はある。偶然にも高校3年間同じクラスで憧れていた北庵月代ほくあん つきよ(17)に卒業までに告白しようと気持ちをあたためている。


 月代は、お母さんの方針らしく炭酸飲料は骨がととのう20歳までは飲まない。他にも、年頃の娘が憧れる茶髪、眉を剃りととのえたりも禁止されているようだ。かと言って、粗雑そざつな顔立ちではない。肩にかかる長い髪に、意思の強いキリリッとした眉に輝く大きな二重の瞳、鼻はスラリと決まりよくおさまっている。お嬢様育ちで世間知らずで天然なところがあるものの大事なことはしっかり主張する意思の強さをもつ。


 まさに、カケルの憧れなのだ。



 ……憧れ。


 カケルは体育大会のあとに教室へ貼り出した月代を含めたクラスの写真をこっそり誰もいない時にスマホに撮って、勝手にトリミング編集しコンビニでプリントアウトして机の写真立てに彼女のつもりで飾っている。



 カケルは、影だがブサイクではない。かと言って、男前ではもちろんない。体型は細マッチョ、とくにクラブもやっていないが、月代の目を勝手に意識して週一で腕立て、腹筋、背筋、スクワットを20回ワンセットしている。


 顔立ちは、小綺麗に短髪をワックスでボリュームをもたせている。目は細めで意思は感じるのだが、これまでこれと言った、成功体験がないからか自信満々の光りはない。鼻はシュッととおり、口元は真一文字。なによりの特徴は、サルのように大きな耳だ。


 カケルはその大きな地獄耳で、歴史の時間に月代がポツリと言った「戦国武将って強くて自信にあふれてかっこいいかも! 」の言葉を聞き逃さなかった。



 卒業までに月代に告白したいとは先に書いた。だが、カケルは自分に自信がない。そう関ヶ原にハマったのは、石田三成をささえ戦の華と散ったおとこ嶋左近の生き様に月代の理想の男像を妄想したのだ。


 カケルは、「ま、精神だけでも左近に近付こう」と、関ヶ原をプレイする。


 ――午前二時。


 カケルも、そろそろ限界だ。コントローラーを握りしめて寝落ちしてしまった――。




 ――空が白んで夜が明けた。たぶんブラインドから朝陽が射し込んで来た。カケルはあと5分寝たいと寝返りをうった。


「おい、そろそろ起きぬか! 」


「母さん、もう少しだけ……」


「おい小僧、起きよ! 」


「……母さん?! (おっさんの声だったような)」



 つづく。













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